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第1112号(平成20年1月5日) |
年頭所感
日本医師会長 唐澤 人

明けましておめでとうございます.会員各位には健やかに新年をお迎えになられたこととお慶び申し上げます.本年もよろしくお願い申し上げます.
昨年中は,本会の事業運営につきまして,暖かいご支援と深いご理解を賜り,衷心より感謝いたします.
国政におきましては,第二十一回参議院選挙で与野党逆転となり,福田内閣が誕生するなど激動の年でした.医学の世界では,京都大学再生医科学研究所チームが,「人工多能性幹細胞」,いわゆる万能細胞をつくることに成功し,臨床応用に道を開きました.今後解決すべき問題も残されてはおりますが,人類に大きな福音をもたらすことを大いに期待するものであります.
さて今日,長年にわたる社会保障への財政支出削減策の影響により,全国各地域において,生活の安全や信頼が大きく損なわれる事態となっています.ことに地域医療提供体制では,小児医療,産科医療,救急医療体制などにおいて,医療崩壊ともいえる状況が明白になりました.
OECD加盟三十カ国中,二十二番目という対GDP比総医療費によって維持されているわが国の医療は,医療内容や効率において奇跡ともいえる成果をもって,WHOや諸外国からも高く評価され,注目されてきましたが,そこには,各医療機関や医師をはじめとする医療専門職の献身的な尊い努力があります.他方,病床削減や経費節減が強いられる状況のなかで,専門医療の中核的担い手である病院勤務医は,多大の負担を強いられ,疲弊しきっています.
この状況を打開するための根本的対策が不十分であれば,地域医療提供体制は崩壊に至るでありましょう.言うまでもなく,病院勤務医と診療所開業医の医療機能分化と連携は,一層推進・強化されなければなりませんが,勤務医に対する救急・外来医療の軽減,勤務環境の改善,事務作業等の軽減など,緊急かつ抜本的な取り組みが必要です.今こそ,すべての日医会員は,一致団結して国民医療を守るという大目的を果たすために行動すべき時であります.
超高齢社会と言われる二十一世紀初頭において,健康寿命を延伸するとともに,要介護高齢者のための介護と,医療の提供基盤を整備することが求められております.そのためには,全国隅々に及ぶ地域医療の現況とその正確な把握が必要です.そのうえで,医療提供体制の拡充に向けた医師・看護師などの専門職の確保と,必要な施設の整備がなされなければなりません.
わが国の医学・医療は,世界を先導するに値する水準を誇っていると確信しております.そして,これらを支えてきた国民皆保険制度は,すべての国民が,いかなる医療をも普遍平等に提供されることが可能な保障制度であり,わが国の公共財として大きな国富を産み出す源であるとともに,一人ひとりの国民にとっても,安全,安心と信頼の社会システムの原点です.
社会保障制度の根幹である国民医療を,より一層充実させることは,本会の社会的責務であります.そのための活動を全国各地から展開していくためにも,会員各位のさらなる協力をお願い申し上げます.
ここに改めて,会員各位にとりまして,本年が幸多き年でありますよう,ご祈念申し上げ,年頭のごあいさつといたします.
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