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第1162号(平成22年2月5日) |
(財)日本医療機能評価機構
医療事故情報収集等事業の現状と展望
財団法人日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部部長 後 信

医療事故情報収集等事業の概要
財団法人日本医療機能評価機構では,医療事故の発生防止と医療安全の推進を目的として,法令に基づく医療事故報告制度である医療事故情報収集等事業を実施している.具体的には,当機構が医療分野の中立的な第三者機関であるという立場を踏まえ,偏りのない視点から収集,分析を行い,報告書や年報を作成,公表するなどして情報提供を行っている.
医療事故やヒヤリ・ハット事例が発生した際に,事例を正確に把握し,レポートを作成して報告することは,必ずしも容易なことではない.そのような能力を培うとともに,そのレポートを全国的に共有し,同種の事例の再発防止につなげていくことが重要であると考えている.
また,当事業は再発防止を志向するものであって,報告した医療機関に対するペナルティーなどの懲罰的な要素を排している点が重要な特徴である.
医療事故の報告
医療事故を報告していただいている医療機関には,法令上報告が義務付けられている医療機関(報告義務対象医療機関,273医療機関)と,任意で参加している医療機関(参加登録申請医療機関,427医療機関,診療所も含まれる)とがある.厚生労働省令に定められている報告範囲に則して,報告義務対象医療機関から毎年約1,100〜1,400件,参加登録申請医療機関から約100〜180件程度の報告をいただいているが,その情報はすべて匿名化して取り扱っている.
報告義務対象医療機関の件数は,年々増加傾向にあり,平成21年も前年を上回る件数となる見込みである.このことは,医療界において医療事故情報やヒヤリ・ハット事例の報告を行うことが年々定着してきていることの表れであろうと考えている.
定期報告書,年報の概要
報告書では,「報告件数」「事故の概要」「事故の程度」「発生要因」「関連診療科」等の集計や,テーマを選定した集計・分析を行っている.過去には,薬剤に関連した医療事故,患者取り違えに関連した医療事故,手術・処置部位の間違いに関連した医療事故等のテーマを取り上げた.このテーマの中から次に述べる「医療安全情報」を作成し,報告書とは異なる媒体として,重要な事例を繰り返し情報提供することとしている.
また,過去に医療安全情報等の形で取り上げた事例の再発状況や,類似事例の発生状況も掲載している.医療機関の皆様には,「再発・類似事例の発生状況」の部分をお読みいただくことにより,繰り返し発生している事例をよく知っていただき,職員の皆様に周知していただければ幸いである.
医療安全情報について
平成18年12月より,定期報告書の中で共有すべき医療事故情報として取り上げた事例の中から,特に周知すべき情報を提供することにより,医療事故の発生予防,再発防止を促進することを目的として,医療安全情報を作成,提供することを始めた.
この情報は,事業に参加している医療機関や情報提供を希望した病院,合計約4,300医療機関に対して,毎月1回程度ファックスによる情報提供を行うとともに,同日ホームページにも掲載している.したがって,ホームページを定期的に閲覧していただくことにより,当事業に参加されていない医療機関であっても,医療安全情報を入手し,活用することが出来る.
医療安全情報は,定期的な報告書とは異なり,医療の現場で忙しく業務に従事している方々に,短時間で理解出来る内容となるように配慮している.また,報告された事例を基本として,架空の情報を追加したりせずに作成するようにしている.
過去に38回の情報提供を行ったが,それらを一見すると,「自分の施設ではこのような事例は起こらないだろう」と思うような基本的な内容の医療事故が,医療機関の大小を問わず発生しているという現実がある.そこで,そのような事例を情報提供するとともに,可能な限り多くの医療機関でご活用いただけることにもつなげるため,基本的な内容の医療事故を中心に作成することにも心がけている.
医療安全情報に示す事例の発生を防ぐ仕組みが医療機関内に備わっているか,また,それはどのような仕組みか,といったことを毎月考えてみることや,スタッフの方々がよくご覧いただける場所に貼っておくなどの方法で活用していただければ幸いである.
平成22年からの報告項目や方式の見直しについて
長く使用してきたヒヤリ・ハット事例収集のシステムを改修する必要が出てきたことに伴い,本年は,ヒヤリ・ハット事例と医療事故情報の報告システムを見直した.事業に参加して報告していただく医療機関の負担を抑えつつ,有意義な情報提供が行える体制となっている.
見直し後の方法では,ヒヤリ・ハット事例の概要別の件数を毎月報告することだけでも当事業に参加することになるため,当事業に参加しやすくなったことから,今後,新規の医療機関のご参加が増加することを期待している.
今後の課題について
昨年10月に事業開始後5年の節目を迎えるに当たり,本事業の実績と今後の課題を取りまとめた報告書を6月に公表した.
報告書では,(1)事業に参加している医療機関数の増加(2)報告件数の増加(3)報告された情報の質の向上(4)有用な情報の発信と活用しやすい情報の提供(5)事例情報の分析の充実(6)事業周知の促進(7)事業の性質や方向性に関する理解の促進─等を課題として取り上げている.
おわりに
基本的な医療行為や確認行為等に関する,予防可能な医療事故がいまだに発生しているのが現状である.最近,日医が取りまとめた「医療事故削減戦略システム〜事例から学ぶ医療安全〜」の中でも,インシデントやアクシデントのレポートを作成し,地域レベルで報告し,検討することが重要視されている.当事業はそれらの事例を全国レベルで共有し,学ぶ取り組みであり,再発防止を目的としており,医療機関に対するペナルティーなどの不利益はない.
今後とも,よりよい情報提供が出来るよう,事業の充実に取り組んでいきたいと考えており,医療機関の皆様のご理解とご協力をお願いする次第である.
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