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第1139号(平成21年2月20日) |

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ハンセン病治療の進歩
〈日本ハンセン病学会〉

ハンセン病は,抗酸菌の一種であるMycobacterium leprae(M.leprae)による慢性炎症性疾患である.多様な皮疹と知覚麻痺を中心とする末梢神経障害が見られ,未治療や不十分な治療で経過すると,顔面・手足などに後遺症を引き起こすことがある.
日本ハンセン病学会は,一九二七年に「日本癩学会」として設立され,その後「日本らい学会」を経て,一九九六年のらい予防法廃止後に現在の名称になった.
本学会は,ハンセン病医学の発展に貢献するのみならず,ハンセン病医療を向上させ,その成果を臨床や社会へ反映させ,さらに患者の福祉の向上や人権を尊重した医療の確立に向け活動している.
最近の社会的活動として「北京オリンピック開催期間中のハンセン病患者の中国入国禁止に関する声明文」を関係機関に送付した.
(一)疫学:世界保健機関(WHO)の統計によると,全世界の二〇〇七年のハンセン病新患総数は約二十五万人であり,二〇〇一年の約七十六万人と比較して三分の一になっているが,これは主としてインドからの報告の減少によるものである(文献一).
国内では第二次大戦後の一九四九年に約八百人の新患報告があったが漸減して,最近は毎年十人以下となり,その大多数は外国人である.
(二)診断と薬剤耐性・遺伝子診断:ハンセン病は菌に対する免疫応答によって種々の病型を示し,一定の細胞性免疫を示すT型では知覚障害を伴った皮疹が出現する.細胞性免疫が欠如したL型では斑・丘疹・結節などの皮疹が体幹・四肢に多数出現する.M.lepraeの全ゲノム配列が二〇〇一年に同定され,世界中の菌に変異がほとんどないことが分かった.
PCR(Polymerase Chain Reaction)法による診断が出来るが,最近はさらに薬剤耐性に関連した遺伝子変異を調べることで,感受性薬剤を迅速に決定することが可能となった(文献二).これらの検査は,国立感染症研究所ハンセン病研究センターに依頼出来る.
(三)治療の歴史と今後の展望:かつては隔離政策がとられていたが,現在は一般医療機関で保険診療による外来中心の診療が行われている.WHOは,複数の抗菌薬を短期間投与するMDT(multi-drug therapy)を一九八〇年代に開始し,ハンセン病の多発国で成果を上げてきた.当初は二年間投与で始まり,現在は六カ月でも十分としているが,日本では診断時の菌数や治療効果によって治療期間を決定する治療指針が作られている(文献三).
まだ新患数が減少しない国や地域もあり,ワクチンの開発研究などが行われている.
【参考文献】
一,Anonymous (WHO): Global leprosy situation, beginning of 2008. Wkly Epidemiol Rec 2008, 83: 293-300.
二,Matsuoka M, Aye KS, Kyaw K, Tan EV, Balagon MV, Saunderson P, Gelber R, Makino M, Nakajima C, Suzuki Y.: A novel method for simple detection of mutations conferring drug resistance in Mycobacterium leprae, based on a DNA microarray, and its applicability in developing countries. J Med Microbiol 2008, 57: 1213-1219.
三,後藤正道,石田 裕,儀同政一,長尾榮治,並里まさ子,石井則久,尾崎元昭:ハンセン病治療指針 第2版.日本ハンセン病学会雑誌 2006, 75: 191-226.
(日本ハンセン病学会幹事 後藤正道)
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