日医ニュース
日医ニュース目次 第1110号(平成19年12月5日)

刑事訴追からの不安を取り除くための取り組み
―診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案―第二次試案―について―
日医常任理事 木下勝之

刑事訴追からの不安を取り除くための取り組み/―診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案―第二次試案―について―/日医常任理事 木下勝之(写真)日医委員会提言

 医療事故が生じた場合,求められることは,被害者救済と医療関係者の責任問題であり,さらに医療安全の視点からの真相究明と再発防止である.
 このような視点から,日医は,昨年七月,「医療事故責任問題検討委員会」を立ち上げ,今日の医療事故に対する刑事訴追という誤った方向性を転換するための取り組みを開始し,本年五月には,「医療事故に対する刑事責任のあり方について」の三つの提言を行った.
提言1
 「医師法二十一条の改正」であり,異状死から医療に関連する死亡を外し,これを保健所への届出をもって代えることができる,とした.
提言2
 警察・検察庁など,医療事故に対する業務上過失致死傷事件の処理に対して,謙抑的姿勢の伝統の堅持を求めた.
提言3
 届出された診療関連死の原因究明と再発防止を行う機関として,第三者機関の設置を求めた.
 これらの日医の活動に前後して,厚生労働省は,本年四月,「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」を設置した.
 日医は,この検討会を,上記の三つの提言を法制化し,現実化することを,目指した検討会として位置付けてきた.
 その後,八回の討議の末,本年十月,「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案─第二次試案─」が,公表され,パブリックコメントが求められた.この試案に対するパブリックコメントは,賛否両論を含めて,百四件が寄せられた.
 そのなかには,厚労省試案に,特に次のような問題があるとする指摘が多かった.
 その指摘には誤解に基づく部分があり,その原因として,試案の表現では,真意が伝えられていない箇所もあることから,この試案についての問題点を解説することにより,刑事訴追からの不安を取り除くための日医の基本的姿勢を改めて明らかにしたい.

試案の問題点

問題1 義務化とペナルティ
 診療関連死の届出先を警察でなく,「委員会を主管する大臣とし,当該大臣が委員会に調査を依頼することとする」ことはよいとしても,試案の表現のなかで,最も大きく問題にされた点の一つは,「医療機関からの診療関連死の届出を義務化する.なお,届出を怠った場合には,何らかのぺナルティを科すことができることとする」であった.
 この表現は,検討会の席でも問題とされ,「義務化でなく,原則届けること」とし,また,「ぺナルティは外すべきである」と,強く主張したところであった.しかし,警察庁の主張によれば,「現在,最高裁判決によって,医師法二十一条で届けるべき異状死に診療関連死が含まれており,それは憲法に違反しないとされていることから,今回,第三者機関の設置により,診療関連死を異状死からはずして届出先を警察以外の組織にすることは認めるとしても,届出義務まで外すことは認められない.そして,義務化とする限り,それに違反した場合は,ぺナルティは科すべきである」ということであり,検討会の他の委員も第三者機関が国民から信頼すべき機関として活動を開始するためにも,第三者機関への届出は義務とすべきだという意見が出された.ペナルティという言葉については,それが刑罰を意味するものでないことは下記のとおりである.
─ペナルティの意味するところ─
 この問題に対しては,“ペナルティ”という言葉そのものは厳しいものの,実際の運用では,医師法二十一条違反のように,刑事罰ではなく,指導,勧告,命令,さらに悪質であれば行政処分などという内容を想定していることが,検討会の座長からも解説され,各委員の了解を得ているところである.
問題2 診療関連死
 診療関連死の届出先を,警察からそれ以外の機関に変更する場合には,診療関連死の範囲についての明確化が必要である.異状死と同様,診療関連死を定義付けることは,極めて困難である.
 しかし,具体的事例を挙げるのではなく,「診療に関連した思いがけない死亡に際して,医師は,原因が不明で,死亡診断書が書けず,剖検して死因を究明する必要があると判断し,遺族も同意した場合」あるいは,「医師は,医学的に死因を説明できるが,遺族が納得せず,第三者機関に,死因究明を求めた場合」等を,われわれは想定しており,およそ,あらゆる診療関連死の届出を要するものでない点をできるだけ明らかにするため,今後,検討会では,この問題を詳細に検討し,関係者の合意を得る計画である.
問題3 委員会報告書の活用
 第三の問題点は,「行政処分,民事紛争及び刑事手続における判断が適切に行われるよう,これらにおいて委員会の調査報告書を活用できることとする」という部分であった.
─調査報告書の目的─
 調査委員会は,専門家集団としての医師が中心となり,医学的に死因を調査する場である.
 その調査報告書の書き方には,真相究明から,今後の再発防止と医療安全の向上に力点を置く場合と,真相究明から,事故の時点での責任追及の当否を判断する場合がある.
 診療関連死の原因究明の目的は,医療安全に資するべきであり,医療安全の視点から,前者に重点を置いた調査報告書が求められている.そして,この報告書に基づき,仮に,それまでは刑事訴追の対象になる可能性があるような,明らかに医学的に重大な問題があった場合でも,刑事訴追に代わり,再教育の考慮など,新たに,行政処分の方向性を具体化することが,検討会内で検討されている.
 このような調査報告書を遺族と病院へ戻した後に,これが,民事あるいは他の法的手続きに用いられることがあるとしても,国民の合意に基づく制度である以上,このことを,否定することはできない.

刑事介入を避ける 新しい仕組みの法制化が目的

 このように,第二次試案は,あるいは文面だけを卒然と読むと,確かに誤解を生む可能性があり,明らかに説明不足の部分がある.今後,この試案に関して,まだ,詰めるべき論点はあるが,基本的には,医療サイドはむろんのこと,遺族側,刑事法学者,弁護士等,委員全員が合意しているものであり,診療関連死の場合に,原則として刑事司法の介入を避ける,新たな仕組みを法制化することがこの試案の最も基本的な目的である.
 厚労省の「診療関連死の死因究明の在り方に関する作業」は,現行医師法二十一条の下で診療関連死は警察に届け出ることから始まり,刑事訴追へ至る方向性を,診療関連死について変える,現実的な第一段階である.
 したがって,この問題に対する取り組みに関して,会員各位のご理解とご支援をお願いしたい.

厚生労働省
診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会委員

(○座長 50音順 敬称略)

 鮎澤 純子 九大大学院医学研究院医療経営・管理学講座准教授
 加藤 良夫 南山大大学院法務研究科教授/弁護士
 木下 勝之 日医常任理事
 楠本万里子 日看協常任理事
 児玉 安司 三宅坂総合法律事務所弁護士
 堺  秀人 神奈川県病院事業管理者・病院事業庁長
 高本 眞一 東大医学部心臓外科教授
 辻本 好子 NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長
 豊田 郁子 新葛飾病院 セーフティーマネージャー
 樋口 範雄 東大大学院法学政治学研究科教授(英米法)
前田 雅英 首都大東京法科大学院教授
 南   砂 読売新聞東京本社編集委員
 山口  徹 虎の門病院院長
 山本 和彦 一橋大大学院法学研究科教授
【オブザーバー】
 北村  滋 警察庁刑事局刑事企画課長
 甲斐 行夫 法務省刑事局刑事課長

(平成19年11月8日現在)

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