日医ニュース
日医ニュース目次 第1047号(平成17年4月20日)

勤務医のページ

医師偏在と日医の役割

 医師偏在(ここでは地域偏在と診療科偏在をいう)の問題は,昭和二十三(一九四八)年の医療法制定以来の課題であるが,二十一世紀に入っても五十七年間根本的解決には至っていない.
 国民全員に平等な医療を提供できるという,世界に冠たる国民皆保険制度の理念からいえば,医師偏在問題は近代医療国家日本の抱える暗闇である.この最大のネックは,都会に住む,あるいは働く医療行政担当者(医師会も含む)の低認識であろう.いずれにせよ,へき地と称される地域の窮状は,都会では窺い知れない絶望的課題である.

医師偏在が共通認識に

 厚生労働省の(第十次)へき地保健医療対策検討会に委員として出席しているが,これまで昭和三十一年から第九次にわたって,関係各位の血の滲む努力により,数々の措置がなされて,一定の成果を積み重ねてきている.
 一方,へき地から出席している各委員は,口々に医師確保がいかに困難か,何とか来ていただいた医師が短期間でいなくなってしまう,医師がいないばかりに搬送中に死亡してしまう,医師の給料を高くしているが,それが自治体病院の赤字につながっているなど,四十年以上前と相も変わらぬ悩みを語っている.
 以上のような背景のもと,大学医局への献金,大学医師の名義貸しなどが,昨今のマスコミを賑わしたとおりである.
 これらの国民の批判に対して,ようやく国は重い腰を上げ,史上初の厚労省,文部科学省,総務省の三省合同の横のつながりとして,二〇〇三年十一月「地域医療に関する関係省庁連絡会議」を開催し,二〇〇四年二月に,その報告書が公表され,ようやく医師偏在は国(三省)と医療関係者と国民の共通認識事項となったのである.

医師は過剰といえるのか

 ここで,医師偏在イコール医師不足としての医師の需給問題についてみると,一九六九年自民党の「国民医療対策大綱」において,一九八五年まで人口十万人対百五十人の医師を養成することを目標として,一県一大学構想が推進された.
 その結果,この目標は,一九八三年に達成されたが,同時に早くも医師の過剰が問題となり,一九八四年厚生省(当時)は「将来の医師需給に関する検討委員会」を設置した.この委員会の意見書(一九八六年)は,一九九五年を目標に医師の新規参入を一〇%削減する必要があるとし,医学部の入学定員の削減が実施された.
 一九九三年には「医師需給の見直し等に関する検討委員会」が設置され,その意見書(一九九四年)でも,引き続き,医学部入学定員の一〇%削減を求めている.
 一九九八年(平成十年五月十五日)の医師の需給に関する検討会報告書でも,医師偏在の解消に努めることが望まれるとしたにとどまり,将来,著しい医師過剰を来すとして,相変わらず一〇%の削減を求めた.
 現在,だれの眼にも明らかな地域偏在,診療科偏在がまったく改善されていないのに医師削減策を続けてきたのは,この報告書によると,「医師数に対する行政的な介入はせず,市場の競争原理に委ねるべき」との意見もあったが,そうすれば,「供給が需要を作り出す」ことにもなり,医療費の増加が国民の利益を損うことになるとしたからである.しかし,地域偏在,診療料偏在こそ国民の利益を損っているのではないか.
 最近,厚労省より病院に対して勤務医師の労働時間の遵守の指導が入っているが,遵守したら,二十四時間体制の救急医療はどこの病院も不可能になるであろうし,交代制にすれば,医療の機能を大幅に低下させ,経営も困難になるであろう.勤務医師の必要数は少なくとも現在の三倍は必要となる.
 また,二〇〇二年の医師数は人口十万人対二百六・一人となっているが,都会においても小児科,産婦人科等の診療科偏在が起こっているのに,それでも医師は過剰といえるのだろうか.

日医に期待すること

 医師の需給の今後の検討に関して,一九四八年に定められた医療法上の医師数の算定基準のエビデンス,勤務医の適正労働時間,診療科別・地域別の必要医師数,小児科・産科・麻酔科等医師の増加策,女性医師の就労改善策,開業に走らせてしまう勤務医の燃え尽き,診療報酬のドクターフィーのエビデンスなど,省庁を超えた迅速,真摯な国家的施策を日医からも強く要望してほしい.
 また,今すぐ必要とすることは,テレビに映し出された,大きなおなかを抱えた妊婦が,「私どこで生んだら良いのでしょうか」という報道をみた時,眼の前の困っている患者に,組織としてすぐ手を差し伸べるという日医の高邁で迅速な行動力である.

(岩手県立中央病院長・日医勤務医委員会委員 樋口 紘)

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