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第1053号(平成17年7月20日) |
「大学病院の医療に関する懇談会」
日医が大学病院と意見交換

日医と全国医学部長病院長会議が共催する「大学病院の医療に関する懇談会」の初会合が,6月24日,日医会館で開催され,医師不足・医師偏在,卒後臨床研修の問題など,医療を取り巻く諸課題について,率直な意見交換が行われた.(写真 会合の開催趣旨説明を行う青木重孝常任理事)
昨年,混合診療解禁問題の議論の際に,東大,京大,阪大の医学部附属病院長から連名で規制改革・民間開放推進会議に対して,混合診療問題に関する要望書が提出された.日医では,このことによって,医療界のなかで混合診療に対する見解が異なっているのではないかとの指摘を受けたことを問題視.大学側との意思疎通を図る必要性を痛感し,日医側から,全国医学部長病院長会議に呼びかける形で,今回,懇談会を開催することとなった.大学病院側と日医がこのような機会を設けて話をするのは初めてのことである.
懇談会は,青木重孝常任理事の司会で開会.冒頭あいさつした植松治雄会長は,「現在,政府は経済主導で医療改革を進めようとしているが,大学といえども国民皆保険制度のもとで国民に医療を提供するという立場は,われわれと変わりはなく,今後の改革議論には,同じ認識で臨んでもらいたい.今回の改革は,今年と来年で大方の道筋が決まると考えている.この機会を利用して,先生方の意見をわれわれに伝えていただきたい」と述べた.
引き続きあいさつした吉村博邦全国医学部長病院長会議会長は,「大学病院は,今,診療科にかかわりなく大変な医師不足となっており,医療事故,DPC(急性期入院医療に係る診断群分類包括評価)など多難な問題を抱えている.また,医療界全体を見ても,医療費の抑制,医療提供体制の見直しなど大変厳しい問題が出てきているが,この懇談会で率直な意見交換を行いたい」との抱負を語った. その後の議事では,まず,三上裕司常任理事が,社会保障審議会医療部会の進捗状況ならびに検討課題に対する日医の考えを概説.さらに,土屋 常任理事は,医師の地域偏在の解消策として,(1)自衛隊医官の活用(2)臨床研修二年目での地域研修の義務化(3)全国で一本化されたドクターバンクネットワークの構築を提案していることを説明した.
大学側からは,「医師不足は,その地域の救急医療の崩壊につながる問題であり,初期あるいは二次救急の部分で医師会に協力してほしい」との意見が出された.これに対して,植松会長は,会員が輪番制で救急医療に取り組んでいる地域医師会の例を挙げ,地域医師会が主導的な立場に立って,救急医療に取り組むべきであるとの考えを示した.
その他,大学側からは医師数充足のため,既存の自治体病院の統合を求める要望も出された.
臨床研修については,吉村会長が,全国医学部長病院長会議が取りまとめた「臨床研修/臨床実習教育環境充実・改善に関する提言と要望」の内容を説明.そのうえで,研修医の配置を都道府県別に決めることを提案した.
橋本信也常任理事は,大学側に対して,臨床研修においてはプライマリ・ケアを重視した医師を養成することを要望するとともに,(1)臨床研修の必修化と医師不足は無関係であること(2)臨床研修修了後の医師の教育に関して,会内にプロジェクト委員会を設置したことを説明した.
医療保険制度改革に関しては,松原謙二常任理事が,「医療保険制度改革における日本医師会の考え方」を概説.また,「中医協の在り方に関する有識者会議」で検討されている中医協の委員構成見直しの問題については,「日医は全医師を代表する団体である.有識者会議の委員は誤解をされている.中医協の診療側委員は,あくまで,日医が代表して推薦すべきであり,この問題は,医師同士で話し合い,解決すべきと考えている.規制改革・民間開放推進会議などは,この機会に医療界の分断を図ろうとしているが,分断されてしまえば,厚生労働省,経済界の思い通りに医療政策が決められてしまう.ぜひ,この点を理解してほしい」と要望.これに対して,大学側は,「これまでの中医協の議論では,大学病院の意見を反映できなかった点もあったが,この懇談会を設けたことで,今後はその改善が期待できるのではないか」とした.
また,高齢者医療保険制度については,高齢者の特性を十分考慮した制度にすべきとの考えが示された.
今後は,あらかじめテーマを決めて,三カ月に一回のペースで懇談会を開催していくことが決定された.
全国医学部長病院長会議(会長:吉村博邦北里大学医学部長)は,全国八十の大学・医科大学の医学部長・病院長が一堂に会した組織であり,現在,十一の専門委員会を作って,医学・医療に関する諸課題について検討を行い,各種の提言,報告書を取りまとめている. |
大学病院の医療に関する懇談会委員 |
神保孝一 |
札幌医科大学皮膚科学講座教授 |
小川 彰 |
岩手医科大学医学部長 |
齋藤 康 |
千葉大学医学部附属病院長 |
下條文武 |
新潟大学医歯学総合病院長 |
布施勝生 |
自治医科大学附属病院長 |
吉村博邦 |
北里大学医学部長・全国医学部長病院長会議会長 |
北島政樹 |
慶應義塾大学医学部長 |
坂本 徹 |
東京医科歯科大学医学部附属病院長 |
永井良三 |
東京大学医学部附属病院長 |
井口昭久 |
名古屋大学医学部附属病院長 |
荻原俊男 |
大阪大学医学部附属病院長 |
春日雅人 |
神戸大学医学部附属病院長 |
日置紘士郎 |
関西医科大学学長 |
本庄英雄 |
京都府立医科大学附属病院長 |
角田 司 |
川崎医科大学附属病院長 |
水田 代 |
九州大学病院長 |
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寺岡 暉 |
日本医師会副会長 |
橋本信也 |
日本医師会常任理事 |
土屋  |
日本医師会常任理事 |
青木重孝 |
日本医師会常任理事 |
三上裕司 |
日本医師会常任理事 |
松原謙二 |
日本医師会常任理事 |
記者会見
「同じ医師として,理解を深めていきたい」
懇談会終了後,引き続き,日医会館で記者会見が行われた.(写真)
青木常任理事は,当日の懇談会の審議内容を説明したうえで,「大学側の先生方と継続して話をしていくことを本日決定した.このことにより,日医の方針を決める際に,大学側の意見を入れていくことが可能になったという意味では,今後大きな成果が期待できる」と,今回の懇談会開催の意義を強調した.
一方,吉村会長は,「医療を取り巻く環境が厳しくなるなかで,今回初めて大学側の意見を聞いてもらえる場ができた.日医のもとで,同じ医師として,国民の医療・福祉を向上・改善させる立場から,お互いの本音をぶつけ合い,理解を深めていきたい」と述べ,今後の懇談会への期待感を示した.
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