日医ニュース
日医ニュース目次 第1149号(平成21年7月20日)

勤務医のページ

医療改革に向けた3つの課題と勤務医部会の役割
日本福祉大学大学院医療・福祉マネジメント研究科長 近藤克則

 今では医療崩壊の危機を,多くの国民が認める.特に公立病院が頼みの地方で深刻である.朝日新聞の調査(二〇〇九年四月二十四日)によれば,総務省が求めた公立病院の経営改善プランにおいて,全国で三割,東北で四四%,北海道では六一%の病院が病床削減を考えているという.
 医療界の常識では,主因は医療費抑制政策である.しかし,外には「“医療費削減が医療崩壊の主因”との主張は理解出来ない」という声もある.これは,二〇〇九年三月十三日に開催された日医の「平成二十年度医療政策シンポジウム」での吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授の発言を報じた記事のタイトルである1).吉川氏は,「『医療費抑制が地域医療の崩壊を招いたと確信している』と(医師会は)言うが,証明は全く不十分」と述べたという1).吉川氏は,政府の経済財政諮問会議の民間議員でもある.政府の中枢部には,こんな見方が存在する現実を見る必要がある.
 この現実を踏まえ,医療再生を図るために,医療界が取り組むべき三つの課題と勤務医部会の役割を考えたい.

第一の課題─国民への説明

 政策は正しさで決まらない.「正しさ」は立場によって異なり,それぞれが主張し,最後は力関係が決める.医療界は,「これ以上医療費を抑えたら,医療が崩壊する.方向転換すべきだ」と,悲惨な現状を根拠に主張する.一方,政府や自治体の財政を守ることを優先する立場の者は,「今でも他分野の予算を抑え医療により多く配分している.財政赤字は深刻で,これ以上回す余地はない」と反論する.どちらにも根拠はあるから,互いに譲らない. 
 この均衡を破るのは,国民・住民である.「他分野を削って医療費に回すべきだ」,あるいは,「必要なら増税・社会保険料の引き上げを」と国民が言った時,政府もそれに同意する.つまり,医療界は今まで以上に努力し,医療費拡大の必要性をマスコミや国民に理解してもらわなければならない.

第二の課題─医療界内部の合意づくり

 医療費を拡大するとして,それをどう配分するのか.医療界内部での合意づくりも大変である.
 公立病院が,「不採算医療を支えきれない」と言えば,民間病院も,「補助金なしで不採算医療もしている」と譲らない.「診療所から病院へ」と言う声は勤務医や医療界の外部に多い.一方,開業医からは,「潤っているのは一部で,余裕がない方が多い」「診療所の診療報酬を切り下げれば,外来医療まで崩壊する」と主張する.医療費の配分問題になると,医療界内部でも一枚岩とは言えない.医師不足問題でも,似た状況がある.
 「医療界内部で合意が出来ていない」状況は,医療費や医師数を増やしたくない立場には好都合である.「医療界内部ですら意見が割れている.だから時期尚早」と言う主張が説得力を持つからだ.医療界内部での合意づくりが第二の課題である.

第三の課題─勤務医による政策形成

 経済学者や厚生労働省などにぶつける批判に,「現場を知らない」とか「実情に合わない」というのがある.つまり,「実情に合う政策のために,現場を知る者の声を反映すべき」ことになる.
 では,病院医療の現場を知る人とは誰か.それは勤務医である.まして医師偏在対策となれば,「納得出来る策を勤務医から示してください」と言われても不思議でない.
 勤務医からは,「そんな暇はない」という声が聞こえてきそうだ.しかし,勤務医が声をあげずに,「実情にあった政策」が果たして形成出来るのだろうか.しかも個人として声を上げるだけでは足りない.出される意見は,しばしば相互に矛盾しているからだ.政策は,複数の案の中から,どれか一つに絞り込まなければならない.つまり,勤務医が合意出来る政策を形成しなければ,反映されない.

勤務医部会の役割

 勤務医は,病院・地域内で,チーム医療や地域連携の質向上に努力している.専門医や学会としても,専門分野の医学・医療技術の向上や習得にも取り組んでいる.
 しかし,三つの課題─(1)国民への説明(2)医療界内部の合意形成(3)勤務医による政策形成─を考えるとどうだろう.いずれも,個人,病院・地域,あるいは学会内部の努力だけでは足りない.それらの枠を超え,勤務医全体の意見を集め,合意形成を図る場が必要だ.
 その役割を担う母体は二十九道府県にある勤務医部会だろう.すでに勤務医は日医会員の四六・九%を占めている.三つの課題に取り組む勤務医組織の誕生を期待している.
 1)m3.comメールニュース

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