日医ニュース
日医ニュース目次 第1136号(平成21年1月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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新たに見出された脂肪細胞の機能
〈日本肥満学会〉

 従来,脂肪細胞は余分なエネルギーを蓄え,飢餓などの必要な時にこれを利用すると理解されてきた.この機能が存在するという考えに異論はない.近年,細胞生物学的な解析の進歩,脂肪細胞の最も関与する疾患としての肥満についての臨床的な病態解析の進歩などがあり,脂肪細胞の機能,個体における役割などについて,次々にその重要性についての新しい知見が報告されている.この領域では,日本は世界をリードしていると言って過言ではない.脂肪細胞の初代培養法を確立したのは,杉原甫元佐賀医科大学病理学教室教授であった.その細胞を用いて実際に,生体でも脂肪細胞は個体を制御する多くのサイトカインを分泌することや,その機序が明らかにされた.
 これらの分泌するサイトカインのなかで一例を挙げると,TNF-αなどは実際に糖尿病や高血圧,高脂血症の発症に直接間接に関与していることが明らかにされた.これに拮抗するアディポネクチンも分泌されることが示された.このほかにも非常に多くのサイトカインが分泌され,多くの疾患の発症にかかわるものとして位置づけられている.そして,それらの機能の発現は,脂肪細胞が個体のどこに分布するかということによっても異なり,内臓では脂肪組織の過剰な蓄積はこれらの疾患の発症に深くかかわりを持ち,皮下のそれでは起こらないことが示され,これらの機序解明についても研究が進んでいる.
 このように,脂肪細胞がサイトカインを合成し分泌できるという機能は,いろいろなホルモンやサイトカインが欠損したり減少している病態に,それを補充する治療法に利用できないかという発想で試みられている.細胞に遺伝子を導入して必要とするサイトカインを作らせ,それを脂肪細胞が分泌できれば可能性はある.実際,多くのサイトカインで,この手法は取り組まれ,技術的には異なるいくつかがあるが,いずれにしても分泌させることは可能である.
 次に,これを必要とする人にこの細胞を移植することであるが,この脂肪細胞は血管新生因子も多く分泌し,容易に移植可能な細胞であることも分かった.これら一連の研究により,現在は臨床治験に入るところにきているが,動物実験レベルでの糖尿病のインスリン補充を考えた研究では,数カ月にわたって血糖を正常に維持できることが報告されている.臨床の成果が期待される.

【参考文献】
一,Sibasaki M, Takahashi K, Itou T, Miyazawa S, Ito M, Kobayashi J, Bujo H, Saito Y. Alterations of insulin sensitivity by the implantation of 3T3- L1 cells in nude mice. A role for TNF- alpha? Diabetologi. 2002; 45(4): 518- 526.
二,Ito M, Bujo H, Takahashi K, Arai T, Tanaka I, Saito Y. Implantation of primary cultured adipocytes that secrete insulin modifies blood glucose levels in diabetic mice. Diabetologia. 2005; 48(8): 1614- 1620.

(千葉大学学長 齋藤 康)

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