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第1066号(平成18年2月5日) |

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ウイルス性肝炎の最新治療
〈日本肝臓学会〉

わが国における肝がんの発生は年間四万人を超えており,二〇一五年までは肝がんの発生がさらに上昇を続けることが予想されている.このような背景から,二十一世紀初頭の肝疾患の診療は,引き続き,ウイルス性肝炎→肝硬変→肝がんというsequentialな病態をどのように制御するかを中心に展開することが予想されるが,これらの肝疾患の原因は肝炎ウイルスであるので,最も重要なのは肝炎ウイルスの制御である.
ウイルス性肝炎の治療は,B型慢性肝炎,C型慢性肝炎のインターフェロン(IFN)治療に始まり,二〇〇一年に認可されたB型慢性肝炎に対するlamivudine療法,C型慢性肝炎に対するIFNとribavirinの併用療法の登場により,治療効果は大幅に改善された.また,IFNの投与期間も半年に限定されていたが,IFNの長期投与がウイルスの駆除率を向上させるというエビデンスのもとに,二〇〇二年からは,より長期の治療が可能となった.
しかし,抗ウイルス剤であるlamivudineは長期投与によりYMDD変異と呼ばれる薬剤耐性のB型肝炎ウイルスが出現すること,またIFNとribavirinの併用療法をもってしても,治療期間が六カ月ではC型慢性肝炎におけるウイルスの駆除率は約二〇%であり,まだ完全な治療法とはいえない.C型慢性肝炎に関しては,Peg-IFNの単独投与も認められたが,著効率はIFNとribavirinの併用療法を超えるものではない.IFN製剤は半減期が約八時間と短く,通常,毎日あるいは二日に一回の投与が行われているが,Peg製剤ではポリエチレングリコールのような大きな分子を薬剤につけることにより,半減期を長くしている.Peg-IFNは投与が一週間に一度でよいというメリット以外に,通常型のIFN製剤より治療効果が高いことが欧米の臨床試験により明らかにされている.
二〇〇四年十二月には,Peg-IFNとribavirinの併用療法が本邦でも保険診療下で可能となり,遺伝子型1型で高ウイルス量の最も難治例でも,約五〇%の例でウイルスの排除が得られるようになった.しかし,まだ著効率は約五〇%であり,残りの難治症例に対する対策を急ぐ必要がある.現在,C型肝炎ウイルス遺伝子のプロテアーゼやポリメラーゼに対する阻害剤の開発が世界中で行われ,一部の薬剤に関しては,すでに臨床試験も行われており,Peg-IFNとの併用など今後の展開が期待される.
一方,B型慢性肝炎に対してもlamivudine耐性株に対しても効果があるadefoviorの使用が,二〇〇四年十二月から本邦で保険診療下で可能になり,耐性株出現による肝炎の増悪のコントロールも容易になった.また,entecavirも,現在,厚生労働省に申請中で,二〇〇六年には保険診療で使用可能になると思われる.
このように,次々と開発される抗ウイルス剤の登場により,ウイルス肝炎の治療は根本から書き換えられる可能性があるかも知れない.
【参考文献】
一,C型慢性肝炎治療の新たなストラテジー―インターフェロン治療の今後―.林 紀夫,岡上 武,熊田博光編,先端医学社,東京,2004.
二,総合臨床(特集 肝臓の臨床最前線).永井書店,大阪,54:3, 2005.
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