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第1172号(平成22年7月5日) |
原中会長
医療再生に向けた日医の方向性と一致
菅内閣に積極的な支援と政策提言を行う

原中勝征会長は6月9日,菅内閣が6月8日に発足したことを受けて記者会見に臨み,菅直人新総理大臣への期待感を示した.また,同日の記者会見で,中川俊男副会長は,混合診療の全面解禁と医療ツーリズム等の問題点を改めて指摘した.
原中会長は,まず,菅総理大臣が就任後の記者会見で,政治の役割というのは最小不幸の社会をつくることであるとし,「強い経済と強い財政と強い社会保障を一体として実現をする」と発言したことを評価.まさに,強い財政に裏打ちされた社会保障政策の下で,医療再生を切望する日医の方向性と一致するものであり,政策の実現に向け,しっかりと支援していきたいとの考えを示した.
そのうえで,民主党を中心とする連立政権発足後の政策を振り返り,社会保障費抑制政策の撤廃,診療報酬の引き上げなどが着実に実行されるとともに,先の衆議院議員選挙の公約において,民主党は総医療費対GDP比をOECD加盟国平均にまで引き上げることを明言していることから,今後も医療費の増加が期待されるとした.
その一方で,前内閣では,混合診療の原則解禁,医療ツーリズムなどの検討が進み,公的医療費ではなく,私的医療費を引き上げることで,OECD加盟国平均並みの医療費を目指しているのではないかとの疑念も生じたと指摘.日医は,国民皆保険の下,公的医療保険を堅持し,さらに拡充することを第一義と考えるとして,私的医療費を拡大し,公的医療費支出を抑制するようなことになれば,所得によって受けられる医療に格差が生じかねないと主張した.
さらに,原中会長は,菅総理大臣が,「社会保障の多くの分野は,経済を成長させる分野でもある」と発言したことにも触れ,「日医も,医療,介護は,雇用を創出し経済成長を実現する有力な分野であると認識しており,その成果を強い公的社会保障給付として還元していくべきと考えている.その際に,行き過ぎた市場原理主義,競争政策によって弱者が切り捨てられることは,決して認められない」と強調.現在,新成長戦略の取りまとめが行われているなかで,「菅総理大臣には,ぜひとも,庶民の気持ちをおもんぱかり,すべての国民にやさしい社会保障,医療を守っていただくことを切望する」と述べた.
医療ツーリズムは混合診療の全面解禁につながる
中川副会長は,国民皆保険の崩壊につながりかねない最近の諸問題として,混合診療の全面解禁と医療ツーリズム等に対する日医の見解を改めて示した.
規制改革会議の後継組織として,行政刷新会議の下に「規制・制度改革に関する分科会」が設置され,医療についてはライフ・イノベーションワーキンググループ(WG)で検討が行われている.四月五日に開催されたWGの第一回会合では,検討テーマに「保険外併用療養(いわゆる「混合診療」)の原則解禁」と「医療ツーリズムに係る査証発給要件等の緩和(医療ビザ,外国人医師の国内診療)」が盛り込まれていたが,六月七日に取りまとめられた規制・制度改革に関する分科会の第一次報告書案では,「混合診療」「医療ツーリズム」という表現はなくなっていた.これに対して,同副会長は,「『国際医療交流』という別の表現になってはいるが,その根底にある考え方は混合診療の全面解禁,医療ツーリズムそのものである」と指摘.国民皆保険制度を守るべき厚生労働省が,その考え方に同意したというのであれば非常に問題が大きいとした.
保険外併用療養の見直しについては,現行の仕組みのなかで拡大することや,評価のスピードアップを図ることには賛成との考えを示したうえで,規制・制度改革に関する分科会の第一次報告書案が,「一定の要件を満たす医療機関については,事前規制から事後チェックへ転換し,実施する保険外併用療養の一部を届出制に変更すべきである」としていることに言及.安全性・有効性の確保のためには一定の要件を確保することは必須条件であるが,医療は生死にかかわる問題であることから,事後チェックへと転換することには反対との考えを示した.
さらに,「対象となる医療機関の『一定の要件』は,『倫理審査委員会を設置している医療機関』を想定」としていることに関しては,「委員会を設置出来るような医療機関は,大学病院や大規模病院に限定されてしまう」とし,医療機関の規模や種類にとらわれず,一定の水準を確保出来ている医療機関が選定されるような仕組みに変更することを求めた.
混合診療の全面解禁については,その問題点として,(一)公的医療保険の給付範囲の縮小,(二)公的医療保険に対する信頼性の低下,(三)患者負担の増加─等を挙げ,改めてその導入に反対する姿勢を強調した.
一方,医療ツーリズムについては,経済産業省が六月一日に発表した「産業構造ビジョン二〇一〇」でも,骨子案の戦略五分野のなかで受け入れ拡大が示されていることに触れ,「現在は,地域医療崩壊の危機にある.医療を成長産業としてとらえるのはよいが,まずは,地域医療再生の道筋を示すべきである.日医は,営利企業が関与する組織的な医療ツーリズムには反対する」と述べた.
そのうえで,医療ツーリズムにより,医療機関が外国人患者に対して自由価格を設定して収益を上げ,経営状況が好転するようになれば,保険診療で受診している多くの日本人患者が後回しにされる可能性を示唆.さらに,日本人のなかにも「全額自己負担でもいいから,優先的に検査・治療をして欲しい」という人が現れることも想定されることから,「このことが混合診療の全面解禁を後押しすることになる」として,医療ツーリズムに対する警戒感を示した.
さらに,同副会長は,市場原理主義的な考え方で私的医療費支出を増加させることは,国民皆保険制度の崩壊につながるとして,このような考え方を牽制した.
なお,今回の会見で使用した資料は,都道府県医師会に六月十一日付で送付したほか,民主党の国会議員にも配布し,日医の考えに対する理解を求めた.
2010年6月9日
社団法人 日本医師会
菅新総理大臣に期待する
2010年6月4日,菅直人氏が内閣総理大臣に指名され,6月8日,菅新内閣が発足しました.
菅総理大臣は,厚生大臣であった1996年に,薬害エイズ問題に対し,政治主導で手腕を発揮されましたが,その姿は,社会保障,医療に携わる者にとって記憶に新しいところです.
また,就任後の記者会見では,政治の役割というのは最小不幸の社会をつくることであるとされ,「強い経済と強い財政と強い社会保障を一体として実現をする」と仰いました.
まさに,強い財政に裏打ちされた社会保障政策の下で,医療再生を切望するわたしたち日本医師会の方向性と一致するものであり,政策の実現にむけ,日本医師会としてもしっかりと支援していきたいと考えます.
さて,民主党を中心とする連立政権発足後の政策を振り返ると,社会保障費抑制政策の撤廃,診療報酬の引き上げなどを着実に実行されました.また,先の衆議院議員選挙の公約において,民主党は総医療費対GDP比をOECD加盟国平均にまで引き上げることを明言されており,今後も医療費の増加が期待されるところです.
しかし一方で,前内閣では,混合診療の原則解禁,医療ツーリズムなどの検討が進み,公的医療費ではなく,私的医療費を引き上げることで,OECD加盟国平均なみの医療費を目指しているのではないかとの疑念も生じました.
日本医師会は,国民皆保険の下,公的医療保険を堅持し,さらに拡充することを第一義と考えます.私的医療費を拡大し,公的医療費支出を抑制するようなことになれば,所得によって受けられる医療に格差が生じかねません.
菅総理大臣は,「社会保障の多くの分野は,経済を成長させる分野でもある」と仰いました.わたしたち日本医師会も,医療,介護は,雇用を創出し経済成長を実現する有力な分野であると認識しており,その成果を強い公的社会保障給付として還元していくべきと考えます.
ただそのときに,行き過ぎた市場原理主義,競争政策によって弱者が切り捨てられることは,決して認められません.現在,新成長戦略のとりまとめが行われておりますが,庶民派総理ともいわれる菅総理大臣には,ぜひとも,庶民の気持ちをおもんぱかっていただき,すべての国民にやさしい社会保障,医療を守っていただくことを切望します.
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