 |
第1068号(平成18年3月5日) |
日本医師会市民公開講座
「知って防ごう『食と感染症』」をテーマに

日本医師会市民公開講座が,二月十一日,「知って防ごう『食と感染症』」をテーマに,日医会館大講堂で開催された.
雪下國雄常任理事の総合司会で開会.冒頭,雪下常任理事は,「平成十二年度から開始した市民公開講座も今回で十三回目となる.今回のテーマは,昨今国民の食の安全に対する関心が高まっていることから『食と感染症』とした.感染症は,正しく理解し適切に対処すれば,防ぐことができるものである.本日の公開講座で感染症の正しい知識を習得し,理解を深めていってもらいたい」とあいさつした.
その後,四人のパネリストによるパネルディスカッションが行われた.
相楽裕子横浜市立市民病院感染症部長は,まず,食品・水で起こる感染症について,(1)大規模な集団発生を起こしやすい(2)流通システムの国際化により病原体が海外から直結している(3)ヒトからヒトに感染することが多い(4)小児や高齢者では重症化する危険がある―などの問題点を指摘.そのうえで,感染症を引き起こす主な細菌(サルモネラ,腸炎ビブリオ,腸管出血性大腸菌,カンピロバクター)の特徴を解説するとともに,多くの感染症の症状である下痢に見舞われた時の家庭での対処法ならびに医療機関にかかる際の注意点などを分かりやすく説明した.
宮村達男国立感染症研究所ウイルス第二部長は,感染症を引き起こすウイルスであるノロウイルスとE型肝炎ウイルスについて概説.ノロウイルスについては,潜伏期間が短く,激しい下痢や嘔吐がみられることから,死亡することもあると,その危険性を指摘.一方,E型肝炎ウイルスについては,逆に潜伏期間が六週間と長いため,感染経路をたどることが難しいと,その特徴を説明.そのうえで,二つのウイルスともに細菌と異なりウイルス自体が自己増殖することはなく,ヒトからヒトへの感染を防ぐには排泄物を適切に処置することが大切になると強調した.
西山利正関西医科大学公衆衛生学教室教授は,わが国でもよく見られる食品・水媒介寄生虫症として,アニサキス症と日本海裂頭条虫症を紹介.アニサキス症については,(1)初回感染時よりも二度目以降の感染で激烈な腹痛を起こすこと(2)ヒトからヒトへはうつることがない―などの特徴を挙げ,その確実な診断・治療法は,現在,内視鏡による摘出術しかないと説明した.また,日本海裂頭条虫症は,従来サナダ虫として知られているが,ほとんどが無症状のため,朝の排便時に虫体が肛門からぶらさがることで発症に気付く人が多いと述べ,その治療法として駆虫薬(プラジカンテル)の服用を挙げた.
さらに,いずれの寄生虫も,食品・水の十分な加熱により防ぐことができるとし,その予防策の徹底を呼び掛けた.
中村明子共立薬科大学客員教授は,家庭でできる食中毒の予防策の基本として,(1)付けない(食材や調理するヒトの手を介して菌を二次汚染させない)(2)増やさない(食品中で菌を増殖させない)(3)殺菌する(食品に付着している微生物は加熱で死滅させる)の三原則を指摘.この三原則を身に付けて,家庭内に病原微生物を持ち込まないようにすることを求めた.また,それと並行して,病原微生物に抵抗できる体力作りを日ごろから行うことが重要になるとの考えを示した.
引き続き,参加者との間で活発な質疑応答が行われ,公開講座は終了となった.
なお,当日の模様は,三月二十五日(土)午後十一時三十分から七十分間,NHK教育テレビ「土曜フォーラム」で放映される予定.
|