日医ニュース
日医ニュース目次 第1083号(平成18年10月20日)

勤務医のひろば

公的病院の危機

 わが国の医療の現場で最も深刻なのは,(勤務)医師および看護師不足の問題である.医療という社会的役割を全うするためには,各種コメディカルを含めた充実した組織体制が必要なことは言うまでもないが,医療提供の主役は医師と看護師であり,この二職種なくして医療は行えない.
 世界に冠たる平均寿命を達成し,WHO総合評価で一位を獲得したわが国の医療であるが,現状を見る限り,近未来に大きな危惧を抱かざるを得ない.新医師臨床研修制度の理念は高く,大きな改革であったことに間違いはないが,現実には統計調査によっても,地域と診療科の偏在がもたらされており,特にわが国の地域医療は崩壊しかかっていると言っても過言ではない.
 特に医師不足で最も重大な影響を被っているのは,これまで日本の医療の屋台骨を背負ってきた公的(あるいは準公的)病院であり,都市部,地方にかかわらず医療の中心を担ってきた公的病院の機能不全は,わが国の医療そのものが揺らいでいる証左である.
 特に最近,地方で目につくのは,不足がちの公的病院に追い打ちをかけるような,民間病院やクリニックによる勤務医の引き抜きで,格段の好条件を呈示するなど,医療の本質や地域医療への使命感などに配慮のない無節操なアプローチが散見される.また,医師仲介業者の数の増加と,その暗躍もかつて見られなかった活況を呈しているように見えるが,望ましい状態とは思えない.
 若手(およびベテラン)の勤務医の皆様には,ぜひ,目先の利益のみに惑わされることなく,医の原点に立ち返って,確固たる医師の信念と理想を堅持し,初心を全うしていただきたいと心から願うものである.また,行政には勤務医支援のための環境整備の強化を,ぜひともお願いしたい.

(三島社会保険病院病院長 平賀 聖悟)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.