日医ニュース
日医ニュース目次 第1047号(平成17年4月20日)

土屋常任理事に聞く
平成18年医療制度改革に向けて
〜日医のスタンスと主張〜

 今回は,厚生労働省の社会保障審議会医療部会等の各種会議に参加して議論に臨んでいる土屋常任理事に,先日立ち上げた『糖尿病対策推進会議』と,交通事故診療における個人情報保護法への対応と合わせて,一問一答を試みた.

土屋隆常任理事に聞く/平成18年医療制度改革に向けて/〜日医のスタンスと主張〜医療計画について

Q 医療計画の目的と基準病床数制度の位置づけは?
 医療計画は,医療資源の有効活用や機能連携を確保することが本来の目的です.そのため,地域の医療施設の機能連携や整備目標,救急・へき地医療の確保,医療従事者の確保などが計画の記載内容とされています.
 「基準病床数」もその一つですが,実際の病床数が基準病床数を上回っている地域では,実質的に病院の開設や増床が難しいことから,“病床規制”と呼ぶ人もいます.
 医療計画では,医療圏単位で各病床区分ごとに基準病床数を設定します.
 ただし,一般病床と療養病床は,それぞれ別個に算定し,その合計をもって一つの基準病床数とするのが本則です.さらに,両病床の区分が定着するまでは,一体で算定する経過措置がとられてきました.
 日医では,この経過措置の存続をずっと主張していますが,それは,医療機関が地域のニーズの変化に応じて,一般病床を療養病床へ,あるいは,療養病床を一般病床へ柔軟に変更したりできるようにするためです.
 経過措置は来年三月末までですが,一般病床・療養病床の相互の「行き来」は可能ですので,今後も,この仕組みの継続に努めていきます.

Q 一般病床と療養病床の基準病床数の算定ではどのような主張をしましたか?
 検討会では,「病床削減」という国の意図が明らかななかで議論がなされました.特に,一般病床では,平均在院日数の短縮,急性期病床への特化による病床の削減が策されていました.
 これに対し,一般病床は,地域のさまざまな医療ニーズに対応可能でなければならず,基準病床数も,地域の実情を反映することができるようにすべきであると強く主張しました.その結果,算定式中のプラスの係数である「流入患者数」において,知事の裁量で実数を超えた数を設定できるという規定を盛り込むことができました.療養病床でも同様の扱いです.
 新しい算定式案は,先日までパブリックコメントが募集されていましたが,来年四月に施行される予定です.

Q 医療計画に関する今後の論点は?
 平成十八年の医療制度改革に向け,国と地方の役割,施設完結型から地域完結型医療への移行等をテーマに,現在議論しています.
 そのなかで,日常医療圏という概念が打ち出されるとともに,主要疾病ごとに診療ネットワーク(NW)を築く構想が示されています.当初,厚労省は,行政が指定する拠点病院等を中心にNWの構築を考えていましたが,それは逆で,まず,地域の医療資源を最大限生かしたNWの構築を行ったうえで,必要な拠点病院を指定すべきであると主張しています.
 今後も,医療連携が真に行われ,かつ,地域医療が行政の統制下に置かれることのないよう,地域の実情に応じた枠組みを設計すべく議論に臨んでいきます.

医師の需給について

Q 厚労省「医師の需給に関する検討会」に,どのような姿勢で臨んでいますか?
 医師の偏在,人員配置基準および検討のあり方の三点に問題意識を抱いて臨んでいます.
 医師の偏在は,地域,診療科,施設で起きています.勤務医の開業年齢が早まる一方で,特定診療科では手術等が不可能になることも懸念されます.不足な所と過剰な所との均衡を図るための議論をすべきです.
 人員配置は,本来個々の医療機関が地域の特性に合わせ,「身の丈に応じて」設定できるものでなければならず,医療法の規定は,あくまでも最低基準(標準)に徹すべきです.しかし,医師偏在の要因ともなるその規定は,戦後GHQの下で制定されて以来,ほぼ同じ姿であり,今後は,見直しも視野に入れた議論が必要だと主張しています.
 以上を踏まえ,医師需給の検討には,「医療費削減ありき」ではなく,局地的局部的な医師の偏在の解消という喫緊の課題と,将来の医療提供体制の構築という長期的課題とを同時に見据えた議論がなされなければなりません.
 なお,「医師の適正数ならびに配置」については,日医総研で調査研究させるべく準備検討を行っています.その節には,調査へのご協力をよろしくお願いします.

糖尿病対策について

Q 糖尿病対策推進会議を立ち上げたとのことですが?
 糖尿病は,今や国民病と称しても過言ではない状況にあることから,平成十七年二月に日医,日本糖尿病学会,日本糖尿病協会の三者で「糖尿病対策推進会議」を立ち上げました.
 糖尿病は自覚症状がないために受診しない,あるいは治療を中断する人が大勢いることに問題があります.かかりつけ医機能の充実はもちろんのこと,受診勧奨,事後指導の充実,病診連携が重要であり,診療の質の向上も求められます.看護師,管理栄養士などとのチーム医療も必要です.
 糖尿病は,あらゆる診療科での対応が必要なことから,医師向けのガイドライン「糖尿病治療のエッセンス」を作成し,日医雑誌四月号に同封して全会員にお送りしました.また,国民に対して糖尿病に関する正しい医学的知識を身につけてもらうよう,普及,啓発が重要であり,四種類のリーフレットを作成しました.地域医師会を通して医療機関へ配布しますので,日常診療の場で活用していただければと思います.
 受診率の向上のためには,かかりつけ医の果たす役割が非常に重要であり,日医として,都道府県医師会への財政的な面を含めた支援をしていきたいと考えています.中長期的な大きな課題ですが,国民運動として発展させ,健康寿命の延伸等,国民の健康づくりに寄与できるように尽力したいと思います.

交通事故診療について

Q 損保会社に診断書およびレセプト等を提出しますが,患者さんの同意を得る必要がありますか?
 損保会社に患者さんの診療情報を提供する場合には,患者さん本人の同意が絶対に不可欠です.
 また,損保会社が,保険の支払い手続きに入る時点で,情報取得を含む包括的な同意書等を患者さんから取り付けることが多いのですが,医療機関としては,それら書面の確認だけでは不十分です.
 つまり,損保会社が取得した同意(書)等が示されても,医療機関自身で患者さん本人に同意を得る必要があります.

Q 医療機関における『個人情報の利用目的』に,情報提供を示しておけば,改めて同意を得る必要はありませんか?
 日医作成の冊子『医療機関における個人情報の保護』(平成十七年二月)において,「個人情報の利用目的」に関する院内掲示の例には,交通事故診療に係る記載は除かれています.そのため,院内掲示等で公表することにより,包括的な同意を得るのではなく,交通事故診療費の請求等における診断書等の情報提供については,患者さんから改めて同意(書)を得るように対応してください.

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