日医ニュース
日医ニュース目次 第1152号(平成21年9月5日)

新しい医学の進歩

58
新しい播種性血管内凝固症候群(DIC)治療薬の開発
〈日本血栓止血学会〉

 血栓症や出血症に関する研究を活動の場とする日本血栓止血学会では,二〇一一年七月に京都市で開催される第二十三回国際血栓止血学会(ISTH-2011)(池田康夫会長)に向けて,会員がそれぞれの分野で研究活動を活発化している.今回はそのなかで,最近のトピックスの一つである標記テーマについて紹介する.
 DICは,急性前骨髄球性白血病(APL)や感染症,悪性腫瘍などによって,全身の微小血管に血栓が形成され,臓器障害や激烈な出血を起こす致死性の高い病態である.APLでは,白血病細胞が発現する凝固惹起因子の組織因子(TF)やがん細胞プロテアーゼが凝固反応を活性化するとともに,線溶因子のプラスミノゲン活性化因子(t-PA)とその受容体のアネキシンIIなどを発現して凝固亢進と線溶亢進(出血症状)が著しいDICを来す.感染症では,細菌膜由来のエンドトキシンによって,血管内皮細胞や白血球などで産生されるTFと線溶阻害因子のPAI-1によって,凝固亢進・線溶阻害により臓器内微小血栓障害を主体とするDICを来す.
 DICに対しては,これまでもヘパリンやヘパリン誘導体,アンチトロンビンIII,合成プロテアーゼ阻害剤などの凝固阻害剤が用いられてきたが,その有効性は必ずしも臨床統計的に裏付けられたものではない.最近,欧米では血液凝固制御因子の活性化プロテインC(APC)の遺伝子組み換え蛋白がDIC治療薬として承認された.しかし,APCは軽度DICには有効でなく,また小児への使用は許可されていない(我が国ではAPCはDIC治療薬として認可されていない).
 こうしたなか,わが国の産学連携研究によって血管内皮細胞上の凝固制御因子であるトロンボモジュリン(TM)の遺伝子組み換え蛋白が新しいDIC治療薬として開発され1),DIC改善作用や副作用(出血)の面で臨床統計的にヘパリンに対して有意に非劣勢であることが証明され2),二〇〇八年五月から臨床応用された.TMはトロンビンを凝固促進因子から凝固制御因子に変換し,トロンビンによるプロテインCの活性化を促進し,APCを介して(また,TM自体の抗凝固・抗炎症作用により)血管内の凝固亢進と炎症を阻止してDICを治癒させると考えられる.

【参考文献】
1,Suzuki K, et al. EMBO J 1987; 6: 1891-1897.
2,Saito H, et al. J Thromb Haemost 2007; 5: 31-41.

(三重大学理事・副学長 鈴木宏治)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.