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第1165号(平成22年3月20日) |

相性

外来は不特定多数の患者を診る医師の仕事場である.初診の患者は診察室で会うまで,どのような訴えがあるのか当然分からない.どのような生活環境なのか,どのような価値観なのか,要するに初対面である.しかし,外来では否応なしに即診断,治療を始めなければならない.
医師になりたての頃,「外来は一発勝負だから難しいよ」と先輩から聞かされた覚えがある.確かに一度限りの患者もいるが,長い付き合いになる患者もいる.その場で決断を下さなければならないケース,じっくり考えながら診ていけるケースが外来にはある.
毎日の診療をしていて患者との相性の大切さを感じることはないだろうか.生活習慣病の患者さんになると十年,二十年とお互い付き合うことになる.たとえ三分間診療であろうと,ちりも積もれば山となる.相性が合えば信頼関係は良くなり,病気のコントロールが良くなることもあれば,相性が合わないと病気を悪化させてしまうこともあるかも知れない.
相性は理屈でなく第六感である.相性が合うに越したことはないが,たとえ少々苦手であっても多少の努力で相性が良くなることもある.私は検査値,生活指導以外に,「孫が遊びに来て楽しかった」「母親が最近入院した」「上司とうまくいっていない」などの生活環境を知る情報をカルテに記載するよう努めている.
診察時に立場を変えて,医師が患者の椅子に座った時,何を聞かれたいのか,何を話したいのかを考えながら診察する姿勢が必要ではなかろうか.それが患者と相性が良くなるコツのような気がする.
(文)
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