日医ニュース
日医ニュース目次 第1051号(平成17年6月20日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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生活習慣病としての変形性関節症

図 変形性膝関節症でのO脚変形
 平成十三年国民生活基礎調査によると,要介護の原因の一〇・四%は関節疾患で,痴呆(一〇・七%)と同程度に高率である.関節障害のなかで特に多いのが変形性関節症で,膝に頻度が高い.関節軟骨の慢性進行性の変性疾患で,関節の痛みや機能障害,歩行障害など日常生活動作の障害を来す.原因が明らかでないものを一次性と呼び,大多数を占める.
 本症には,いわゆる体質的な背景があることが知られていたが,遺伝子多型を用いた相関解析により,感受性遺伝子のひとつがアスポリン遺伝子であることが明らかにされた.アスポリンは細胞外の基質にあるタンパクで,含まれるアスパラギン酸の配列繰り返し数が十四回(D14多型)の人は,リスクが約二倍であった.
 疫学調査から,女性は男性に比べ,特に高齢者で一・五から二倍の有病率で,女性の六十歳代で四〇%,七十歳代で六〇%,八十歳代で八〇%と,年齢とともに急増すること,女性で高体重(六十二キログラム超)は低体重(五十五キログラム未満)に対し約四倍,膝外傷の既往は約七倍,就業年が一年増加するごとにリスクが五%増加することが明らかにされた.また,膝の内反変形(O脚)もリスクになるなど,関節への負荷の関与が示唆された.
 膝伸展筋(大腿四頭筋)力の低下は,膝の安定を欠くことになり,悪化要因である.大腿四頭筋訓練(仰臥位で片方の膝を直角以上に曲げ,もう片方の脚を膝を伸ばしたまま床から十センチメートルの高さまでゆっくり上げ,五秒間その高さで停止,その後ゆっくり下ろす.二〜三秒休み,二十回繰り返す.次いで左右脚を変えて行う.これを一セットとし,午前二セット,午後二セットを行う)は,消炎鎮痛剤経口投与に勝るとも劣らない効果があることが,多施設ランダム化比較試験で示された(岩谷力,他.二〇〇五).
 このように本症は,遺伝要因と運動などの環境因子の相互作用による生活習慣病である.また,糖尿病などと同様,発症前にすでに病変が進行していることも明らかになっている.人種差があることも指摘されており,さらに日本でのエビデンスが必要である.予防,早期診断,早期治療により,要介護者の減少を目指さねばならない.

【参考文献】
一,Kizawa H., et al.: Nat Genet. 37 (2): 138-144, 2005.
二,Yoshimura N., et al.: J Rheumatol. 31 (1): 157-162, 2004.
三,大森豪,他:別冊整形外科 42:7-11,2002.

(東京大学大学院医学系研究科感覚運動機能医学講座整形外科学教授 中村耕三)

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