日医ニュース
日医ニュース目次 第1189号(平成23年3月20日)

プリズム

我が麗しき恋物語

 フランスの女性シンガー,バルバラ(一九三〇〜一九九七年)の歌で,「我が麗しき恋物語」という歌がある.一九六七年の曲なのでかなり古い.
 去年初めて知って,最近この歌を歌うことが多い(訳詞なので原曲の歌詞とはかなり違うらしいが).
 「私が十九で,町でも噂のちょっとした不良で……」と,一つの物語.その女の子が真面目な男性からプロポーズされ,結婚したけれど……倦怠期……「その日はやまない雨 聞いたこともない病気の名前が あなたの唇から あたしは壊れた空缶みたいに 口を開けていただけ……」.
 自分で歌いながら思うこと,患者さんが病名,それも重い病気の名前を聞いた時,頭の中は真っ白で,ドクターが何を言っても聞こえていないのだ.子宮頸がんですが,どこの病院にしますか.前がん状態ですが……と言っても「がん」しか聞こえていないのだと思う.
 丁寧に説明したつもりでも,「聞こえていない」のだから「聞いていない」となる.病気の告知を「いつ,誰に,どのように」などなど,今更ながら,この歌によって考えさせられた.
 と,書いていた時,ちょうど日医の母子保健講習会があり,ATL(成人T細胞白血病リンパ腫)の患者代表として,骨董鑑定で有名な女性のお話があった.二〇〇四年にATL発症.主治医がインフォームド・コンセントで,「あなたは一年後にはいないでしょう」.その一言がつらかった.その後セカンドオピニオンを受け,骨髄移植し六年が経っている.今の医療はすごい.しかし,ドクターの対応の仕方,言葉一つで患者は救われる.数字だけでなく,「大丈夫という言葉が欲しい」と締めくくられた.
 今のような訴訟時代,数字は必要だが,患者さんの気持ちも大切.また,歌を思い出した.

(♪)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.