日医ニュース
日医ニュース目次 第1063号(平成17年12月20日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

13
ビブリオ・バルニフィカス感染症
〈日本皮膚科学会〉

Vibrio vulnificus感染症(敗血症型):
両下腿の紅斑・水疱
 ニューオーリンズでカトリーナがひどい水害を起こした.感染症も問題になり,すでにビブリオ・バルニフィカス感染症(Vv感染症)で五名の犠牲者が出たとマスコミが報じた.この感染症,熊本地域でも少なくとも今夏四名の患者をみた.
 Vibrio vulnificusVv)のヒトへの感染は,一九七〇年にローランドにより報告された.日本では一九七八年,河野らが最初発表し,現在までに約二百例がある.Vvは汽水地域の塩分濃度の低い海水中で,温度が二十℃以上になると活発に増殖する.最初の報告例は,傷にVvが侵入した「外傷型」である.それでVvの‘v’はvulnificus,すなわち外傷を意味する.
 日本の症例の多くは「敗血症型」で,生の魚介類の摂取後三十六時間以内に悪寒戦慄で発症し,早晩下肢などに紅斑・水疱が出現し,それが拡大し,いわゆる壊死性筋膜炎の症状を呈する.この型は死亡率約七四%に達する.なお,健常者が汚染された魚介類を摂取した場合,下痢・腹痛を起こすことがあっても,特に問題ない.
 ここでは,厚生労働省「新興再興感染症研究事業」として調査した本邦Vv感染症の現状について述べる.全国千六百九十三施設へのアンケートで,千五十四施設から回答を得た.一九九九〜二〇〇三年の五年で,百七例の患者が確認された.男性が九十一例(八五%)を占めた.「敗血症型」七四%,「創傷型」二一%,「消化器型」五%であった.死亡率「敗血症」七三・九%で,「創傷」は三一・六%であった.患者発生は六月から十一月に限られた.
 患者分布は二十二都道府県を数えたが,熊本が最も多く,北九州エリアを含めると五〇%以上を占めた.新潟での発生もみられ,地球温暖化で,今後北の方も油断できない.「敗血症」に限れば八七%が肝障害を有していた.
 次に述べるハイリスク患者は,夏期に生魚介類の摂取をしないことが肝要である.すなわち肝臓障害・ヘモクロマトーシスなど鉄のオーバーロード状態・糖尿病・免疫不全(HIVなど)・ステロイド長期使用・高齢などである.また健常者でも,傷口があれば海水に浸からない注意がいる.夏・生魚介摂取歴・肝障害・皮膚病変,そして悪寒戦慄と,これだけそろえばVv感染症を疑い,対処せねばならない.

【参考文献】
一,小野友道ほか:ビブリオ・バルニフィカス感染症の診断と治療,厚生労働科学研究費補助金「新興再興感染症研究事業」報告書,平成十七年三月.
二,古城八壽子ほか:Vibrio vulnificus感染症―診断と治療のフローチャートの試み―,日皮会誌,109;875,1999.
三,Inoue Y, et al: An outbreak of Vibrio vulnificus infection in Kumamoto, Japan, 2001, Arch Dermatol, 140; 888, 2004.

(熊本大学理事・副学長 小野友道)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.