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第1084号(平成18年11月5日) |
かかりつけ医による糖尿病診療
―受診中断率改善を目指した厚生労働省戦略研究[J-DOIT(Japan Diabetes Outcome Intervention Trial)2]―

糖尿病患者は現在740万人,さらに境界型糖尿病は880万人と多く,現在も増加の一途である.透析の導入の増加など合併症を抑制する必要性から,境界型から糖尿病への発症をどのように抑制するかに関する戦略研究(J-DOIT1),血管合併症の抑制に関する戦略研究(J-DOIT3)に加え,平成17年から,かかりつけ医の糖尿病診療において,いかにして受診中断率を抑制できるかを研究する試み(J-DOIT2)が始まった.
糖尿病専門医は全国で3,500人しかいないので,現在80%の糖尿病患者は,かかりつけ医による治療を受けている.しかし,その半数の患者は治療中断をし,実際には,糖尿病治療を受けずにいる.さらに,治療を受けていても,血糖コントロールなどの治療が十分でないため,合併症が発症してしまう.このような現実を改善するためには,治療の継続の重要性や生活習慣の改善などの患者指導の充実や,糖尿病治療ガイドラインに則った適切な治療が必要である.
このような目的のため,厚生労働省戦略研究「2型糖尿病患者の治療中断率改善のための介入試験」(J-DOIT2)が始められた.この研究では,かかりつけ医を対象とし,アウトカム(達成指標)として,受診中断率の低下,糖尿病診療目標の実施率・達成率,HbA1cや血圧・脂質などの患者アウトカムを中心とし,これらの達成,すなわち介入による改善が見られるのか,あるいはどのような医療システム,患者へのアプローチが受診中断率などを抑制できるのかを明らかにすることが目的である.
この研究は,人口20万人以上の地区での医師会単位で,糖尿病専門医や眼科医とかかりつけ医の連携が確立していること,また,かかりつけ医は20人以上の2型糖尿病患者を登録できることが必要で,1地区医師会およそ30人のかかりつけ医による介入試験であることから,研究の成功には医師会でのまとまりと研究に対する意欲が重要な鍵となる.
本年9月から,研究の実効性やサンプルサイズの妥当性の検証のため,パイロット研究が始められ,図1に示すように,2地区医師会が診療支援群,他の2地区医師会が通常診療群と決まり,すでに患者登録が9月1日から始まっている.9地区の医師会から,4地区の医師会が選ばれ,診療支援群の医師会として,東京都の足立区医師会と千葉県の君津木更津医師会,通常診療群として大阪府の和泉市医師会・泉大津市医師会と富山県の砺波医師会・南砺市医師会・射水郡医師会が現在研究を行っている.診療支援としての介入には,(1)万歩計,体組成計を貸与し,介入・非介入群とも,webにて成績を2週間ごとに伝える,(2)カウンセラーが医師(かかりつけ医)の指示を受けて主として電話により,食事・運動などの指導を行い,患者の行動変容を促し,生活習慣の改善をもたらす.また,受診日のリマインドを行い,受診を促進し,中断を抑制する,(3)診療支援群では,カウンセラーによる指導の結果や,種々のかかりつけ医の診療行為の目標の達成度をかかりつけ医にフィードバックし,診療の質の向上に貢献する.
図1 J-DOIT2の研究組織の概要 |
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このように,診療達成目標を設定し,かかりつけ医がどの程度この目標を達成できるかをITによってデータを収集し,その結果をかかりつけ医にフィードバックする.パイロット研究では診療達成目標として13項目設定したが,そのなかには,「年に1回眼科に紹介受診すべきである」などがある.このように,診療目標の達成度のデータをフィードバックすることにより,糖尿病における種々のコントロールの改善と合併症の発症の抑制を図ることを目標としている.
J-DOIT2から期待できる効果としては,(1)受療中断抑制や良好な血糖コントロールに導く患者行動変容をもたらす患者教育のあり方への根拠を提示し,それに基づく対策がとれる,(2)地域における専門医との連携のあり方と研究後の連携の継続が期待できる,(3)かかりつけ医の研究を通じて,医療の質の向上,さらには合併症の抑制が期待できる,(4)地域を挙げての糖尿病に対する啓発運動とムードの高揚が期待できるなどが挙げられる.
一方,これまでの研究から,かかりつけ医になるべく負担をかけないよう,実務の簡素化が必要であること,また登録する患者の年齢の上限を20〜65歳から20〜70歳に引き上げることなどを検討する必要があることなど,現場の意見から明らかとなった.
糖尿病の受診中断抑制や患者の行動変容をもたらすことは,これまでの健康日本21の実績から見ても容易ではなく,この研究の結果は重要であり,また興味のあるところである.
図2に,J-DOIT2研究のターゲットとなるところが,受診中断抑制と診療目標の達成にあることを示したが,これらの改善によって合併症の発症が抑制されることが期待されている.この研究は,1年間のパイロット研究の後,さらに30地区の医師会で研究を行うことになっている.全国の医師会の各地区の先生方には,ぜひ,意欲を持って,この研究にご参加いただくよう,紙面を借りてお願いする.
図2 J-DOIT2研究の標的と効果 |
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