日医ニュース
日医ニュース目次 第1149号(平成21年7月20日)

「経済財政改革の基本方針2009」閣議決定
来年度二千二百億円の削減撤回も,「基本方針2006」の反省なし

 政府は6月23日に,「経済財政改革の基本方針2009〜安心・活力・責任〜」,いわゆる「骨太の方針2009」を閣議決定した.これを受けて,竹嶋康弘副会長は,翌24日に記者会見を行い,「基本方針2009」に対する日医の見解を明らかにした.

「経済財政改革の基本方針2009」閣議決定/来年度二千二百億円の削減撤回も,「基本方針2006」の反省なし(写真) 「基本方針二〇〇九」は,麻生太郎総理大臣の諮問を受けて,経済財政諮問会議によって取りまとめられたものであり,「経済の危機」と「社会の危機」を一体的にとらえ,「安心・活力・責任」の三つの目標を同時に達成するための道筋を示したものとなっている.
 そのなかでは,「経済危機の克服」と同時に,「安心社会の実現」を当面の最優先課題として位置付け,社会保障の機能強化に取り組む姿勢を強調.社会保障のほころびの修復なしに政府への信頼回復はないとして,税制抜本改革を通じた安定財源の裏打ちを制度的に確保しつつ,緊急措置として,社会保障の機能強化を前倒しで「先行実施する」としている.
 社会保障に関する施策については,(1)安心再構築局面(2)安心回復局面(3)安心充実局面という三つの局面に沿って同時に進めるとし,それぞれの局面における具体的な施策を明示.しかし,その財源については,「『中期プログラム』と『平成二十一年度税制改正法(所得税法等の一部を改正する法律)』附則の税制の抜本改革の規定に則(のっと)って,社会保障の機能強化と安定財源確保を着実に具体化する」等の記述はあるものの,具体案は示されなかった.
 基本方針が閣議決定されるまでの間,問題となったのが,小泉内閣が閣議決定した「基本方針二〇〇六」に盛り込まれた「今後五年間で社会保障費の伸びを一・一兆円抑制する」とした方針の取り扱いであった.日医は,その間,社会保障費の削減方針の撤回を求め,政府与党に対して精力的なロビー活動を展開.
 また,「基本方針二〇〇九」の素案,原案が公表されるごとに,記者会見を実施して,地域医療の崩壊を防ぐには,医療費全体の引き上げが必要であり,そのためには社会保障費年二千二百億円の削減撤回が不可欠だとする日医の見解を説明してきた.
 その結果,「基本方針二〇〇九」では,平成二十二年度予算の基本的考え方のなかに,「安心・安全を確保するために社会保障の必要な修復をする」との文章が付け加えられ,与謝野馨財務・経済財政政策・金融担当大臣も,六月二十三日の臨時閣議後の記者会見で,「社会保障費の自然増についてはそのまま認める」と発言したことから,平成二十二年度については社会保障費の削減は見送られることになった.しかし,「基本方針二〇〇九」のなかには「『基本方針二〇〇六』等を踏まえ」という文言は依然として残り,社会保障費の削減方針は完全に撤回されるには至らなかった.

「基本方針2009」に対する 日医の見解

 基本方針の閣議決定を受けて,六月二十四日に記者会見した竹嶋康弘副会長は,「議論の過程で,社会保障費削減の撤回に向け,厚生労働関係の国会議員の先生方を中心に多大なるご尽力をいただいた.その結果,『社会保障の必要な修復をする』方針が追加された」として,まず感謝の意を表した.
 その一方で,「基本方針二〇〇九」に,「『基本方針二〇〇六』等を踏まえ」という表現が残っていることを不満とした.そして,一部では,「社会保障費抑制を撤回」とも報道されているが,そもそも社会保障にほころびをもたらし,地域医療を崩壊させて国民を不安に陥れた「基本方針二〇〇六」が否定されない限り,完全な撤回とは言えないとして,「政府が『基本方針二〇〇六』を反省していないことに大きく失望するとともに,政府の危機感の欠如を指摘せざるを得ない」と述べた.
 さらに,「基本方針二〇〇九」には,「昨年度とは異なる概算要求基準を設定する」とあり,これを受けて概算要求基準(シーリング)では,二千二百億円という明確な数字は示されず,自然増については容認されるかも知れないとしながらも,「無駄の排除など歳出改革を継続しつつ」と併記されていることに触れ,医療崩壊を修復するために必要な財源は,来年度予算でも財政中立により抑制されるのではないかとの危惧(きぐ)を示した.
 そして,例えば,「基本方針二〇〇九」の「別紙1」にも「医療の効率化を進める」とあり,必要な医療が無駄として排除される懸念があるとした.また,同じ「別紙1」に「『選択と集中』の考え方に基づき,診療報酬の配分の見直しを行う」とあることや,財政制度等審議会の「平成二十二年度予算編成の基本的考え方について」(六月三日)も,「診療報酬が診療所に偏っている現状を見直し,病院を手厚くする必要がある」と述べていることを取り上げ,こうした財政中立の下での配分は,断じて容認出来ないと主張した.
 また,来月早々には,概算要求基準が閣議了解されることにも言及し,「日医は,地域医療を修復するための財源が確保されるよう要求し,年末の予算編成まで厳しく追求していく」と述べた.
 最後に,同副会長は,「医療再生,それは,国民が身近で安心して医療を受けることが出来る社会を保障することである.そのためには,対症療法的な財源手当では全く不足である.
 日医は,今後も,『基本方針二〇〇六』,すなわち社会保障費の削減について明確な撤回を求めていく」と強調.さらに,「地域医療全体の底上げを図り,国民の安心と安全を守るため,強力に行動していく」との固い決意を示した.
 続いて,中川俊男常任理事は,現時点で,想定される財務省のシナリオとして,(1)概算要求基準には,二千二百億円削減を明記しないが,「歳出改革は継続する」とする(2)来年度予算編成においては,財政中立の立場は変えない(3)診療報酬改定財源は,二千二百億円削減をしないかわりに,後発医薬品使用促進等で捻出(ねんしゅつ)した財源に限定する(4)勤務医の疲弊等への財源は,診療所開業医から病院へ振り向ける─といったことが考えられると指摘.
 また,与謝野大臣が,「二〇一一年までの一・一兆円削減は変わらない」と明言したことを取り上げ,来年度予算では二千二百億円削減しないとしても,再来年どうなるのかは全く分からず,決して楽観は許されないとの強い警戒感を示した.
 そのうえで,地域医療再生のためには,全体的な底上げが必要であることを改めて強調した.

2009年6月24日

「経済財政改革の基本方針2009〜安心・活力・責任〜」の閣議決定を受けて

社団法人 日本医師会

 2009年6月23日,「基本方針2009」が閣議決定された.議論の過程では,社会保障費削減の撤回に向け,厚生労働関係の国会議員の先生方を中心に多大なるご尽力を頂いた.その結果,「社会保障の必要な修復をする」方針が追加された.このことをまず感謝したい.
 しかしながら,「基本方針2009」には,「『基本方針2006』等を踏まえ」という表現が残っている.一部では,「社会保障費抑制を撤回」とも報道されているが,社会保障にほころびをもたらし,地域医療を崩壊させて国民を不安におとしいれた「基本方針2006」が否定されない限り,完全な撤回とはいえない.政府が「基本方針2006」を反省していないことに大きく失望するとともに,政府の危機感の欠如を指摘せざるを得ない.
 「基本方針2009」には,「昨年度とは異なる概算要求基準を設定」するとある.これを受けて概算要求基準(シーリング)では,2,200億円という明確な数字は示されず,自然増については容認されるかもしれない.しかし,「無駄の排除など歳出改革を継続しつつ」と併記されていることから,医療崩壊を修復するために必要な財源は,来年度予算でも財政中立により抑制されるのではないかと危惧される.
 たとえば,「基本方針2009」別紙1にも「医療の効率化を進める」とあり,必要な医療が無駄として排除される懸念がある.また同じ別紙1には「『選択と集中』の考え方に基づき,診療報酬の配分の見直しを行う」とある.財政制度等審議会の「平成22年度予算編成の基本的考え方について」(6月3日)も,診療報酬が診療所に偏っている現状を見直し,病院を手厚くする必要があると述べているが,こうした財政中立の下での配分は,断じて容認できない.
 来月早々には,概算要求基準が閣議了解される.日本医師会は,地域医療を修復するための財源が確保されるよう要求し,年末の予算編成まで厳しく追求していく.
 医療再生,それは,国民が身近で安心して医療を受けることができる社会を保障することである.そのためには,対症療法的な財源手当ではまったく不足である.日本医師会は,今後も「基本方針2006」,すなわち社会保障費の削減について明確な撤回を求めていく.そして地域医療全体の底上げを図り,国民の安心と安全を守るため,強力に行動していく所存である.

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