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第1185号(平成23年1月20日) |

なかなか逢(あ)えなかった「絵画芸術」

数年来フェルメールを追いかけている.寡作な画家ゆえ国内では見る機会が少なかったが,最近,現存する作品の約半数が来日している.しかし,もともと三十五点前後なので,「鑑賞した!」と言っても十数点なのだが.
そのなかでも,来日直前のキャンセルで酷(ひど)くがっかりした「絵画芸術」という作品に,ずっと恋焦がれていた.
そこで,ウィーンの美術史美術館まで逢いに行ったのだが…….
印刷のかすれた案内書片手に探しても見つからない! 「世界的に超有名な絵なのに?」と広い館内をぐるぐる回って,ふと回廊の片隅を見ると,ひっそり「絵画芸術」が.
周りにはまばらな観客だけで警備員の影も無い.もし私が感動のあまり触れたら,警報ぐらい鳴るのかしら?
でも,一見したところ何の警備システムも見当たらない.そのうえ飾ってある絵画は,フラッシュを使用しなければ,すべて撮影OKである.
会場内が押(お)し競饅頭(くらまんじゅう)状態で,ほんのちょっと近付いても警備員ににらまれ,警報が鳴る日本の特別展とは大違い.その大らかさに思わずたじろいでしまった.
この違いはどこから来るのだろう? お借りした人様のものに傷を付けてはいけないという日本人の生真面目さ? それとも単なる権威主義かは分からないが,多くの美術品が庶民の息がかかるようなところに置かれて気軽に愛されている欧米社会は,文化の違いとは言え,うらやましい限りに思う.
よって,もう一枚,内気なフェルメールに,こちらから逢いに行きたいと夢見ている.
(美)
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