日医ニュース
日医ニュース目次 第1074号(平成18年6月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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前立腺がん診療の新しい流れ
〈日本泌尿器科学会〉

 前立腺がんを外科臨床の視点から考えると,女性の乳がんに類似している.いずれも性ホルモンに依存して増殖し,鑑別診断上問題となる良性腫瘍が存在すること,欧米人に高頻度であったが本邦でも近年の増加が著しいこと,腫瘍の発生には食生活や性生活など生活習慣(ライフスタイル)や環境因子が関係していること,一般的に発症後の経過が他のがんに比較して長いこと,内分泌療法が重要な選択肢であること,などである.
 前立腺がんの発症頻度は米国男性がんの一位を占めており,本邦は欧米に比較して発症頻度,死亡率ともに十分の一以下といわれてきた.しかし,高脂肪や高カロリーなど,近年の食生活の欧米化により,発症頻度,死亡率ともに増加が著しく,二十四年後の二〇三〇年には男性がんの発症頻度で第一位を占めると推計されている.
 前立腺は尿道内腔に接している内腺と,その周囲の外腺より構成され,機能的には精奨の約三〇%を産生する.従来,内腺より前立腺肥大症が,外腺より前立腺がんが,発生すると考えられてきた.しかし,最近では,発生学的視点も加えて中心領域(central zone),移行領域(transition zone),辺縁領域(peripheral zone)の三領域に分類,前立腺肥大症は移行領域から,前立腺がんでは七〇%が辺縁領域,二五%が移行領域,五%が中心領域より発生するといわれている.
 病理所見に関しては,Gleason分類が米国で広く用いられており,本邦においてもGleason分類に従って臨床研究が進められている.
 診断に関しては,ほとんどの症例が排尿障害を主訴として受診するので,前立腺肥大症の症状とほとんど変わらない.また最近では,PSA(prostate specific antigen;前立腺特異抗原)が人間ドックや住民検診で取り入れられており,PSAの上昇から前立腺がんを疑われて受診することも多いが,確定診断は前立腺生検による.
 治療に関しては,前立腺に限局していれば根治的前立腺全摘除術,前立腺被膜を越えたり遠隔転移を有するものでは,アンドロゲンの分泌を抑制するLH-RHアゴニストやアンドロゲン作用をブロックするアンチアンドロゲンなどの抗アンドロゲン療法が試みられてきた.
 しかし近年,腹腔鏡下手術や小切開(ミニマム創)での前立腺全摘除術が導入されている.永久埋め込み法による小線源治療が,本邦においても可能となっており,また各種の外照射法の根治性も高く評価されている.

(日本泌尿器科学会理事長 奥山明彦)

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