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第1049号(平成17年5月20日) |


会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けました.意見・提案などをご応募ください.
専門医特別審査
松股 孝(大分県・中津市医師会)
昭和五十四年度までの医師免許取得者で,消化器外科学会認定医を対象に専門医特別審査が行われた.ここ数年,院長職に徹していたので,直近十年間の手術症例数が一千例を下回った.これでは専門医というのはおこがましい.しかしながら,毎日,さまざまな一般書や医学論文を読み,研修医教育やカンファレンスではジェネラリストとして発言を続けている.
人を“指導する”といえば,これまたおこがましいのであるが,学会が指導医という資格を用意しているのであるから,その資格があれば十分ではないか.
「お上が専門医広告を認めた,すわ専門医への診療報酬評価がなされる」と,眼光紙背に徹した一流ロートル会員が一斉に専門医となってしまったようだ.これでは専門医だらけになってしまう.学会が認定しただけの指導医資格は紙クズ同然にされてしまうに違いない.
“お上”におとなしく服従するのが知識エリートの特徴だというが,青年官僚はますます自信を深め,統制のおもしろさに酔いしれていく.おかしな国である.
後進のために,少しは遠慮してはどうかといいたいのだが,初期研修後に控えている専門医制度も問題だ.心身ともに充実した卒後十五年目頃に専門医になればよいではないか.
理想と教養なく,ただ技術だけを習得する速成教育は失敗する.十年後の医療提供体制が危惧される,この頃である.
医師が患者になったとき
加藤義博(石川県・羽咋郡市医師会)
日頃,ほとんど縁のない茶屋街で,調子に乗り過ぎて,その後に突然襲ってきた急性尿閉!普通なら直ちに救急車だが,そこがヤブ医者の悪いところ.三日三晩チョビ出しの尿閉に唸った揚げ句,ついに白旗掲げて,病院の泌尿器科へ.残尿,実に千四百ミリリットル!家庭の事情とて,一カ月の執行猶予をいただき,留置カテーテル設置の生活へ.
夜は採尿バッグ,昼は採尿袋に切り換えて,診療に,会議に,飲み会にと奔走.その間,幸い,小便袋をブラ下げていることは,周囲に気付かれずに済んだと,悦に入っていたが,ある会合の時,プチンという鈍い音とともに,採尿袋の接続部が外れてヒヤリ.慌ててトイレに駆け込み,事なきを得たが,カテーテルからは,梅雨時の軒を滴る雨のごとくに,絶え間なく流れ出る尿を眺めて,わが腎臓様の不眠不休の働きに感心,そして感謝.
かくして,手術当日となる.密かな全麻の期待と予想は見事に外れて,ルンバール.麻酔不十分箇所でのコッヘルの痛さ,血圧低下と意識低下と嘔気,開創鈎の苦痛など,たっぷり堪能させていただき,昔,ルンバール下で施行したアッペやヘルニアの患者さんの苦痛を,今まさに共有する.ああ罪と罰.
しかし,福音もあった.完全消失したゴマ塩のわが陰毛が,今再び春の若草のごとく柔らかく,しかも,何と黒々とよみがえったのだ!
お世話になった病院の皆さんに心から深謝する.
有床診
村 靖(東京都・江戸川区医師会)
十三床の産婦人科診療所を開設し,三十五年の月日が経った.幸い母体死亡,訴訟も今のところゼロで,成長してくれた息子と世代交代の時期を迎えている.
国立大学産婦人科教室で十三年間,いわゆる「白い巨塔」で修業したが,その医学的蓄積が開業数年間は大いに役立った.私の場合,医局の後輩や地区医師会の同業の仲間の協力があり,また,基幹病院との病診連携がうまくいき,医療事故にはつながらなかった.
大病院での手術や分娩は,設備やスタッフの数で,確かに安全性は高いが,退院後の母児のCareは有床診の方が何かと有利に思われる.患者や児の取り違えは有床診では少ない.病名の診断力は,開業前どんな研修をしたか,卒後研修をどの程度行ったかで較差を生ずるが,Second Opinionも重要と認識し,手術等は複数の医師が協力して診断すれば,大病院との較差が縮まる.
当院では,長男の副院長と協力して交互に診療しているが,外科や産婦人科は,常に複数の医師が診療に従事していないと,医療事故が起きやすい.
有床診は病院と異なり,四十八時間規制問題を抱え,また,地の利を得ない限り,産科の経営は苦しい.しかし,病院や無床診にはない利点もあるので,複数の地区医師会が協力して卒後研修会を催し,会員が積極的に参加し,医療レベルの低下を防止し,地域医療に尽くすべきと思う.
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