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第1126号(平成20年8月5日) |

ブラジル移民100周年記念・日伯医学交流記念大会に参加して

一九〇八年四月に神戸港を出航した笠戸丸には,第一回ブラジル日本人移住者七百八十一人が乗船し,六月十八日に,サンパウロに近いサントス港の十四番埠頭に着岸した.これを記念して百周年祭が催され,併せて「日伯医学交流記念大会」が,サンパウロで開催された.
ブラジル医師会のアマラール会長から唐澤 人会長を大会名誉会長として招待したいとの申し出があり,私が会長代理として,この記念大会に参加した.学術講演会では,私が「国民皆保険制度と日本医師会」,石井正三常任理事が「日本医師会の生涯教育」について講演し,多くの熱烈な質問を参加者からいただいた.
ブラジルには公的医療保険(SUS)があり,薬剤を除き医療費は無料であるが,医療機関に支払われる初診料は二ドルで民間保険は五十ドル.公的保険が低額のため,一部の病院のみがSUSを取り扱い,国民の大多数は米国のように民間保険に加入する必要がある.これに対して,わが国の医療保険制度の国民皆保険制度による公平性と利便性,欧米先進国に比べて対GDP総医療費がきわめて低額であるにもかかわらず,効率性が高いことなどは,参加者から大きな称賛を受けた.
しかし現在,政府による医療費・社会保障費の削減が,医療・介護・福祉に多大な混乱を巻き起こしていることも説明した.
アメリカのような多民族・文化・宗教の集合する政治・経済大国,そしてポルトガルの植民地として多国籍の移民を受け入れ発展した,BRICsのなかの好況な資源大国ブラジル.やはりそこには市場原理主義が重要視され,わが国のような医療保険制度の導入は困難と感じた.
日本の二十三倍の広大な面積を持つブラジルの人口は約一億八千万人.医師の一〇%は日系移民で,その能力,信頼性,社会的貢献は高く評価されている.
サンパウロには,第二次世界大戦の直前に日本からの寄付金と皇室の御下賜金でサンタクルース病院が設立された.また,二十年前の移民八十周年の記念日に,サンパウロ日伯援護協会と多種団体に日医も参加した寄付金で,日伯友好病院が開院した.これらの病院は,日本との医療・医学交流が活発で,多くの医師が日本の病院で医療技術の研修を受けている.
ブラジル医師会長の提案で,われわれはブラジルの看護大学の教授や看護協会の方々と,情報交換を行った.そのなかでは,「ブラジル看護大学の学生・看護師が,日本の看護大学・病院での留学・研修は可能であるか」などが熱っぽく語られ,われわれは,ブラジル医療関係者との親密な連携を継続発展させる必要を痛感した.
(副会長・岩砂和雄) |