日医ニュース
日医ニュース目次 第1132号(平成20年11月5日)

第119回日本医師会臨時代議員会
唐澤会長 今こそ,「国民医療を守る」というスタンスで医療界の大同団結を

 第119回日本医師会臨時代議員会が,10月26日,全国から352名(定数354名)の代議員が出席し,日医会館大講堂で開催された.
 当日は,一般会計決算の件など,5議案の審議が行われ,可決成立した.(関連記事12参照)

第119回日本医師会臨時代議員会/唐澤会長 今こそ,「国民医療を守る」というスタンスで医療界の大同団結を(写真) 午前九時三十分,石川育成代議員会議長の開会宣言,あいさつの後,議席の指定,定足数の確認,議事録署名人二名の指名と議事運営委員会委員八名の紹介が行われた.
 次に,唐澤人会長が,別掲別記事参照のとおり所信を表明.つづいて,竹嶋康弘副会長が,平成二十年四月以降の会務報告を行い,議事に移った.
 まず,第一号議案「平成十九年度日本医師会一般会計決算の件」,第二号議案「平成十九年度医賠責特約保険事業特別会計決算の件」,第三号議案「平成十九年度治験促進センター事業特別会計決算の件」,第四号議案「平成十九年度医師再就業支援事業特別会計決算の件」,第五号議案「平成十九年度がん医療における緩和ケアの意識調査等事業特別会計決算の件」を一括上程,宝住与一副会長による提案理由説明の後,決算委員会に審議(審議の模様は別記事参照を付託した.
 その後,代表質問と個人質問に入った(詳細は,『日医雑誌』十二月号の別冊参照)

代表質問

 (一)浅野定弘代議員(近畿ブロック)の消費税の増税についての質問には,宝住副会長が,これまでの社会保障費の削減によって疲弊した地域医療を立て直し,良質な医療を提供し続けるためには,長期的・安定的な財源が必要であると述べ,『グランドデザイン二○○七』でも示したとおり,消費税は中長期的な視点からも医療における重要な財源の一つと認識しているとの日医の考えを改めて説明した.
 逆進性については,消費税が今後も社会保障の財源として使用されるなら,医療を始めとする社会保障分野の給付を考えると,その性格は弱くなるとの考えを示した.
 また,今村聡常任理事が,消費税率アップによる「控除対象外消費税」の拡大は,絶対に阻止しなければならないと説明.ゼロ税率や軽減税率課税の実現の可能性に関しては,現時点では確認されていないが,軽減税の方がより現実的であるとの考えを示した.
 さらに,今後は,税制改正大綱を踏まえ,消費税を含む税体系の見直しが行われる場合には,速やかに対応できるよう,引き続き,各界への働き掛けを粘り強く行っていくとし,理解と協力を求めた.
 (二)佐々木紘昭代議員(中部ブロック)からの国民皆保険制度とワーキングプアに関する質問には,竹嶋副会長が,低所得者の受診機会を担保するには,保険料や一部負担金の減免制度の活用が効果的との考えを説明.
 そのうえで,市町村が減免を実施・推進する際の,(1)財政影響への懸念(2)減免に該当するかの判定の困難さ(3)減免制度についての地域住民への周知不足─の三つの課題があると述べた.
 (1)に関しては,国保財政の強化策として,将来的には国保・社保の保険者間の強力な財政調整が必要とし,(2)では,国として統一的な運用基準が提示された場合,その示す基準が厳しいものとならないよう十分配慮する必要があると述べた.
 (3)については,制度に関する情報提供が医療機関にもきちんと行われること,申請手続きや相談などの対応が,市町村,福祉事務所で適切・迅速に行われること,それぞれが十分な連携を図ることが重要であり,そのためには,地域の医師会が中心的役割を担う必要があるとの考えを示した.
 (三)医師養成数の増加に向け,日医も独自の対応策をという吉本正博代議員(中国四国ブロック)の質問には,岩砂和雄副会長が,医師養成数をOECD諸国並みにするのであれば,医療費も同様に増やす必要があるとし,医療財源確保策として,特別会計や独立行政法人改革による新たな財源確保や,保険料の事業主負担の増加,保険料率の見直しをすべきと日医は主張していると説明.
 さらに,OECD諸国の平均医師数をそのまま日本に採用することは適切でないとし,現在日医で行っている「医師確保のための実態調査」の結果を踏まえて,適正な医師数のあり方について検討する予定であるとした.
 また,病院に必要な医師数が確保されなければ勤務医の過重労働問題は解決されないとし,医師養成数の増加は医師偏在対策と相まって行われなければ有効ではなく,医学部定員増の前提には,(1)自治医科大学のような地域医療貢献策(2)救急医療や分娩に対する直接的な手当等,勤務医に報いる補助制度の確保があるが,本来は医療財源の確保が最も重要であり,医業経営の改善・安定により病院勤務医やコメディカル等を十分確保し,勤務条件を改善すべきだと指摘.日医は,(1)地域医療への貢献策(2)医療と教育財源の確保(3)偏在対策の条件成就に向け,尽力していくとした.
 (四)公益法人制度改革への速やかな対応を求める吉原忠男代議員(関東甲信越ブロック)の質問には,宝住副会長が,日医作成の定款変更案を始めとする移行申請書類のうち,他医師会の参考となるものは,速やかに情報提供していくと説明.
 新公益法人制度下における代議員選挙の実施方法については,基本的には現行と同じような方法で,都道府県医師会に委託していきたいと考えている.ただし,新制度下では,都道府県医師会に代議員選挙を委託する場合,当該選挙が日医の「責任者による一定の関与」のもとに行われることが必要となるため,具体的内容を,現在,内閣府公益認定等委員会事務局と折衝中であることを報告.日医は,現行の制度をもって「一定の関与」と認めるよう主張しているとした.
 さらに,代議員選挙制度の改正時期については,内閣府公益認定等委員会が公表した「移行認定のための『定款の変更の案』作成の案内」等を見ても,特段の記述がないため,代議員選挙制度の改正は新法人への移行後に行いたいとの考えを示した.
 (五)畑俊一代議員(北海道ブロック)からの「地域医療,保健,福祉を担う幅広い能力を有する医師」養成のための認定制度(案)に関する質問に対しては,唐澤会長が答えた.
 まず,認定制度(案)を取りまとめた経緯として,日医三大会議の一つである学術推進会議の報告書を受けて,執行部において議論を重ねてきたことを説明.同制度は極めて重要な案件であり,地域の医師会や会員の理解を得る前に,一方的に機関決定するつもりはないと述べ,賛否双方の意見を十分に聞きながら,慎重に対応していく考えであることを強調した.
 また,同制度(案)は,あくまでも日医生涯教育制度のバージョンアップであり,そのカリキュラムや学習環境の整備については,都道府県医師会等と相談しながら対応していくとの考えを示した.
 さらに,e─ラーニングの活用等,会員がより履修しやすい方法を生涯教育推進委員会で検討中であるとし,日医が学術専門団体として,国民の期待に応えるための方策を,幅広く検討していくことへの理解を求めた.
 (六)「安心と希望の医療確保ビジョン」と日医の政策との関係を問う横倉義武代議員(九州ブロック)からの質問には,竹嶋副会長が回答した.厚生労働大臣の私的諮問機関である「安心と希望の医療確保ビジョン」会議の設立や人選等に日医はかかわっておらず,法令に基づく審議会でもない同会議による恣意的とも思える案を,国家政策として提言することは間違いであると断言.このような誤った政策決定過程は正していくべきと述べた.
 さらに,同じく厚労大臣の私的検討会である「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会」の中間報告における,医師養成数を将来的に一・五倍に増やす提案については,具体的な数は別としても増員自体には賛成としつつ,必要な医療費財源が具体的に言及されていないことを問題視.現場の実態把握のために,日医として,「医師確保のための実態調査」を実施中である旨を報告した.
 医師臨床研修制度の見直しについては,年内に『グランドデザイン二〇〇八』において,日医の考えを提示する予定であると説明.
 また,医師の適正配置と自由開業制との整合性に関しては,地域で診療科ごとに医師数の上限制を設けること等には断固反対であり,当面の対応としては,国による医師不足・偏在地域への環境整備等の強力な支援により,医師個々のモチベーションを高め,偏在の解消に努めるべきであるとして,今後もこれらの諸問題の対応に全力を傾注していくことを表明した.

個人質問

 (一)笠井英夫代議員(岡山県)は,二年に一度の役員改選時期と診療報酬改定の時期が重なる問題点を指摘し,日医の見解を質した.
 羽生田俊常任理事は,当該指摘は以前よりなされていたとしたうえで,「本年十二月一日から施行される新公益法人制度への対応のなかで,新たな法律の規定に基づき,毎事業年度の経過後三カ月以内に決算関係資料を内閣府に提出しなければならないため,役員選挙と決算の代議員会は六月に開催する方向で検討を行っている.そのため,四月一日の診療報酬改定から約三カ月の期間があくことになるので,影響が少ないのではないかと考えている」と述べた.
 また,理事の任期については,新法に,「選任後二年以内に終了する事業年度のうち,最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする」と定められていることから,その短縮は可能だが延長はできないことになっていると説明した.
 (二)大澤英一代議員(奈良県)の新公益法人制度についての質問に対して,今村(聡)常任理事は,現状では,日医が公益認定された場合の税制上のメリットはないが,従来どおり,主に会費に依存することで,活動を維持・拡大できるのかという問題があるとして,会員あるいは,広く国民から寄付金をいただけるような団体として認知され,寄付金を受けることの税制上のメリットを受けつつ,公益法人としての活動を拡大していくことも重要との見解を明らかにした.
 そして,問題は,公益認定を受けるプロセスにあると考えており,一般社団法人を経た後,公益社団法人に移行することも選択肢の一つとして考えていると説明した.
 また,「公益目的財産額の算定,公益目的支出計画の作成等の具体的な凡例を各都道府県医師会に早急に示して欲しい」との要望については,個別の問題を検討してもらう一助として,都道府県医師会,郡市区医師会を対象にセミナーを企画していると述べた.
 また,新会計基準導入に際し実施したようなモデル事業の可能性についても,早急に検討したいとの考えを示した.
 (三)嶋田丞代議員(大分県)からの,医療関係職種の業務分担と裁量権の見直しについての質問に対しては,羽生田常任理事が,まず,NP(ナースプラクティショナー)やPA(フィジシャンアシスタント)のような新たな医療関係職種の創設はまったく考えていないことを明言した.
 そのうえで,「業務分担の見直しに当たっては,教育の裏打ちが必要であることは言うまでもなく,医療の安全を保障し,患者の生命・健康を守る立場から,現行の法制度やその法令解釈の範囲を逸脱することなく,慎重に対応していきたい.また,医療関係職種が新たに業務分担をした時には,責任の所在が明確にされなければならない」と述べ,具体的な問題が生じた場合には,四病院団体協議会や全国医学部長病院長会議,関連学会とも十分な協議を行い,意思統一を図る意向を示した.
 さらに,「医療関係職種の業務分担の見直しは,人手不足対策のために行うのであれば,それは明らかな誤りだ」と指摘し,見直しを行う場合は,業務内容,教育内容,またその許容範囲について,本質的な検討を行うべきであるとした.
 (四)池田琢哉代議員(鹿児島県)の,「小児保健法制定に向けた日本医師会の今後の具体的な取り組み方針」についての質問には,今村定臣常任理事が答弁した.
 「小児保健法の制定」に関しては,日医が,平成十八年五月に発表した「子ども支援日本医師会宣言」のなかに具体的施策の一つとして示された.また,昨年設置された小児保健法検討委員会(プロジェクト)が,本年一月に取りまとめた答申では,「小児保健法」の制定が提案され,今年度の事業計画のなかに「小児保健法」実現に向けた取り組みが盛り込まれた.
 法制定に向けては,与党の関係国会議員から,勉強会・説明会の開催時に,法案作成に当たって,具体的な実態を明らかにして欲しいとの要望があることから,日医としても,本年九月に小児医療費助成制度,乳幼児健診および予防接種に関する実態調査を実施中である.
 今後は,同調査の集計を基に実態を把握し,小児医療費助成制度等における地域間格差の是正を求め,関係各部署への働き掛けやロビー活動・勉強会等,小児保健法の制定実現に向けた取り組みを,一層推進していきたい.
 (五)金直樹代議員(秋田県)からの,「平成二十年度要介護認定モデル事業」に関連する質問に対しては,三上裕司常任理事が,従来通知で,主治医意見書の内容から,通常の例より介護に要する時間が長い(短い)と判断される場合,一次判定結果を変更するとしており,今回のモデル事業でも変わりはないと説明.
 要支援二および要介護一の判定を,「認知機能の障害」「状態の安定性」を勘案して審査するなかで,「認知症自立度が“II以上”である蓋然性」を具体的な数字で示すことに変更されたことに関しても,最終的な判断は審査会に委ねられており,利用者に不利益が生じるとは考えていないとした.
 また,運動機能が低下していない認知症高齢者について,要介護認定等基準時間に時間が積み足される方式に変わったことに関しては,表現方法だけの変更であり,特記事項,主治医意見書から介護の手間が推察される場合にはさらに重度変更が可能で,逆に主治医の意見が反映されやすくなったとも考えられると述べた.
 さらに,今回のモデル事業は,新方式の実効性を,従来の作業業務との比較・検討によって検証することが目的だが,制度の変更が給付抑制や介護の縮小につながり,結果的に不都合等の生じる個別のケースが出てくれば,今後も強く意見を述べていくとの考えを明示した.
 各医師会に対しては,主治医意見書,特に「特記すべき事項」の内容が認定審査会における一時判定結果変更の根拠となることから,その重要性の周知と記載の充実を図ることを要望した.
 (六)「自治体病院はこのままでは消滅する」という,加藤正彦代議員(三重県)の質問には,三上常任理事が回答.
 自治体病院など,公的病院の使命は,不採算医療を始めとする政策医療の実施と,医療計画に基づく地域における医療連携に資することだが,一方で,人件費や減価償却費など,官民の格差は歴然としており,これが経営を圧迫しているのも事実だと指摘.財政に重きを置いた自治体病院の改革の結果,公立病院としての使命を果たさなくなれば本末転倒で,地域医療は大きく後退するとした.
 また,総務省の「公立病院改革ガイドライン」は,(1)経営の効率化(2)再編・ネットワーク化(3)経営形態の見直し─の三つの視点に立って,各自治体に改革プランの策定を求めているが,自治体病院の改革は,地域全体の医療のあり方に影響するため,地域医師会が主導的な立場でかかわっていくことが大切だとした.
 さらに,本質的な対策として,診療報酬の引き上げが必要だとの考えを示し,将来の医療体制の提言に当たっては,政策医療や地域連携という自治体病院の果たすべき使命という視点にも立って行いたいと述べた.
 (七)井上雄元代議員(千葉県)は,今日の医療・介護の崩壊の原因は,医療費の抑制にあると指摘.日医に対して,社会保障費の増大を国に求めるよう要望を行った.
 これに対して,中川俊男常任理事は,日医は,一貫して,国に社会保障費の機械的抑制の撤廃を求めていることを説明.
 そのうえで,日医が考える医療費の財源確保策の四本柱((1)医療保険財政の改革(2)特別会計の改革(3)独立行政法人の改革(4)消費税)を改めて解説した.
 特に,消費税については,税率を引き上げたとしても,基礎年金の国庫負担の引き上げに使われる可能性が高く,日医としては,医療,介護,年金を同じ土俵に上げたうえで,消費税の議論をするように求めているとした.
 また,今後は,現在改訂作業を進めている『グランドデザイン二〇〇八』のなかで,四本柱の財源論の根拠を基に医療のあるべき姿を再度示し,医療費の増加の必要性を主張していくとともに,麻生総理に対して,社会保障費の伸びの圧縮の撤廃と併せて政策転換を求めていく考えを示した.
 (八)レセプトオンライン請求義務化に対する日医の見解を問う田中義代議員(群馬県)の質問には,中川常任理事が回答した.
 同常任理事は,オンライン請求の完全義務化は,地域医療の崩壊につながる重大な問題であることから,日医は,完全義務化を撤廃し,手挙げ方式の導入を求めているとし,仮にそれが不調に終わった場合に備えて,五項目((1)代行入力支援に必要な初期費用の手当て(2)レセプト年千二百件とされている少数該当の大幅な緩和(3)代行請求業務の改善(4)国保請求書,医療費助成制度などの書式を統一し,電子化すること(5)オンラインではなく,レセプト電算処理,電子媒体を医師会などが代行送信すること)に絞って,政府に働き掛けていることを説明.
 そのうえで,同常任理事は,さまざまなクリアすべき課題もあるが,全国各地でオンライン請求のために地域医療から撤退を余儀なくされる医療機関が出ることのないよう,全力で取り組んでいくとの決意を示した.
 (九)山光進代議員(北海道)は,札幌市医師会が行ったアンケート調査の結果,外来受診の抑制が起きていることが明らかになったことを紹介し,その最大の要因は国民各個人の可処分所得の減少にあると主張.日医に対して,現状の認識と今後の対応について回答を求めた.
 藤原淳常任理事は,日医が行った「緊急レセプト調査」の結果や厚生労働省が発表した最近の医療費の動向を見ても,受診抑制,急性期病院へ医療費の移譲が起きていることが分かると指摘.
 受診抑制を改善することは,大変大きな課題であり,日医としても,自民党のマニフェストに盛り込むべき要望事項として,「社会保障費の機械的抑制を行わない」「後期高齢者医療制度の見直し」とともに「高齢者の負担軽減」等を入れて提出したことを報告. 
 今後は,特に低所得者層への対応,つまり,自己負担限度額の引き下げ,先進国のなかでも突出して高い実効負担率(窓口負担率を平均したもの)の引き下げ等を含めて主張していくので,協力して欲しいと述べた.
 (十)臼井康雄代議員(岩手県)は,盛岡市で開始した特定健診に関して,盛岡市医師会がアンケートを実施したことを報告.この医療現場からの声に対する日医の見解を内田健夫常任理事が示した.
 特定健診の電子化費用について,同常任理事は,「平成二十年二月に保険者協議会中央連絡会より各都道府県保険者協議会への通知のなかで,『特定健診の委託契約については,電子化に係る費用(手数料)も含まれた契約単価となる』と記されている.医師会が保険者と契約交渉する際に,この点を踏まえて当たって欲しい」と回答.
 また,特定健診・特定保健指導という制度自体に対しては,「他の健診との同時実施,受診者への説明,保険者への問い合わせなど現場に負担と混乱が起きていることは十分認識している.本制度については,十一月より厚労省で集中して検討するので,現場のさまざまな意見を踏まえ,協議したい」との考えを示した.
 さらに,「メタボリックシンドロームの概念を導入した予防重視の方向性は,間違ったものではないと考えている.医師や医師会が特定健診・特定保健指導に積極的に関与し,改めるべき点は随時強く提言していく必要がある」と述べた.
 (十一)指出昌秀代議員(静岡県)からの「いわゆる総合医」認定制度実施の必要性,(十二)中島俊明代議員(愛媛県)からの「地域医療,保健,福祉を担う幅広い能力を有する医師」の認定制度への質問に対しては,飯沼雅朗常任理事が,一括答弁を行った.
 そのなかで,同常任理事は,(1)かかりつけの医師との違い(2)現行の生涯教育制度との違い(3)認定制度が「フリーアクセスの制限,人頭割り,定額払い,総枠規制」へつながる可能性─の三項目について回答.
 (1)については,「かかりつけの医師とは,何でも相談できる上,最新の医療知識を熟知して,必要な時には専門医,専門医療機関を紹介でき,身近で頼りになる『地域医療,保健,福祉を担う幅広い能力を有する医師』と日医では定義している.日々,地域医療を担っている医師は,日常診療において,すでにその能力を有していると考えている」と説明した.
 (2)に関しては,「日医の生涯教育制度は,昭和六十二年の発足以来,着実に発展し,日本の医療を支えてきた.この歩みを止めてはならず,現代の医学・医療の進歩に対応するべく,現行の生涯教育制度の底上げが必要である.医療事故報道等で医療に不信感を持っている国民に対し,日常診療での実践や,医師が生涯教育に励む姿とその成果を,これまで以上に分かりやすく示すことが望まれている.医療提供者として,社会的要請に応えていく責務があり,それを推進することこそが,日医の役割と考えている」と述べた.
 (3)については,「本制度は,生涯教育の有用性の観点から検討されたものであり,政策的あるいは政治的な視点から考えられたものではない.日医は,日本の公的医療保険制度の優れた特徴である『国民皆保険』『現物給付』『フリーアクセス』の堅持について,これまで同様,あらゆる場面で引き続き主張していく.日医が主導的に制度を運用することにより,『フリーアクセスの制限』『人頭割り』『定額払い』『総枠規制』を阻止できる」と強調した.
 (十三)薄田芳丸代議員(新潟県)より,(1)地方の医師不足・偏在に対する,推進すべき対策と容認できない対策(2)「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」に対する日医のかかわり方─などについて,質問が出された.
 また,(十四)河西紀夫代議員(北海道)から,新医師臨床研修制度の見直しに関し,現行の二年間の研修期間を一年間に短縮することについて提案がなされ,これらの質問に対し,一括答弁が行われた.
 まず,(十三)(1)については,内田常任理事が,推進すべき対策として,「ドクターバンク」「地域医師会等による初期救急医療への取り組みの支援」「地域医療貢献策の実施等を前提条件とした医学部定員増」などを列挙し,診療報酬の引き上げによる医業経営の改善,安定を担保し,病院が十分な勤務体制を確保できるようにすることが第一とした.
 また,各地の対策を把握,支援するため,「医師確保のための実態調査」を実施したことを報告し,今後,効果的な対策を全国に紹介するとした.
 一方,容認できない対策としては,「医療や教育財源の裏付けのない大幅な医師養成数の増加」「医療安全や患者の立場を考えない,医師偏在・不足対策を口実としたコメディカルの業務拡大」「総合科や半ば強制的な集約化の推進など,医療のフリーアクセスの否定」などを挙げた.
 なお,へき地等での勤務義務付けは,さまざまな問題が考えられることから,さらに検討する必要があるとした.
 (2)の「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」については,飯沼常任理事が,「委員として参加しているが,現在は,関係者からのヒアリングを行っている段階であり,具体的な協議には入っていない」と報告した.
 また,(十四)の臨床研修制度については,「最終的な結論は出していない」としたうえで,(1)研修期間(2)専門科の選択決定時期(3)研修内容(4)研修体制(5)マッチングのあり方と募集定員─の観点から検討していると説明.
 「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」では,舛添要一厚労大臣が医師不足解消の方策として研修期間の短縮に言及したことから,本件が課題になる可能性があるとし,その場合は,併せて卒前教育の充実や医師国家試験についても考える必要があるとした.
 さらに,募集定員が卒業生数を大幅に上回っている現状については,地域的偏在を是正する意味からも,早急に改善する必要があると強調.詳細にわたる改革案を年内に公表予定の『グランドデザイン二〇〇八』で明らかにする意向を示し,「医療崩壊の引き金となった臨床研修制度の改善に取り組んでいく」と述べた.
 (十五)寺下浩彰代議員(和歌山県)からの日医のあるべき姿,将来像についての質問には,中川常任理事が回答.
 医療のあるべき姿を示すため,(1)日医自らの提言として『グランドデザイン二〇〇七』を作成した(2)経済財政諮問会議の「基本方針」に先んじ,社会保障費の財源確保のための方策を取りまとめた(3)社会保障費の機械的抑制が,いかに地域医療を崩壊させたかを示し,社会保障費の増加に向けて保険料の格差是正などを訴えた─ことを説明.
 さらに,テレビCMや意見広告も活用し,国民の日医への理解が深められたことを紹介した.
 将来像については,『グランドデザイン二〇〇七』に記した,「国民が格差に苦しむことなく,公平な医療を受けられることを約束する」ことこそが,日医のスタンスであるとし,そのための柱の一つである公的医療保険制度の再構築を図るべく,七十五歳以上高齢者の医療費について,「保障」の理念の下,九割公費負担の実現を目指すとした.
 また,社会保障費の年二千二百億円の機械的抑制の撤回を,繰り返し要求していく一方,医療費の増加に転じさせるため,引き続き財源について検討すると強調.政界,官界に主張を述べるだけでなく,国民・患者の理解を得られるよう,尽力するとした.
 つづいて,議事運営委員会において質問を認められた上埜光紀代議員(北海道)が,医療安全調査委員会(仮称)の設置などに対する日医の見解について質問し,竹嶋副会長が回答を行った.
 同副会長は,この問題については,医療現場や各医師会から多くの意見が寄せられていることから,現在も引き続き執行部で検討を続けている状況にあると説明.現在は,寄せられた意見を執行部で整理している段階にあり,十一月の半ばごろまでには,日医としての考えを取りまとめ,改めて,各医師会に示して,意見を聞きたいと述べた.
 午後三時三十分,決算委員会の審議結果が報告され,いずれも賛成多数で可決した.
 最後に,唐澤会長,米盛學代議員会副議長の閉会あいさつが行われ,午後三時四十七分に閉会となった.

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