日医ニュース
日医ニュース目次 第1151号(平成21年8月20日)

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将来の医療を病院の入院者から予測する
済生会宇都宮病院長 中澤堅次

 最近,済生会宇都宮病院の入院延べ日数を調べていて,新しい発見をした.年間の入院延べ日数を年齢別に並べると,出生,出産,高齢という限られた人生の転機に一致して入院数が増加し,それぞれのピークの大きさは,その年代の人口の影響を受けるという事実である.

済生会宇都宮病院の入院者に見る人生の危機

 その事実をで説明する.当病院では二〇〇四年当時,年間千人のお産があり,六日間入院していた.したがって,ゼロ歳児の入院延べ日数は六千日となるが,異常産も混じるので,実際には七千日となる.次の山は三十代前半にあり,母親の年代の入院が多いことを示している.その後,五十歳までは目立った動きはないが,五十歳を超えると年を重ねるごとに入院数は増加し,七十五歳でピークに達した後,減少の一途をたどる.五十六歳に小さいピークがあるが,日本の人口構成をダブらせると,この山は団塊世代に一致していた.
 入院者は,出生と出産の年齢と,五十歳から八十五歳までの中高年に限られると言ってよく,これに世代の人口が掛けられて,山の大きさが決まるということである.全国の外来受診者数や入院延べ日数も同じ傾向を示すので,当病院だけの現象ではない.
 医療需要は五十歳から,七十五歳辺りまでは増加し,七十代後半からは減少する.寿命による死亡者数が増加するからである.

医師の需給の読み違い

 医療の推計は全人口で行われるのが普通だが,五十歳以上で計算しないと誤った推測をする.過去の事例で医師数と高齢需要を検証すると,一九九〇〜二〇〇四年の十五年間で,全人口の増加は二・八%だったが,五十歳以上の人口は四〇%増加していた.医師の増加は二八%だったから,五十歳以上を医療需要と考えれば,医師は不足すると見るべきだった.全人口の伸びで見たから医師は過剰になると見誤った.
 厚生労働省が毎年八百人くらいの医学生増員でお茶を濁そうとしているのは,今後は毎年四千人以上の自然増が見込まれ,そのうちに国の人口が減るから,三十五年後には医師が余ると読んでいるからである.しかし,三十五年後は,団塊世代の大量死亡の後であり,国破れて山河ありの世界,それまでは高齢者は悲惨な目を見ることになる.こんな政策でいいのかと思う.

国民一人当たり 医療費は年齢が決まると額も決まる

 国民医療費も年齢階級ごとに見ると,入院延べ日数と同じようなカーブになる.国民一人当たりの医療費として計算すると,この七年間,年齢階級別医療費はそれぞれの年代でほぼ固定し,その額は五十歳を超えると年とともに増大する完全な年功序列になっている.医療費の自然増は完璧に高齢人口の増加によるものである.それを削減するというのは無理な話である.厚労省の将来医療費の推計は二十五年後に五十六兆円というが,人が死ぬことを考え,この事実から推測すると,多く見積もっても四十一兆円そこそこという計算になる.老人医療費の高騰で国がつぶれるというのは情報操作の疑いがある.

介護をもっと充実して将来を設計する

 介護の需要は,一人当たりの費用にばらつきが少なく,完璧に年齢と関係する.費用も簡単に計算出来そうである.介護のすべてを国が面倒見るぞと腹を決めても,びっくりするほど高いものにはならないだろう.

勤務医のページ/将来の医療を病院の入院者から予測する/済生会宇都宮病院長 中澤堅次(図)

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