日医ニュース
日医ニュース目次 第1169号(平成22年5月20日)

原中勝征新会長に聞く
会員の声を大切に,政府に対し,対等の立場で政策提言を

 四月一日に開催された第百二十二回日本医師会定例代議員会において,新たに原中勝征会長が選出された.本号では,原中会長にインタビューし,今後の抱負などを聞いた.(聞き手 石川広己常任理事)

日医を変える具体策

原中勝征新会長に聞く/会員の声を大切に,政府に対し,対等の立場で政策提言を(写真) 石川常任理事 まず,日医を変える具体策について,今期の執行部の体制も含めてお話しください.
 原中会長 一番大切なのは,会員の先生方が日医と心が通じている,あるいは意見が言えるということであって,その疎通性の問題を,まず解決しなくてはいけないと思っています.
 その取っ掛かりとして,今回,会員の先生方から直接私にメールが届くように,日医ホームページに目安箱を開設しました.問題提起あるいは感ずることを,私宛にメールで送っていただければ,それを担当役員と一緒に考えていく場を設けます.
 それから,医療費削減のために,勤務医と開業医が意図的に敵対視させられているということがありますが,開業医の先生は,ほとんどが勤務医を経験してきていますし,医師というのは,どこで働いていても国民の健康と命を守るという共通の使命感があり,決して働いている場所によって対立するような関係にはならないはずです.医療連携等についても,病院長と医師会の間では,お互い通じるものがあるのですが,医師会に未加入の勤務医や,加入していても日々の診療に追われている勤務医には医師会の情報が伝わらないことから誤解が生じていることもあります.まず,医師同士の密接な人間関係をつくる努力をしていきたいと思います.
 このたびの会長選挙の際に,三候補とも会長の直接選挙ということをマニフェストに入れていました.すべての会員の先生方に何らかの意味で会長選挙に参加してもらうというシステムは大至急つくらなくてはいけないと思いますが,これをどのように実現するかは大変難しい問題です.そのために,「会長選挙制度に関する検討委員会」を立ち上げたところですが,直接選挙の是非を含め,十分な検討をお願いしたいと思っています.
 現在,四十九の会内委員会がありますが,今までは会長諮問に対して単に二年間で答申するというだけの委員会であったような気がします.今後は,委員会に,当面のいろいろな問題に対する社会的な活動,例えば政府に対する要望や進言,あるいは提案などに活用出来るような討議をしていただこうと思いますし,また行動もしていただきたいと考えています.貴重な意見が,単に報告書だけでとどまってはいけないと思っています.
 もう一つは,これまで日医は医療費の問題について,決められたことにしか反論出来ていませんでした.今後は,どこまで踏み込めるかは分かりませんが,医療崩壊の最大の原因にもなっている医療費の問題について政府ときちんとやりとりをして,実際に決められる前に提言をしていく日医にならなくてはいけないと思います.
 日医内部については,やはり会計の透明化が必要です.以前私は大型会計事務所にお願いすることを提案しましたが,もう一度きちんと検証して透明性を高め,会員の先生方に公表出来るようにしたいと思っています.
 石川 会員の先生方との意思疎通の問題については,新たに目安箱という具体的な形を提案したということですね.
 原中 日医が会員の先生方からあまりにも遠い存在になっているという認識を,ぜひ改めてもらえるような活動をしていきたいと思っています.
 石川 会内委員会も,全く新しい形で運営されるということですか.
 原中 非常に大切なことを議論していただいても,答申を出すだけで終わりではいけない.日医総研と医療政策の部門とでまとめたものなども,政府に届けるようにしたいと思っています.

二年後の診療報酬と介護報酬の同時改定に向けて

 石川 二年後は診療報酬と介護報酬の同時改定という大変な時期になるわけですが,今回の診療報酬改定も踏まえてお話しください.
 原中 平成二十二年度の予算は,税収が約十兆円少なくなったために,新規の国債発行額が過去最高となりました.鳩山由紀夫総理大臣には子どもに対する手当によって人口減少を防ごうという考えがあって,子どもは国の宝だから国全体で育てるという基本的な考え方の基に,収入には関係なく,すべての子どもに「子ども手当」を支給するということで,膨大な予算になったわけです.国家予算のなかで厚生労働省の予算が一番多いのですが,そのなかで医療費をどう確保するのかというのは,医療側にとって大変難しい問題でもあります.
 今回,財務省からは,いつものとおりに,三%の医療費削減という案が強烈に出てきて,大臣折衝でもなかなか解決しませんでした.通常は大臣折衝で一度物別れをしたときには,官僚たちが翌日まで話し合って二度目で妥協するというのが普通でしたが,今回は官僚が入れず,政治家同士の話し合いということでしたので,医療費に関しては三回大臣折衝が行われました.しかしながら,最後まで決まらず,まとめられなかったという現実があったわけです.
 鳩山総理は医療費をOECDの平均まで戻すということを公言し,マニフェストにも書いてありましたので,私は,「初年度から医療費をマイナスにすれば希望がなくなる.少ない金額でもいいからプラスにすべきだ」と直接,鳩山総理に申し上げました.その結果,大臣折衝に平野博文内閣官房長官が入られて,私たちの意見を述べていただき,わずか〇・一九%でしたが,十年ぶりの医療費アップが実現したと思います.
 しかし,今日のような経済状態が続いているなかで,一年目は何とか出来ましたが,来年もまた国債をどんどん発行していいのかという問題が必ず出てきます.特に,これから少子高齢化の時代に働く若い人が減るのに対して,国家の借金だけが増えていっていいのかということが非常に大きな社会問題になりますから,いつまでも借金をしながら社会保障費を賄い続けることには,政治家として悩みが出てくると思います.
 一方,国民に対する安心・安全な政策を求めることからすれば,医療費や介護療養費を削減したら,施設そのものが崩壊していくということが目の前にあるわけですから,国民になるべく負担のかからない形で何とかこれを上げてもらうように一生懸命折衝するしかないと思います.
 医療と介護と二つ同時改定になるわけですから,政府も相当肩の荷が重いと思いますし,われわれも必死になって主張しなければプラス改定は獲得出来ないと覚悟しています.
 石川 この二年間かけて働き掛けを行い,二年後の改定につなげていくということですね.
 原中 私が民主党に提案した,民主党と日医との協議会が,間もなくつくられると思います.医療費や医療制度,医療崩壊の原因の追及,少子化時代に向かって国民皆保険を含めた今後の社会保障制度をどうするかなど,対等の立場で十分に話し合う場にしたいと思っています.

会員の先生方に一言

 石川 最後に,会長から会員の先生方に対して,一言お願いします.
 原中 今まで先生方が一生懸命患者さんを救おうと努力をしているにもかかわらず,医師はもうけるために働いているとか,特に開業医はもうけるために医療費を浪費しているというような,誤った社会的イメージが,マスコミあるいは官僚によってつくられています.
 しかし,わが国で国民の命と健康を守る職業は医師しかないわけですから,私は,胸を張ってプライドを持って活動して欲しいと思います.
 決して萎縮医療に陥ったり,日ごろの診療活動で内心ちゅうちょするような医療を行うことなく,正々堂々と医師の裁量権を十分に発揮しながら活動していただければと思います.
 そして,日医は,医師の立場の大切さを世の中に訴えていかなくてはいけないと思っています.

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