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第1164号(平成22年3月5日) |

東洋と西洋のまなざし

先日,大好きな写真家,木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソンの写真展「東洋と西洋のまなざし」を見てきた.
日本とフランスと活躍した場所は異なるが,二人の共通点は,一九三〇年代から同時代を“ライカ”のレンズを通して切り取り,近代的写真表現を切り開いたことである.
最初の印象は,風景や人物が当然のことながら東洋と西洋,全く違ったものに映って見えた.
特にアンリの写真は構図が重要であり,あまりに完璧すぎる全体のバランスに感嘆した.木村は厳格な決まり切った構図や瞬間を嫌い,口癖は「イキなもんですよ」だったという.
木村の写真は,アンリよりも自然な構図に思えた.それはポートレートにも表れており,あくまでも自然な人物そのものを撮っている.アンリは人物の周囲の背景を広く入れ,その人柄をも写真の一部として表現しているように思えた.
この二人の表現方法の違いは,木村は子ども時代のオモチャの写真機から写真家の道が始まり,アンリは画家志望から写真家に転向したことによるのではないだろうか.
同じ“ライカ”で街角の歩き方からファインダーの中の世界まで,二人はよく似ていたと思われる.それでいて,決定的に異なる,それぞれの表現世界がある.その面白さを発見させてくれた.
写真展を見終えて,決定的瞬間をとらえた二人のまなざしは,カメラに映ったすべての事象に対する愛情に満ちていたのだと確信した.
(No.8)
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