日医ニュース
日医ニュース目次 第1195号(平成23年6月20日)

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勤務医委員会臨床研修医部会
「医師臨床研修制度」に係る意見・提言まとまる

 勤務医委員会臨床研修医部会は,これまで六回にわたり,医学部教育を含めた臨床研修制度に係る諸課題等について検討を続け,本年三月二十八日に,部会の見解を取りまとめたので紹介する.

I 研修状況等

 臨床研修が必修化され,全国のさまざまな病院で臨床研修が行われるようになった.その研修状況は多岐にわたり,主に習得する技術や労働環境も施設ごとに異なる状況である.特に大学病院と市中病院,都市部の病院と地域の病院では経験症例,指導医の充実,労働条件に大きな違いがみられる.臨床研修を制度化する以上,研修施設によらず標準的な診療を行う能力を身に着けていく必要がある.そのためにも研修内容と労働環境の標準化が重要と考える.

II 研修期間・スーパーローテート

 現在は二年間の初期研修期間を設定し,志望科とは関係なく必修の科を経験するスーパーローテート方式を採用している.将来目標としている専門科だけでなく,各科を実際に経験することで得られる経験を重要と感じる研修医が多いという結果であった.一方で,二年間の研修期間は,科によってはローテーションの期間が不十分となる.加えて専門性の高い分野(各科専門医,行政等)を志望する研修医に対しては,自由度の高い研修カリキュラムを希望する声もあった.今後,適切な研修期間について検討する必要があるが,卒前教育の内容を踏まえて考慮していくことが望ましく,研修病院と大学病院の垣根を越えた議論が重要である.

III 地域医療研修

 初期研修の多くが大学病院若しくは地域の基幹病院で行われている.しかし,医療を担うのは前述の急性期病院,大病院だけではない.その現実を地域医療研修で実体験として感じることは,おのおのの志望科に進むうえで重要と考える.ただし,地域医療研修の多くが現場任せとなっており,ともすれば研修医を医療過疎地の労働力としてのみ期待する状況も見られる.今後は,地域医療研修が,医療の多様性を実体験し医師としての幅を広げる機会となるよう,標準化を図っていく必要がある.

IV 初期研修修了後のキャリアパス

 近年は初期研修後の進路について,さまざまなキャリアプランが選択可能であり,大半の医師が医局に所属していた状況から大きく変化してきている.そのため,初期研修後のキャリアパスを研修医自身が検討する必要があり,従来よりも進路決定に不安を感じる研修医もいるようである.しかし,選択の自由があることには大半が賛成であり,今後は研修を受ける側と提供する側との情報共有や魅力的なカリキュラム作成が課題である.

V 医学部教育

 近年はCBT(Computer Based Testing)やOSCE(Objective Structured Clinical Examination)の導入など,医学部教育についても大きな変革があった.習得するべき知識や技術の増大に対応するためには,今後医学部教育をより充実させる必要がある.従来の医師国家試験のみでなく,CBTやOSCEといった学習段階に応じた試験で習得の節目を明らかにすることは有効と考える.一方で,基礎医学分野や学位取得など,進路として希望する医学生は少数であるが重要な分野についても医学教育での位置付けを議論していく必要がある.

VI 臨床研修先の限定

 地方を中心として医師不足の問題は深刻さを増すばかりである.従来の医局主導の人員配置のみでは,この問題は解決困難と考える.しかし,医師の偏在を解消する目的で,臨床研修先を限定することは臨床研修の本来の趣旨からは逸脱する可能性が高い.加えて魅力的な研修プログラムを持つ研修病院が,今後,より魅力的な研修を作っていく熱意を抑制する結果にもなりかねない.現状では医学生,初期研修医の選択の自由と各研修病院の自助努力を残した形での地域の医師不足対策を検討していく必要がある.

VII 部会のあり方

 当部会では,現役医師のなかではより医学部教育,臨床研修に近い立場で議論が行われ,今後も当部会から提言していくことは重要と考える.一方,実際の現場は当部会を通じて議論したよりも多様である.そのため,今後はさらにさまざまな立場から意見を集約し,提言していけるよう当部会を意見交換の場として一層充実させていただきたい.

勤務医委員会臨床研修医部会

伊藤 洪志(東京勤労者医療会東葛病院)
宇井 睦人(東京都立多摩総合医療センター)
大柿 玲奈(東京歯科大学市川総合病院)
柏木 秀行(麻生飯塚病院)
河南 真吾(徳島大学病院)
齋藤 平佐(岩手県立中央病院)
下園 由泰(聖路加国際病院)
立石 文子(聖マリアンナ医科大学)
永田  翔(聖隷浜松病院)
藤田 一喬(筑波大学附属病院)
峰 宗太郎(国立国際医療研究センター)

〔平成22年9月28日から〕

渡部 明人(国立国際医療研究センター)

〔平成22年9月27日まで〕

【三上常任理事・企画課】

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