日医ニュース
日医ニュース目次 第1204号(平成23年11月5日)

日本医師会市民公開講座
「災害とこころのケア〜こころの傷に負けないために〜」をテーマに

日本医師会市民公開講座/「災害とこころのケア〜こころの傷に負けないために〜」をテーマに(写真) 日本医師会市民公開講座が十月十六日,「災害とこころのケア〜こころの傷に負けないために〜」をテーマに,日医会館大講堂で開催された(参加者:三百二名).
 保坂シゲリ常任理事の総合司会で開会.原中勝征会長は冒頭あいさつで,東日本大震災の直後に,自身が被災地を視察し,その惨状に胸が痛んだ心境を語った上で,「被災した人々を助けるのは,日本国民の義務であると感じている.被災者に将来の明るさが見える環境づくりを目指して我々と一緒に行動して欲しい.日本医師会は,これからも国民のための医療活動と将来の社会保障の維持を考えていきたい」と述べた.
 つづいて,好本惠氏の司会でパネルディスカッションが行われた.
 松田ひろし柏崎厚生病院長は,トラウマ(心的外傷)反応や,PTSD(心的外傷後ストレス障害)は,災害直後には誰にでも起こる正常な反応であると説明.その上で,多くの場合,災害から半年以上が経つと,ストレス反応は自然に消えるが,一部には不適応を起こし,持病の悪化や,うつ病などの精神障害の発症で,専門的な治療が必要となる場合もあるとした.また,中越地震や中越沖地震の経験から,被災者は被災状況が厳しいほど,高齢者であればあるほど,また独居の人ほど,ストレスが高いことから,個別の状況に応じたサポートが必要だと指摘した.
 平岩幹男Rabbit Developmental Research代表は,災害後は,全ての子どもがこころに問題を抱えている可能性があることを認識した上で対応していく必要があるとした.子どもの話をよく聞き,個々の子どもの全体像を把握しておくことが基本であり,そのために日ごろから子どもとの良い関係を築く努力をすることが大切だとした.また,「がんばれ」と励まさないこと,褒めること,軽いボディタッチ,また,一緒に汗ばむ程度の運動も大事だと説明.更に,子どもの話を記録することや,家族への気遣いも必要であるとした.
 続いて,精神科医として震災前から地域と連携しながらメンタルヘルス対策に取り組んできた黒澤美枝岩手県精神保健福祉センター所長は,まず,初動から中期にかけて,いわゆるこころのケアの中核を担ったのが,医師(主に精神科医),看護師,保健師,精神保健福祉士,臨床心理士などによって構成されるケアチームであり,岩手県に,県内外から延べ三十チームが入ったと説明.チームが最初にしたことは,プライバシーに配慮し話を聞くケアの場を作ることであったと紹介した.更に今後は,支援,見守り体制の継続や強化が必要と指摘した.
 精神保健福祉士の岡茂仙台市精神保健福祉総合センター相談係長は,震災後三日目から立ち上げた,仙台市精神保健福祉士総合センターのこころのケアチームによる,仙台の各避難所の被災者への対応状況を説明.被災者やスタッフの安心感を醸成するため,当初一週間はメンバーを固定したこと,全国から派遣された保健師からの情報の共有により,ケアを必要としている人への対応がスムーズにいったことを報告.「今回の対応で,改めて保健師やさまざまな職種と日常的に連携を強くしていく必要を痛感した」と述べた.
 また,支援の必要な人に対して,こちら側から出向き,話を聞いていく支援を今後も継続していきたいとした.
 なお,当日の模様は,十一月五日(土)午後二時から約一時間にわたって,NHK Eテレ(旧教育テレビ)「テレビシンポジウム」で放映予定.

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