日医ニュース
日医ニュース目次 第1202号(平成23年10月5日)

東日本大震災 被災地は今(1)(宮城県)
被災県からの要望〜震災から半年が経過して〜
宮城県医師会常任理事 佐藤和宏

東日本大震災 被災地は今(1)(宮城県)/被災県からの要望〜震災から半年が経過して〜/宮城県医師会常任理事 佐藤和宏(写真) 東日本大震災から,半年が経過した.あの長く強烈な地震や大津波が現実のものだったのか,ふと考えてしまう.今でも,夢の中にいるような感覚さえ覚える.気仙沼から山元までの,宮城県沿岸部の美しい景観はもう永遠に戻っては来ないのではないか,宮城県の産業はこの先どうなるのだろう,そして医療は本当に復旧するのだろうかなどと,つい悲観的になることもある.
 先日の同窓会で,石巻市や南相馬市で被災した同級生の話を聞く機会があった.分娩の最中に地震が来て,分娩を終え,間一髪で津波から避難した話や,原発事故の影響で,三日間で二百床弱の病院を急遽(きゅうきょ)閉鎖した顛末(てんまつ)など,生々しい体験談を話してくれた.
 しかし,今でも時折起こる余震は,否応なしに私たちを現実に引き戻す.このような中で医師会の重要業務は,復旧した医療機関に最大限の資金援助をすることであるので,その点を中心に述べてみたい.私たちのアンケート調査結果では,全壊の医療機関は百四件であるが,そのうち六十六件が復旧している.廃院した機関は十五件,勤務医として診療中が十二件,未定十一件である.
 これらの復旧した医療機関に対する補助金は,まず医療施設等災害復旧費補助金として一次補正予算により全国で約三十六億円が担保されたが,申請及び認定の敷居が高く金額も明らかに少ない.表1にこの補助金の問題点を示す.
 次に地域医療再生基金の十五億円は,前倒しで使用可能とされていたが,八月二十三日に臨時県議会で決定し,十月中に当該医療機関に配賦予定である.概略は,全壊機関に一千万円上限,半壊機関に五百万円上限で配賦することなどである.
 宮城県の現在の試算では病院,医科診療所の被害額は約二百八十億円とされる.公的病院などの補助制度適応機関の補助対象経費は,約百二億円であり,国庫補助見込み額は計算上約五十一億円となる.また補助制度なしの医療機関の被害額は約八十五億円で,二分の一上限で助成するとして,約四十二億円が必要である.これらの合計は九十三億円であるが,現在まで(九月上旬)は,約二十二億円のめどしか立っておらず,約七十一億円が不足している.このように医療機関復旧のための国の予算は絶対的に不足しており,今後は三次補正や地域医療再生基金の加算部分(百五億円)等の有効活用を考えねばならない.
 なお,既述の金額はあくまでも予想額であり,今後は各被災医療機関に一軒一軒聞き取り調査をして正確な被災額を把握し,その上で補助金を決定することが大切である.こうした作業は多くの労力を伴うが,被災県医師会としては何としてもやり遂げなければならず,日医のご支援をいただきながら進めていきたい.
 民間医療機関に公的な資金援助をすることはいかがなものか,というご意見もあるかも知れない.しかし,民間医療機関が復旧しなければ,地域医療は崩壊する.しかも上限は二分の一である.残金は各医療機関の借金として残るわけで,ここは地域医療復活のためにも,英断をお願いしたい.
 発災以来,日医を始めとする全国の医師会,医師たちから手厚い人的,物質的な援助をいただいた.私たちは本当に感謝しており,改めて「日本医師会」の組織力に圧倒される思いである.宮城県の医療復旧は,まだその緒に就いたばかりであるが,今後も全国的なご支援をいただきながら,復興に向けて頑張っていきたい.被災直後に医師会玄関に掲げた「宮城県医師会災害対策本部」の表示(写真)は,被災半年が経過してもまだ当分外せそうにない状況である.

表1 医療施設等災害復旧費補助金交付要綱の問題点

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.