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第1137号(平成21年1月20日) |
新春対談 唐澤 人会長VS小宮山宏東京大学総長
変革の時代,医師会は勇気を持って前に!

新春に当たり,今回は,第二十八代東京大学総長として,世界の知の頂点を目指して,「東京大学アクション・プラン」を公表するなど数々の改革を実行してこられた小宮山宏氏を迎え,「知の構造化」,「課題先進解決国」としての日本の役割,そして,「変革の時代における医療の将来像」について,語っていただいた.
唐澤 小宮山先生の幼年期は,スポーツとか大変活発にお過ごしになったとお伺いしておりますが,お正月といいますと,何か特別に覚えていらっしゃることがございますか.
小宮山 先生と余り時代が変わらないのですが,やはり父親が遊んでくれるというか,そういう時だったという思いがものすごく強くあります.お正月というのが今よりもはるかに大きな行事でした.
母親は,お正月料理を三,四日かけて作りこんでいました.お正月が来ると,本当に大人が遊んでくれたという記憶が大きいですね.父親と凧(たこ)揚げなんかをしてもらったのはすごく好きだったんですが,お酒に酔った父親と遊ぶのは,逆に嫌だったという両方の記憶が残っています.
唐澤 おそらく,そのころの東京は,いろいろなところに空き地があったり,それから子どもたちが遊んでいたりというようなことで,楽しい思い出もたくさんあったのではないでしょうか.
小宮山 もうおっしゃるとおりで,住まいは大橋(東京都目黒区)でしたけれども,私の子どものころは,周りは本当に空き地だらけでした.今は,東邦大学医療センター大橋病院があり,アパートが何十棟と建っていたり,駒場高校のグラウンドになっておりますが,そういうところがわれわれの遊び場所という,そういう時代でした.
唐澤 それから,お正月になりますと,凧揚げや双六(すごろく)・カルタ取りといった遊びがありますが,今の子どもたちは,凧揚げなんてほとんどしないのではないでしょうか.場所もないし,揚げ方も知りません,どうして揚がるかというようなことも……この話になるときっと長くなりますが.
小宮山 セミ凧は揚がりやすいのですが,四角い凧を揚げるのは結構大変で,あれで腕を競いましたよね.あとは,羽根つき大会というのを覚えていますね.男の高学年の羽根つきというのはかなりレベルが高かったので,たっぷり練習を積んで,妙に張り切ったのを覚えています.大々的な行事でした.
唐澤 今のお正月よりは非常に密度の高いお正月を過ごされたのではないかなと拝察いたします.
私たちが子どものころのあこがれのスポーツは野球でしたが,先生は,学生時代にクラブ活動をたくさんおやりになったのではないですか.
高校に進まれてからは,主にアメリカンフットボールでしょうか.
小宮山 当時は,男の子の多くは野球をやるといったような,そんな時代でしたね.私がアメリカンフットボールをやったのは大学の時です.大学できちっと何か四年間やり通したいと思っていたのですが,大学野球は今よりレベルが高く,レギュラーになれる自信がなかったもので,やはり試合に出られるほうが面白いと思い,割合出来立てのクラブだったアメリカンフットボール部に入りました.
所期の目的を達して,二年からレギュラーになり,卒業するまでに四十から五十試合には出たと思います.とてもいい思い出です.
唐澤 さすがにアメリカンフットボールというだけあって,アメリカのスポーツマンシップと申しますか,なかなか得るものが大きかったのではないでしょうか.
小宮山 そうですね.団体スポーツは共通しているところがあるかもしれませんね.それと,人と人との関係というのはいろいろな意味で学びます.素質,努力,人間関係やルールなど,いろいろなことを身をもって学ぶというところがあるのではないですかね.
唐澤 先生のころは,練習中とか試合で,水なんか飲んではいけないというようなことはありましたでしょうか.
小宮山 その点では僕らは恨みを持っていますよ.
唐澤 ありますね.何であんな厳しいことを.
小宮山 水を飲んではいけないというので,隠れて飲みましたけれどもね,もうたまらずに.トイレへ行って水道で水を飲む.
四年生のころからようやく水を飲まないといけないというのが浸透してきたかなと思います.それまではともかく飲んではいけないということですから.あとは,ウサギ跳びとかね.今は,腰を痛めるからやってはいけないということになっていますが.
唐澤 いや,もう悪いことを全部やりましたね.
小宮山 悪いことを全部やりました.何なんだろうという感じがしますけれども,それでも体を壊さずにやってこられたので,そこら辺はよく分かりませんね.
唐澤 医者としてあまり適切ではない言い方かもしれませんが,やはり,そういうことが今のご活躍に関係しているということでしょうか.
小宮山 僕の同期に順天堂大学医学部整形外科教授の黒澤尚先生がおりますが,彼と四年間一緒にフットボールをやりました.
唐澤 各学部の人がいらっしゃるんですね.
小宮山 そうです.やはりそれが本当の意味でも非常にいいですよね.その分野の人の物の考え方というのですか,それを知らず知らずのうちに吸収し合います.運動部に限らず,クラブ活動のいいところなんでしょうね.
─爆発的に増えすぎてしまった知識─「知の構造化」
唐澤 ところで,科学技術がさらに進歩してまいりますと,メディカルチップとか,非常に小さなカード状のものでいろいろなデータをたくさん取れる,DNA解析まで出来るというのがご著書のなかにございます.ああいうものが出来ましたら,すばらしいですね.持って歩くだけでも,常に健康チェックが出来ますし.
小宮山 それを書いたのは,二〇〇三年の「動け! 日本」という活動をやった時のことです.これは東大の八十人ぐらいの教授仲間と,三十人の民間の方と一緒に,その八十人の教授が何を研究しているのか,それと社会の目的みたいなものとを,いわば掛け算して何が出来るかということを調べてみました.その時に,三×五センチぐらいのチップ,それこそナノテクみたいなもので回路を切って,五十ミクロンぐらいの無痛針をつけ,耳のあたりにギュッと押し付けると,ポンプも内蔵されていて,血液が〇・一マイクロリットルぐらい取れます.原理的に,分析は少量でやったほうが精度は高く速いのですね.それと,第三内科の先生たちが電子カルテの議論をしてくれて,インターネットでつなげることは理論的に出来るので,組み合わせによっては,在宅のすばらしいシステムが出来るはずだと.その時に,私もそういう技術が大学のなかで生まれつつあることが分かって,これはある意味で,今の医療の問題,財源の問題と,高齢化して医療がますます必要になってくるという問題を解決する技術のかぎになるのではないかなというようなことをみんなで議論いたしました.
唐澤 まさに,さまざまな研究分野が発達してきて,二十世紀には非常にその知見が拡大したと.それを整理する,構造化するということは,医学・医療についても大変重要な視点であると思います.これは恐らく国民の福祉といいますか,国民医療にとっても画期的な新しい時代をつくり出すことになるだろうと思います.
各分野を総合化する特別な学問の分野が生まれるというか,それがもっと明確に活動しなくてはいけないというご示唆と思われ,医療の分野におきましても大変にありがたいことと思います.
小宮山 新しい学問分野が誕生しなければいけないと思っています.「知の構造化」という,要するに,爆発的に増え過ぎてしまった知識をなかなか使いこなせなくなった,全体像が見えなくなったという議論をして,とにかくその研究をしなければいけないということを訴え続けてきたんですが,なかなか理解されません.「小宮山さんの言うのは,結局,今ある知識をつなげるだけではないか」と.私は,「どうやってつなげるか,それが大切なんだ,そもそも今,どこにどういう知識があるのか,それを知ることさえ出来ないではないか」と,こう言っているわけですが,なかなかかみ合わないですね.その時に,今でも思い出すのは,豊島久真男先生(東京大学名誉教授,医学博士)がある席で,「小宮山さん,医学には絶対あなたのおっしゃることが必要です」とおっしゃったのです.もう十年ぐらい前だと思いますが,非常に力づけられましたね.だから,今,先生がおっしゃったことは,そういうことではないかと思います.
唐澤 東大のように,実に多くのものが集積し,しかも高いレベルにあると,そこから全国の各大学に広め,均てん化していくという流れは今後ますます重要になってきますので,効率よく何とか伝えていただきたいと思います.日本医学会は,加盟分科会が百学会を超えており,臨床だけでもかなりの分野がありますから,これは大変なことだと思います.ぜひそういう意味では,東大から発せられるものが,ある程度,いわゆる整備されたものが各地に伝わっていくのが大事だと思いますし,世界的な財産にもなると思います.
そこで,東大の役割ということになりますと,工学部とか医学部とかいろいろな学部がございますが,二十世紀から二十一世紀にかけての方向について,そして,日本は「課題先進国」から「課題解決先進国」になるべきだという,非常に印象深いお話を伺っていますが,その辺の関連について何かご示唆をいただけますか.
人類の三つのパラダイム「課題先進国」日本の役割
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小宮山 宏(こみやま ひろし)
第28代東京大学総長.昭和42年東京大学工学部卒業,昭和47年同大大学院工学系研究科博士課程修了.同大工学部教授,同学部長,副学長などを経て,平成17年4月に第28代総長に就任.
著書に,『「課題先進国」日本』『知識の構造化』『地球持続の技術』などがある. |
小宮山 人類の大きなパラダイムといいますか,二十一世紀に入って二十世紀までと違うパラダイムが三つあると思っています.一つが今議論している「知識の爆発」,もう一つが「小さくなった地球」,それから「高齢化」,この三つです.「小さくなった地球」というのは,環境問題とか資源の問題とか,情報が一瞬にして世界を巡ってしまうぐらい小さくなってきているという背景で,人間にとって地球は無限ではなくなったということです.最近の金融クライシスがアメリカにとどまらず,一瞬にして世界を回ったということは,まさに象徴的です.もう一つの背景が,高齢化社会です.日本は二〇〇六年に人口のピークを迎えました.中国は二〇二五年から二〇三〇年,インドでは二〇四〇年から二〇五〇年辺りがピークと言われています.二〇五〇年までには,ほとんど世界中が今の日本のような高齢化社会の状態になるということで,この三つにどうやって答えを出していくかが,二十一世紀の人類に問われていることだと思っています. もう一つは健康・医療の問題だと思います.高齢化に向かって健康・医療のシステムが抜本的に変わらないと,恐らく維持出来ないと思います.そういうものを日本が先ほどのチップとかインターネットも十分活用して,さらに医師を支援するよう構造化された知識の支援ツールみたいなものも出来て,財政的にも破綻しない医療システムをどのようにつくっていくか.低炭素社会と併せて,この二つは日本が世界の先駆けとなって新しくシステムをつくっていくべき対象だと思っています.
唐澤 ありがとうございます.先生が示された資料でも,二十世紀の初頭から二〇〇〇年までの間に,さまざまなものが飛躍的,爆発的に増大しているとありましたけれども,これは何か医療を担う私どもには危機感につながってくるのです.やはり,自然科学,実証科学という分野から発せられた言葉だから,何か文学的,散文的な表現ではないところに一層強い説得力があるように思います.二十一世紀になり,われわれが本当に取り組んでいかないと取り返しがつかないことになるという危機感も与えていただいていると思います.
小宮山 今,先生のおっしゃった散文的というほうが意外と一般には人気があるのかもしれないですね.エネルギーの保存則とか,物質の保存則とか,そういった制約があって,そのうえでの人類だと思います.歴史的にも,デカルトの書いたノートを見ますと,人間の目が物を見るしくみから,当時の光学の最先端のことまでが入っています.だから,われわれも,今の時代にそうした意味での哲学,生命倫理だとか,ゲノムといったものに基づいた最先端の哲学をだれかがやってくれないといけないわけです.しかし,それには,知識が専門家にとっても自分の専門以外のところは,あまりに茫洋(ぼうよう)としているような形では,無理な話です.そういった意味でも,百学会を超える日本医学会が,中身は専門家しか分からないにしても,外側は一体どういう前提で物を考えているのかというような,前提をお互いに理解し合うということが必要です.それが私の言う「知識の構造化」ですね.それをやらないと人類がもたないのではないかという気がします.
唐澤 「課題先進国」とか「課題解決先進国」は,何か今,目の前にぶら下がっている単純な課題かと思ったら,そうではなくて,もっと大きな人類の生存という課題を取り上げているのですね.元日医会長の武見太郎先生は,『生存の理法』という,生存という言葉を使ってライフサイエンスにまで言及しています.先生のお話も,ことによると,やはり人類の大きな課題からどうやって生存出来るかという根源的なことまでおっしゃっているのかなと思って,大変重要なことだと思います.
小宮山 今,先生がおっしゃったとおり,先ほど申し上げた三つのパラダイムを私は課題と申しておりまして,日本は,自分たちの大変な問題を解決することが,案外,人類の大きなパラダイムの解決につながるといった意味で「課題先進国」という言葉を使っています.
唐澤 大変重要なご提言です.そういう意味では,日本の置かれている立場が,あまりよく理解されていないのかと思います.日本はいちばん先に高齢化が進みますし,この課題を解決するなかで日本がこれから進んでいくあり方が,世界のなかの役割という観点からも,大変重要だということが分かりました.何か東大でもそういう取り組みを具体的にされていますか.
小宮山 さまざまなことをやっています.いちばんは国際化で,世界の常識を大学のなかに実現したいと思っています.その時に一つ思いますのは,世界でいちばん好感をもって迎えられている国民は,日本人だということです.イギリスのBBCが三年ぐらい連続して調査をしていますが,どこの国が世界に好ましい影響を与えたかという問いに対して,中国と韓国の回答を除くと圧倒的に日本と答えるのですね.ほとんどのアジアの国でそうですし,ほかの国でも,いちばん好感度の高いのは日本なのです.こういうことは報道されないからか,日本の人はほとんど知らないのです.われわれが国際化していこうという時に,日本のことをほかの国の人は好きなんだということは,大変重要な前提だと思いますし,それが,今,先生のおっしゃった,日本の役割ということにつながると思います.日本はアジアで唯一の大きな先進国で,さまざまな魚をたんぱくの主食としてきたとか,稲作文化であるとか,気候が似ているとか,ゲノムも似ていますよね.そういったような意味で,協同で前に向かうことが可能であって,そういうポテンシャルを持っている日本の役割は本当に大きいということを私は声を大にして言いたいのです.悪い話は伝わるのですけれども,いい話というのは伝わっていかないで,まどろっこしい思いをしています.
変革の時代における日本の医療の将来
唐澤 日本がそういう立場にあるということは,なかなか一般の人は分かっていないと思いますが,そういう意味では日本の役割は大事だと思います.医療にかかわる立場から申しますと,いきなり世界は無理ですから,アジアのなかで日本の医療が突出して何か役に立つというか,人類の今後の課題解決に役立っていくようなこともあると思います.それには,若い人たちがこれからたくさん育ってきて,そして大きくその翼を広げていくということが大切で,そのためにいろいろなことがあると思います.東大の総長というお立場から,医学部といいますか,最近の医学生,研修医,医師あるいは医療の今後の方向について何かあればお話しいただきたいと思います.
小宮山 大学にとって,教育というのは現場を持っていますし,研究というのも現場を持ってやっていますが,実は,もう一つ,医療の現場も持っています.医療は二十一世紀の最も重要なものと言っていいと思います.高齢化ということでもそうですし,一般論で言って,今,サイエンスのなかでいちばん進歩の著しいのはライフサイエンスです.世界の競争ですよね.日本でもいわゆる研究費と言われているものの半分をライフサイエンスに注いでいます.もちろん,そのライフサイエンスは医療ばかりではなくて,農業とかいろいろなものと関係しますけれども,やはり本命は医療ですね,医療と健康.今,日本は医療費が三十二兆円で破綻しそうだと言っていますが,アメリカの医療制度だって別の意味で破綻しているわけです.アメリカも今度政権が代わってどうなるか分かりませんが,ほかの先進国それぞれが,破綻あるいは破綻しそうになっているわけで,医療をどうやっていくかが課題となっています.日本では医療費を三十二兆円に抑えるという議論をしているのが間違いだと思います.百兆円に医療・健康が伸びていけるように,健康の産業全体として伸びていくということが,むしろGDPが増える,あるいは内需が増えるということであり,そのための産業が出来てくるというのが,今後向かうべき道だと思うのです.
大学病院をもっているというのは,いろいろ問題があって大変ですが,先進的な大学としては不可欠な財産だと思っています.病院をプラットホームとして,そこに医学は当然のこと,薬学,工学,経済学,法律学,さらに生命倫理といった哲学などを総合して,新しい二十一世紀の医療というものをつくっていく.そのための主翼を大学病院として担いたいというのが強い思いです.それは,おそらく文京区にたくさんある,さまざまな医療機関とつくることになるであろうクラスターをどうやってうまく機能させられるか,日本にとっても,世界の医療にとっても極めて重要な実験をしつつ,新しいシステムを探していくということの主翼を大学病院が担うべきというのが,病院をもって経営している大学人としての私の思いです.
唐澤 国民にとっては大変将来性のあるお話を伺えてよかったと思います.それで,非常に高額な医療というのが大事なのではなくて,いろいろな先端科学の分野が,つまり先端医療ということになりましても,少し経つと,すぐ一般的な日常的な医療になっていきますので,どんどん新しい,すばらしいものを産み出していただきたいと思っております.そして,それをまた十分に吸収して,まず日本,アジア,世界に広げていくためには,東大の役割も大変大事だと思いますし,先進的な部分で取り組んでいただければと思います.そういう意味では,大学病院も非常につらい立場にあるのはよく承知していますので,これは私が言うことではないのですが,先生のほうからもひとつ大学病院を何とかバックアップしていただければと思います.
小宮山 ぜひご支援ください.
唐澤 国民はみな,高額な医療でもいいとは思っていないはずです.安くはなくてもリーズナブルな値段でということと,それから,私ども医師会は,いわゆる学術専門団体としての役割と,もう一つは国民に対して医療を提供する責任という立場から,いろいろな提言や取り組みを行っていますが,この少子高齢社会における医師,あるいは医師会,あるいは国民医療について,先生から,何かご示唆をいただけないでしょうか.
小宮山 私は単純でございます.日本は新しいシステムをつくらなくてはならない.これはもう疑いないわけです.その時には,やはりイノベーションだと思いますね.技術だけではなくて,医療のシステムが,一部は在宅医療に代わるとか,へき地や過疎の医療にインターネットがどう活用出来るのかといった問題も関係していきます.そういうものに社会的な変革,技術的な変革,それから,インターネットとか,医学以外の新しい技術なども総動員して新しい医療システムをつくっていかなくてはいけないと思います.そのために医師会にも勇気を持って前へ進んでいただきたいというのが,私の医師会に対するお願いになります.
唐澤 やはり,変革の時代に何か忘れてはいけないこともあると思いますし,ご提言をいただきましたので,われわれも先生の今の励ましに応えられるように努力していきたいと思います.それでは,最後に,医師不足における大学病院のお考えというか,その辺についてお聞かせいただけますか.
小宮山 大学病院と医療機関との役割分担と連携について,地域医療において大学病院が果たし得る役割を具体的に提言していくために,ワーキングループをつくって議論を始めたところです.東京と地方とでまったく状況が違うということもありますので,大学病院の果たす役割も違ってくると思います.いずれにしても,もう少しうまく役割分担とか連携をやっていくと,今よりもずっとよくなると言う人もいます.そういったことを,少し勇気をもって実行してみるというか,そういうスタイルが国全体として必要ではないかと思っています.
女性の問題も議論しています.大学では女性医師の割合が増えている一方で,家庭に入って復帰が非常にしにくいというような議論もされております.そういった辺りも大学の果たすべき役割がありそうだということをおっしゃる方もおられます.日本の医療全体にとって大事な問題だと思います.大学も病院をもっているわけですから,そうした問題を,当事者としてぜひ医師会と議論していきたいと考えています.
唐澤 ありがとうございます.ご存じのように,三十代から四十代ぐらいの若手医師ほど女性の割合が高くなっています.これは大変重要な問題です.小児科,産科・婦人科は,女性医師にとって向いている分野だと思いますし,非常に繊細な医療の分野を得意とする方が多いわけですから,現場を離れないでずっと診療,就業を続けられるようなシステムを,ぜひつくりたいと思っています.
小宮山 東大は男女共同参画を必死でやっておりまして,私の任期中に四つの保育園をつくり,七保育園体制が間もなく完成いたします.物理的に出来ることは全部やろうと思っています.サスティナビリティでは『ビジョン二〇五〇』というのをつくっているのですが,高齢社会のビジョンは年齢の分布でいいますと非常に明確で,合計特殊出生率二・一が確か人口が維持出来る水準ですよね.
唐澤 そうです.
小宮山 移行期間は,いろいろな形があっていいと思いますが,やはり出生率は二・一で人口分布がフラットになって,そのうちの二十歳から七十歳ぐらいまでの男女が全員働く.それでようやく七十歳以上の方の年金とかをサポートが出来る社会になると思うのです.そのなかで,いちばん日本が遅れているのは男女共同参画ではないでしょうか.また,定年も早過ぎると思いますね.今,日本は,極論すると,男の二十歳から六十歳くらいまでの人しか働かずに残りの全部を見ようという体制ですから,成り立つはずはありません.そこら辺の基本的なこともビジョンとして考えて,高齢化社会とその健康・医療システムというのを考えていかないといけない.そのための時間というのはそんなに長く残されてはいない.二〇五〇年ぐらいまでには,しっかりしたシステムをつくらないといけないと思っています.
唐澤 本日は,大変参考になるお話をいただき,ありがとうございました. |