日医ニュース
日医ニュース目次 第1096号(平成19年5月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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慢性疾患 パニック障害の病態と治療
〈日本心身医学会〉

 一九八〇年,国際的診断基準(DSM-III)にパニック障害(Panic Disorder:PD)が登場してから,やがて二十七年になろうとしている.この間に,PDの概念が変化し,治療法が少しずつ進歩してきた.
 初期のころは,急性期のパニック発作(Panic Attack:PA)が注目されていた.最近,PDはこのPAに加えて,随伴する予期不安,外出恐怖(広場恐怖),抑うつ,生活機能障害などを伴う慢性疾患であることが分かってきた.しかし,医療従事者のなかには,PDに対する理解が不十分であったり,時に疾患として認めない人も存在して,患者は苦労している.
 PDは,特別なストレス状況でない時に突然PAから始まる.PAの症状としては,動悸,発汗,ふるえ,息切れ,窒息感,胸痛,嘔気,めまい感などで,そのほかに強い不安感に襲われ,自分がこのまま気が狂うのではないか,あるいはこのまま死ぬのでは,という恐怖感を持つことも多い.PAの持続時間は六十分以内のことが多く,受診時に発作が消失していることもある.そのために,「疲れのせいだね」と言われて,適切な治療ルートに乗れないまま苦しんでいる患者もいる.
 治療法としては,初期のころから三環系抗うつ薬,高力価のベンゾジアゼピン系抗不安薬が利用された.その後,SSRI(パロキセチン,セルトラリン)が,依存性のないことと安全性が高いことからPDの第一選択薬となっている.また,SSRIは,PAに加えて,予期不安,広場恐怖,抑うつ,生活機能障害に対して有効なことが示されてきた.薬物以外では,認知行動療法が有効である.
 PDの神経解剖学的仮説として,恐怖条件付けを用いた動物実験などとともに,扁桃体を中心とした恐怖ネットワークがかかわっていることが示唆されている.Gormanらは,PAを起こす脳の部位について,扁桃体からの投影先である脳幹や視床下部の神経核,前頭前野,帯状回を挙げている.しかし,これまで患者を対象とした研究で,治療前の恐怖ネットワークのかかわりや治療による恐怖ネットワークの変化を実証したものはない.われわれは,PD患者において,治療前と認知行動療法による治療後の脳のPET画像を比較した.治療前は,両側扁桃体,視床,海馬,延髄に有意な代謝亢進を,治療後は,前部帯状回,内側前頭前野に有意な代謝亢進を認め,仮説を支持する結果となった.

【参考文献】
一,久保木富房:パニック障害,臨牀と研究 76 (11), p106-109, 1997.
二,久保木富房,井上雄一(編訳):パニック障害―病態から治療まで―2001, 日本評論社.

(日本心身医学会理事・東京大学名誉教授 久保木富房)

図 パニック障害の経過および脳の関連部位と治療法(仮説)

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