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第1150号(平成21年8月5日) |
日本医師会がん対策推進協議会(7月12日)
わが国におけるがん対策のさらなる推進のために

平成19年に「がん対策基本法」に基づき,「がん対策推進基本計画」が策定され,さらに,各都道府県において「がん対策推進計画」が策定されている.一方,日医においても「がん対策推進委員会」が,「がん検診の今後のあり方」について検討している.
これらを背景に,日本医師会がん対策推進協議会が7月12日,日医会館大講堂において開催された.
今村聡常任理事の司会で開会.
冒頭,唐澤 人会長(岩砂和雄副会長代読)は,国や日医のがん対策の経緯や最近の動向に触れ,患者さんや家族,国民と医療従事者,行政が同じ方向を向いて動き出したこの時期に,本協議会を開催できることは有意義であるとの考えを示した.そのうえで,「本日の成果を踏まえ,各地におけるがん対策のさらなる推進について,今後ともご協力をお願いする」とあいさつした.
基調講演
つづいて,基調講演「わが国のがん対策─個人として,国として─」と題し,垣添忠生国立がんセンター名誉総長・日本対がん協会会長は,(一)がんとはどういう病気か,(二)がんの予防と検診,(三)がんの診断と治療,(四)人が生きるということ,(五)わが国のがん対策─の五つの視点から講演した.
(一)では,がんは,正常細胞に遺伝子異常が発生し,進展する細胞の病気であり,生活習慣・生活環境の変化に関連し,永い時間経過を要する慢性疾患であると述べた.
(二)については,一次予防として禁煙・食事・感染症対策が重要であり,特に六十種類の発がん物質を含み,がんの原因の三〇%を占めるたばこ対策は大事で,二〇〇三年に世界保健機関(WHO)総会で採択された「たばこ規制枠組条約」は,日本も二〇〇四年に批准しているが,財政確保と産業振興を理由に対策は遅れていると指摘.
一方,がん予防には感染症対策も重要であり,C型肝炎ウイルスは変異しやすくワクチン製造が難しいが,B型肝炎ウイルスにはワクチンが有効であること,ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌は胃がんの発生予防に,女児へのHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種は子宮頸がんの予防に有効であることを解説した.また,わが国のがん検診受診率は平均一七%と低く,当面五〇%を目標とし,精度管理も,対策上重要だとした.
(三)では,画像診断・マーカー診断・病理診断や,手術療法・陽子線治療といった放射線治療などの進歩により,患者へのさまざまな負担が小さくなったうえに,早期発見のメリットは計り知れないとした.さらに,一人の患者さんを中心にした各領域専門医のカンファランスとチーム医療の重要性を説いた.
(四)では,人は多様で複雑な存在であり,がんにならないことだけが人生の目的ではないが,避けられる理不尽な死は避けたいし,進行がんであっても,治療可能であれば努力する必要があり,治療過程での患者さんへの励ましが重要とした.
(五)では,がん対策推進基本計画の全体目標は,(1)がんによる死亡率の減少(2)すべてのがん患者・家族の苦痛の軽減と療養生活の質の向上─で,そのために取り組むべき課題は,がん研究の推進,医療機関の整備,専門医等の育成,がん登録の推進であり,がん医療に関しての相談支援・情報提供が必要であると結んだ.
報 告
まず,「行政の立場から」前田光哉厚生労働省健康局総務課がん対策推進室長は,政府におけるがん対策の歩みを報告.「がん対策推進基本計画」では,がんによる死亡者の減少や,がん検診の受診率を五年以内に五〇%以上とすること等が目標に掲げられており,がん診療連携拠点病院は,四十七都道府県に三百七十五カ所が設置され,(1)専門的ながん医療の提供等(2)地域のがん診療の連携協力体制の構築(3)がん患者に対する相談支援・情報提供─などの役割を担っていると説明.
また,がん対策予算については,平成二十一年度の政府予算において,がん検診事業が昨年度より倍増の千二百九十八億円となり,新たにがん検診受診促進企業連携委託事業が予算化されたこと,さらに,補正予算において,女性特有のがん検診推進事業として,検診手帳,検診無料クーポン配布が実施されることになったことなどを紹介した.最後に,「がんを知り,がんと向き合い,がんに負けることのない社会」の実現を目指していると述べて協力を要請した.
次に,「医師会の立場から」内田健夫常任理事は,平成十九年,会内に「がん対策推進委員会(プロジェクト)」を設置し,そのなかに「緩和ケア」と「がん検診」の小委員会を置き,厚労省からの委託事業として,「がん医療における緩和ケアに関する医師の意識調査」を実施するとともに二種類のマニュアル(『がん緩和ケアガイドブック』『がん性疼痛治療のエッセンス』)を企画・作成するなどしたと報告.同委員会は,今期から常設委員会として,「がん検診の今後のあり方」について検討を行っているとした.
また,郡市区医師会を対象とした「がん検診に関するアンケート調査」の中間報告として,市町村が医師会に委託している五つのがん(胃がん,大腸がん,肺がん,乳がん,子宮がん)の検診実施状況,医師会が実施している受診勧奨・要精検者への精検受診勧奨の方法や,医師会としての事業評価などについて詳細に解説.今後の課題としては,(1)検診受診率の向上(2)精検受診率の向上(3)精度管理の徹底(4)緩和ケア・在宅医療(5)たばこ・受動喫煙対策─を挙げ,医師会を中心に取り組んでいきたいとした.
質疑応答では,事前に寄せられた質問に加え,フロアからの質問・要望についても活発に討議され,今村(聡)常任理事の「予防・検診・治療・在宅医療等,医師会が中心となり地域にネットワークを作って取り組んで欲しい」との言葉で閉会となった.出席者は百四十名で,TV会議による参加は六県医師会であった.
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