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第1192号(平成23年5月5日) |

グリーフケア

グリーフケアという概念がクローズアップされてきた.一九六〇年代米国で提唱されたというが,大切な人と死別した悲嘆を癒すための取り組みである.
わが国でも既に先行する研究や実践はあったが,最近特筆すべき進展があった.
一昨年,垣添忠生国立がんセンター元総長が,自らの経験を記した『妻を看取る日』を刊行した.科学者らしい客観的な視点と抑制的な筆致で,死別の悲嘆とそこからの再生のプロセスを綴り,グリーフケアの重要性を訴えた.そこには,最愛の人がこの世に居ないという凄絶な喪失感,身をよじるような苦しみなどが赤裸々に語られていた.反響は大きく,主要各紙はこぞって広く紙面を割き,NHKはテレビドラマ化して放送した.
読者から寄せられた多数の体験談も取り入れて,氏はこの度,『悲しみの中にいる,あなたへの処方箋』を出版した.グリーフワークとグリーフケアについて,分かりやすくしかも詳細に説明している.悲嘆の中にいる人たちの気持ちに寄り添いながら,現在の学問的到達点を示すとともに,自らの体験を踏まえて具体性に富んだ記述は,多くの人たちの回復への道しるべとなるであろう.
グリーフワークは,自分自身で行う喪の作業であり,順調に行われれば,次第に苦痛は癒され,より成熟した境地にさえ到達し得る.
しかし,この悲しみや苦しみは一人で克服するにはあまりにも深刻なので,支援を受けることも重要である.それがグリーフケアである.
すでに各地で積極的な活動は行われつつあるが,この役割が広く認識され,さらに行政面でも適正に対処されれば,今後大きく発展すべき分野であろう.
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