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第1048号(平成17年5月5日) |
NO.19

社会保障制度改革と医療介護財源確保
松山幸弘(富士通総研経済研究所主席研究員)

社会保障制度改革の必要性が叫ばれて久しいが,国会でもようやく制度全般の一体的見直しを行うための協議が,与野党間で始められることとなった.このようななかで,今回は,松山幸弘氏に,制度改革に向けて取り組むべき課題について,話をしてもらった.
(なお,感想などは広報課までお寄せください)
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松山幸弘(まつやまゆきひろ)
富士通総研経済研究所主席研究員.昭和28年生まれ.昭和50年東大経済学部卒業後,保険会社に勤務.その後,(株)富士通総研に入社し,現在に至る.主な著書に「米国の医療経済」「アメリカの医療改革」(いずれも東洋経済新報社)がある. |
財務省の二〇〇四年国際収支速報によれば,海外とのモノやサービス全体の取引状況を示す経常収支の黒字は,十八兆六千億円(前年比一七・九%増)と二年連続で過去最高を更新した.つまり,国際競争のなかで日本は依然として世界一の稼ぎ頭なのである.また,国民全体から見れば,社会保障制度の負担と給付はその規模がどんなに膨張しても常に一致している.
それにもかかわらず,社会保障制度の財源確保の新しい枠組みについて国民のコンセンサス作りが遅々として進んでいない.その理由は,第一に社会保障制度の部品である年金,医療,介護,福祉がバラバラに議論され,改革のグランドデザインが国民の納得できる形で示されていない,第二にどこかで巨額の無駄遣いが行われている,からである.
結論を先にいえば,人口減少のなかでも平均二%の経済成長を達成できるのであれば,「現役世代が高齢者世代を支える」という社会保障制度の理念を維持するための財源確保は可能である.その経済成長は,国民のニーズが高まる分野に財源が流れ込むように工夫すれば実現できる.一方,高齢化の進展と共に医療介護に対する国民のニーズが増大することは明らかである.
したがって,小泉政権が取り組むべき最大の政策課題は,医療介護費抑制とは逆に,国民が納得する仕組みの下で医療介護に財源が流れ込む方法を提示することである.
財源を医療介護にシフト
その方法の要点は次の七つである.
(1)社会保障制度全体の財源を年金から医療介護にシフトさせる.
(2)消費税率を五%から一五%に引き上げる.
(3)消費税率引き上げが景気に与えるマイナス効果を相殺するために年金積立金を増税額と同じだけ現役世代に返還する.
(4)「保険料+受診時自己負担+税を通じた間接負担」ベースで医療介護費の一人当たり負担が年齢にかかわらず同額となるように制度設計する.
(5)特定療養費制度を拡充する.
(6)公的医療保険を基礎保険とオプション保険の二階建てにする.
(7)公的病院を非公務員化した上で病院グループを形成,重複投資の無駄を解消する.
わが国の公的年金の給付水準は世界一であり,公的年金制度全体の積立不足も六百五十兆円近い.したがって,年金の給付水準を引き下げて相対的に財源を医療介護にシフトすることは選択の余地がない.そして,社会保障制度の財源不足を補うために消費税率を一五%程度まで引き上げることが不可避なのは,だれの目にも明らかである.
それでも実施に踏み切れないのは,消費税率引き上げが,経済成長にとって大きなマイナス要因になるからである.このネックの打開策としては,約百六十兆円ある年金積立金の一部約二十五兆円を現役世代に返還することが有効である.これは,高齢者が優遇され過ぎている現行制度を是正する具体策でもある.仮に将来積立金不足が発生した時には,国債を発行し年金制度の資金繰りをつければよい.
一人当たり負担を同額に
国民のコンセンサス作りが最も難しいのは,医療介護の給付と負担の公平性のあるべき姿である.
公平性の問題には,「現役世代と高齢者世代という異なる世代間の公平性」と「同一世代内の公平性」の二つがある.前者の異なる世代間の公平性を考えるには,『現役世代が高齢者世代を支える』という社会保障制度の理念に立ち返る必要がある.この理念を否定する国民はほとんどいないと思われる.すると,争点が「高齢者世代支援のために現役世代がどの程度負担すべきか?」と「高齢者世代の応分の負担とはどの程度か?」にあることに気づく.この世代間負担のバランスの【解】として,人口構成の変化に中立な方法が存在する.それが,「保険料+受診時自己負担+税を通じた間接負担」ベースで医療介護費の一人当たり負担が年齢にかかわらず同額となるように制度設計することなのである.
これは,高齢者医療保険において「保険料+受診時自己負担」を約三割にすることを意味する.
公的医療保険を二階建てに
「同一世代内の公平性」を確保する方法としては,健康管理自助努力の程度により,負担と給付に格差を設けることが考えられる.しかし,この場合でも,一旦病気になれば必要な医療にアクセスできなければならない.この条件を満たす方法が,公的医療保険を基礎保険とオプション保険の二階建てにすることなのである.
オプション保険とは,国民一人ひとりに保険料と給付内容のバランスに関する選択権を与えたうえで,いずれかの保険に加入を義務付ける仕組みである.オプションは,医療技術の進歩と患者ニーズの変化に合わせてさまざまなタイプが考案可能である.
最も単純な事例としては,受診時自己負担を二割,三割の二種類とし,前者の保険料を後者より高くすることがあげられる.オプション選択の変更は,原則自由である.病気になってからの変更による保険財政への悪影響を防止するには,「変更後の一定期間は既往症による給付を旧オプションの給付レベルに据え置く」といった措置を講じればよい.
なお,オプション部分を民間医療保険にしないのは,民間医療保険の場合,保険料の約三〇%が保険会社の粗利益で消えてしまうからである.
オプション保険導入で国民一人ひとりに健康管理のインセンティブを与えるのは,医療消費の効率化により財源を創出,新技術の公的保険適用を早める狙いがある.加えて,公的病院を非公務員化し,重複投資を解消すれば,年間三千億円から四千億円の追加財源獲得が可能である.
この非公務員化後の公的病院の受け皿として,厚生労働省が提案している認定医療法人が有望である.公的病院から転換した認定医療法人の使命は,民間病院から転換した認定医療法人と共に非営利医療機関ネットワークを構築,地域住民にグローバルスタンダードの医療を提供することにある.
一方,従来型の医療法人がこのネットワークと連携・共存するためには,自らの機能を明確にする必要があるが,機能の明確化は時代を超えた生き残りの要件である.
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