日医ニュース
日医ニュース目次 第1099号(平成19年6月20日)

勤務医のページ

勤務医の過重労働が医療崩壊を加速!
医療界は大同団結せよ!

はじめに

 今年になって,毎日新聞は「医療クライシス」,そして朝日新聞は「医療危機」等の特集を組むなど,日本の医療崩壊が世間に正しく認知されるようになった.つい先ごろまでは,医療関連の報道が医療事故等に集中していたことを考えると,医療崩壊の根底に,日本の低医療費政策と医師の絶対数不足があることが正しく報じられるようになったことは,まさに隔世の感だ.

世界と乖離を拡大する医師不足が問題

 医療崩壊の最大の原因は医師不足.グローバルスタンダードで見れば,日本の医師数二十六万人はOECD加盟国の平均医師数と比較して十二万人不足,これは世界で六十三位である.しかも,その格差は年ごとに世界と拡大乖離しているのだ.
 日本より人口当たり医師数が多い米国は,医師数を実働数(Full time-equivalent)で算出し,医療費高騰で苦しんでいるのに,将来の高齢化を見越して医科大学新設と医師増員を図っている.一方,日本では八十歳以上でも医療機関に登録さえしていれば医師数にカウントされ,その総数が二十六万人であることを忘れてはならない.

日本の医療費は世界最低

 なぜ日本の医師養成数が抑制され続けてきたのか,それは一九八三年,当時の厚生省保険局長の吉村仁氏の論文「医療費をめぐる情勢と対応に関する私の考え方」(『社会保険旬報一九八三年三月十一日号』)を読めば明らかだ.そのなかで,「医療費亡国論」として,日本の医療費の伸びが経済発展に悪影響を及ぼす懸念を表明している.
 そして,一九八六年から一県一医科大学でせっかく増員した医学部の入学定員を削減,同様に医療費削減も断行された.そして現在は世界一の高齢社会にもかかわらず,日本のGDPに占める医療費は先進国中最低となった.まさにこの図が理不尽な日本の医療政策を証明している(図)
 ちなみに,「医療費亡国論」が発表された一九八三年は,故武見太郎氏が日医会長を辞した翌年だ.その直後から始まった政府の低医療費政策と医師数抑制策,この歴史を私たちはしっかりと心に刻んで行動すべきと思う.

勤務医のページ/勤務医の過重労働が医療崩壊を加速!/医療界は大同団結せよ!(図)

医療費GDP当たり一〇%へ,医学部定員五〇%増を

 日本と同様,医療費抑制と医師不足で医療崩壊の先輩に当たる英国は,すでに医学部定員五〇%増を断行し,医療費もGDP当たり一〇%を目標として増額を図っている.医療崩壊を食い止める施策は,医療体制の確保ばかりか安全性の向上に寄与し,格差社会が大問題になっている今日,雇用促進にも好影響があることを,私たちは繰り返し主張すべきだ.
 近い将来,団塊の世代の高齢化で爆発的に医療需要が増大することは,火を見るより明らかであり,今こそ日本は医療費をGDP当たり一〇%に増額し,英国に倣って医学部定員を五〇%増加すべきなのだ.

おわりに

 「医療は命の安全保障」,医療崩壊で最も被害を受けるのは,罪のない国民だ.しかし,国民は正しい情報なしに的確な判断を下すことは不可能である.
 私たちには,「現場の真実」を国民に伝え,専門家集団として日本の医療崩壊を阻止し,新たな日本の医療制度を提言し,再構築する社会的責任がある.今こそ,日医,各病院団体,大学や学会等を越えて,大同団結すべきだ.そのうえで,看護師,薬剤師,歯科医師,医療事務,その他各医療専門職にも呼び掛け,医療崩壊阻止の大きなうねりをつくらなければならない.日本がいくら世界の経済大国を目指しても,自殺大国と格差社会を放置し,国民が不幸なままでは,国の永続的な繁栄はないのだから.

(済生会栗橋病院副院長,医療制度研究会代表理事 本田 宏)

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