日医ニュース
日医ニュース目次 第1178号(平成22年10月5日)

日本医師会市民公開講座
「大切な子どもたちの命を守るために〜希望するすべての子どもに予防接種を!」

 日本医師会市民公開講座が予防接種推進専門協議会との共催のもと,九月十二日,「大切な子どもたちの命を守るために〜希望するすべての子どもに予防接種を!」をテーマとして,日医会館大講堂で開催された.
 当日は,ワクチンの専門家,地域の小児科開業医,患者・家族それぞれの立場からシンポジストを招き,三百名を超える参加者を前に,熱心な議論が行われた.

日本医師会市民公開講座/「大切な子どもたちの命を守るために〜希望するすべての子どもに予防接種を!」(写真) 羽生田俊副会長の総合司会で開会.冒頭あいさつを行った原中勝征会長は,「大切な子どもの命をいかに守るか,予防接種によって防ぐことが出来る病気で苦しむ子どもを一人でも少なくすることが必要である.予防接種がいかに大切かということを,もっと皆さんに知っていただき,一日でも早く予防接種で防ぐことが出来る病気のワクチンの定期接種化を確立することによって,子どもたちが元気で生活出来る国にしなければならない」と述べた.
 シンポジウムは,元NHKアナウンサーの好本惠氏の司会進行により,神谷齊予防接種推進専門協議会委員長/国立病院機構三重病院名誉院長,峯真人岩槻医師会長/日本小児科医会理事・予防接種委員会担当,高畑紀一細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長,保坂シゲリ日本医師会常任理事/感染症危機管理対策室長が,ワクチン接種の重要性やリスク等について解説を行った.
 保坂常任理事は,「予防接種で防ぐことの出来る病気(VPD:Vaccine Preventable Diseases)のワクチンの多くは,海外においては定期接種として行われている.しかし,わが国では,海外で定期接種されているHib(インフルエンザ菌b型),小児用肺炎球菌,HPV(ヒトパピローマウイルス),B型肝炎,水痘(水ぼうそう),流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)などのワクチンは任意接種であり,海外に比べ予防接種政策は大きく遅れている」とした.特に,一九八〇年代ごろからのワクチンに対する風評や,これまで「予防医療」よりも「治療」を重視した政策が行われてきたことを述べるとともに,諸外国とわが国のワクチンギャップについて,(1)市民への周知不足(2)保健医療担当者の予防軽視(3)サーベイランスシステムが完全でない(4)予防接種に対する国のシステム・組織の欠如(5)副反応に対する国の対応が過去において不十分(6)副反応に対する過剰な反応(7)過去のマスコミの取り上げ方─等が主な原因であると指摘した.
 さらに,同常任理事は,ワクチンで防ぐことが出来るにもかかわらず,その病気にかかったり,重い後遺症に苦しむ子どもや,命を失う子どもたちがいる.予防接種で防ぐことが出来る病気から子どもたちを救うためにも,予防接種法を改正し,地域間や経済的格差なく,希望するすべての子どもが公費(定期接種)でこれらのワクチン接種を受けられる制度を早期に実現させる必要があると訴えた.
 神谷氏は,予防接種法の現在までの改正経緯を説明.特に大きな改正として平成六年の改正を紹介,定期の予防接種がそれまでの集団接種から個別接種に変更になり,接種を受ける子どもの親とかかりつけの医師の総合チェックにより,それぞれのワクチン接種の意義を理解して,接種の安全性を高めるよう改正されたと説明.一方,「わが国の予防接種法では,予防接種で防げる病気が定期接種と任意接種に法律上区分けされていることから,接種を受けにくくしている」と述べた.
 また,国に対しては,世界の状況を判断し,良いものは積極的に推奨していくシステムを早急に確立し,日本の現状を改善するために,予防接種法を改正し,国民が広く予防接種を受けられる体制づくりとともに,国民の生命,健康を守るという視点から,国策として十分な費用を準備すべきとした.
 同氏は,ワクチンの特徴と役割について,米国のデータを基に肺炎球菌ワクチンの導入効果と間接効果,同様にヒブワクチンの導入効果,細菌性髄膜炎について説明を行い,予防接種を理解してもらうためには,もととなる病気を知ることが大切であると訴えた.
 峯氏は,現場の立場から,わが国の現状を説明.「定期接種と任意接種,無料と有料など,情報共有の面でも経済負担の面でも,接種を悩ませる問題が山積しており,これらの問題が,われわれ医療者に対する多くの疑問や質問につながっている」と述べた.
 また,健康被害の救済制度の違いについても説明.「定期接種は,予防接種法で国が補償する救済制度があるが,任意接種は,医薬品副作用の被害救済制度で補償するもので,その補償金額にも大きな差がある」と述べた.
 そのうえで,わが国の小児に対する医療等は,その制度や質が優れているにもかかわらず,予防接種制度については,諸外国,特に先進国と言われる国に比べ,明らかに遅れている.麻しん(はしか)・細菌性髄膜炎など多くの病気は,予防接種で防ぐことが出来ることから,すべての子どもたちが予防接種を無料で受けられることが当然である.今後,接種率を向上させるためにも,「知識の普及を図っていくこと」「接種漏れ者に対するシステムの構築」など,未接種者に対する受診勧奨のためのシステム構築が必要であると訴えた.
 高畑氏は,「世界保健機関(WHO)が接種を勧奨しているワクチンの約三分の一が,わが国では定期接種化されていない.任意接種では費用も高く,接種の必要性も低く受け止められている.私自身も定期接種を受けていれば,子どもたちは守られていると信じていた」と振り返り,「ワクチンで防げたはずの病気に罹患してしまう子どもたちは,自身も含めた大人たちの不作為の被害者である」と述べた.そのうえで,「現在,患者の会を通じて,細菌性髄膜炎に苦しんでいる方の力になりたいと活動を行っているが,大人が正しい知識を持つことが重要である」と訴えた.
 最後に,保坂常任理事が,現在,日医と予防接種推進専門協議会は「希望するすべての子どもに予防接種を!」をテーマとして,希望するすべての子どもが公費(定期接種)でワクチン接種を受けられるよう,署名活動等を中心としたキャンペーンを展開していることを紹介し,賛同と協力を求めた.
 なお,当日の模様は,NHK教育テレビ「テレビシンポジウム」で十月三日午後四時から一時間にわたって放映された.

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