 |
第1158号(平成21年12月5日) |
日本医師会医療安全推進者養成講座講習会
医師・患者間のコミュニケーションの在り方について議論

平成二十一年度日本医師会医療安全推進者養成講座講習会が十一月十五日,日医会館大講堂で開催された.
木下勝之常任理事の司会で開会,冒頭あいさつした唐澤 人会長(今村定臣常任理事代読)は,「この講座は平成十三年に開設され開講九年目を迎えるが,これまでに医療機関等で医療の安全を推進する多くのキーパーソンを養成・育成してきた」と述べ,本講座の意義を強調した.
その後,プログラムに従って講演が行われ,第一題「我が国の医療安全対策の取組」では,堀裕行厚生労働省医政局総務課医療安全推進室室長補佐が,医療法における規定,医療事故等の現状,産科医療補償制度─について説明.医療法における規定に関しては,国の医療安全施策や,医療法改正の経緯について解説した.続いて,医療安全対策の推進を目的に作られた医療事故収集等事業の内容を説明.航空機・鉄道事故,海難事故,食中毒などは対応機関があるが,医療分野では,医療事故に対応する専門機関が存在しないため,刑事・民事手続きに判断・解決が委ねられているとして,その問題点を実例を挙げて示した.また本年から始まっている産科医療補償制度についても紹介した.
次に第二題「地域医療再生のために」では,平井愛山千葉県立東金病院院長が,平成十六年度から導入された新医師臨床研修制度を契機に全国レベルで病院勤務医不足が顕在化し,「医療崩壊」の危機が叫ばれていることに焦点を当て,このような医師不足の時代において,試行錯誤のなか,地域を担う医師は地域で育てることにより再生してきた自院の取り組みを紹介.今後も病院と地域住民の交流のなかで相手を思いやる医療こそ地域医療の原点であるとの考えの基に,地域で医師を育てるための医師育成サポーター事業を通じ,若い医師に魅力ある病院となることを目指していきたいとした.
続いて,第三題「医療コミュニケーション─患者の満足のために」では,奈良信雄東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター長が,現代の医療は高度な医学・医療に発展し,細分化されているため,医療コストの増大や医療事故・過誤を引き起こしていると指摘.一方,医師の常識は患者の常識ではなく,その隔たりを埋める患者と医師とのコミュニケーションは少なく,相互の理解も不足している現状を憂慮.患者の満足度を高めるためにはかかりつけの医師の存在は重要であり,プライマリケアを通しての対話の必要性を重視,かかりつけの医師の存在こそ,トラブルや医療事故を防ぐ有効手段であるとした.
最後に,第四題「医療者向けコミュニケーション法 メディカルサポートコーチングのご紹介」では,奥田弘美相州メンタルクリニック相模大野精神科医が,コーチングとはスポーツのコーチが使っていた指導スキルに心理学,カウンセリング学,接遇学,リーダーシップ論,成功哲学などが加味され,一九六〇年代アメリカで体系づけられたコミュニケーション法の一つであり,それを医療の世界に応用したのがメディカルサポートコーチングであると説明.その基本は「聴くこと」「質問すること」「伝えること」の三つのコアスキルであるとして,そのコアスキルの実際を,ビデオ例示を交えて解説した.
講演後の,シンポジウム「医療安全への取組」では木下勝之常任理事をコーディネータとして活発な議論が行われた.特に,医療安全にとってのコミュニケーションの重要性や医師,医療スタッフとの対話による医療事故紛争の軽減,さらにそれを裏付ける法整備やさまざまな取り組みについて議論した.
参加者は百六十三名であった.
|