 |
第1223号(平成24年8月20日) |
平成24年度都道府県医師会救急災害医療担当理事連絡協議会
超高速インターネット衛星「きずな」を利用した災害想定会議を実施

都道府県医師会救急災害医療担当理事連絡協議会が7月26日,日医会館小講堂で開催された.当日は,宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の協力により,超高速インターネット衛星「きずな」を用いて,災害を想定したテレビ会議等による情報共有を実施した.当日の参加者は176名で,会場の模様はテレビ会議により,12都道府県医師会に同時配信された.
冒頭あいさつした横倉義武会長は,「東日本大震災発災直後から,全国の都道府県医師会の協力の下,日本医師会災害医療チーム(JMAT:Japan Medical Association Team)を組織して被災地の医療支援,健康支援を行ってきた.現在は,JMATIIとして支援を頂いており重ねて感謝する.本日は,北海道・埼玉県両医師会やJAXAの協力の下,災害時の連絡体制の確認試験を行う.起きて欲しくはないが,災害時に有効に活用するためにも日ごろのトレーニングが重要であり,その糧となればと思う」と述べた.
続いて,石井正三常任理事が,「救急災害医療を巡る諸問題」について報告を行った.同常任理事は,東日本大震災におけるJMAT派遣状況として,七月二十三日現在のJMAT(千三百九十八チーム,六千五十一名),JAMTII(六百四チーム,千七百九十二名)の参加者数を示し,「東日本大震災支援の最大の支援リソースになっているのではないか」と報告.今後起こり得る,東海地震,東南海地震,南海地震などの発生に対して,JMAT活動等に関する日医の方針などを説明した.
衛星通信を用いた災害時対応を確認
日医に設置された通信用衛星アンテナ |
 |
引き続き,「災害時の非常時通信デモンストレーション」として,情報通信研究機構(NICT)とJAXAによって共同開発された超高速インターネット衛星「きずな」を活用した通信実験が行われた.
中尾正博JAXA宇宙利用ミッション本部衛星利用推進センターミッションマネージャが,衛星「きずな」の概要について説明.衛星「きずな」は,超高速通信ネットワークの構築を目指して開発された衛星で,従来の衛星と比べて通信アンテナの小型化が可能となったことで耐災害性や可搬性に優れ,臨時のネット回線の提供を可能にしている.東日本大震災の際には,被災地への通信回線提供支援として,岩手県対策本部と釜石市,大船渡市の現地対策本部の情報共有に役立てられた.
今回の連絡協議会開催に向けて,日医と北海道・埼玉県両医師会に,通信用アンテナを設置(写真).各医師会が衛星「きずな」の回線を利用し,テレビ会議の実施や筑波宇宙センターを経由してのインターネットを利用出来る環境が整えられた.
「災害時の非常時通信のデモンストレーション」では,日医から羽生田俊副会長,石井常任理事,永田高志日医救急災害医療対策委員会委員,石原哲東京都医師会救急委員会委員長が,テレビ会議で北海道医師会から長瀬清会長,埼玉県医師会から金井忠男会長,岡治道常任理事が参加し,二つのシナリオに沿って実施した.
「シナリオ1」では,北海道に西札幌断層を震源とする大型地震が発生し,情報通信,インターネットが途絶した場合を想定.
北海道医師会から,衛星「きずな」を通じてテレビ会議に接続.日医と埼玉県医師会へテレビ会議で連絡を取り,現地対策本部の設置やJMATの派遣を依頼する手順を確認した.更に,現地の状況説明として,衛星「きずな」からのネットワーク回線を用いて,「電子カルテ共有」のトライアルや患者画像の参照などが行われた.
「シナリオ2」では,大型台風が東京を直撃している最中に,突如東京湾で大地震が発生し,日医会館も被災,機能を喪失した場合を想定.
日医から衛星「きずな」に接続し,北海道医師会,埼玉県医師会とテレビ会議で連絡を取り,三者間の「情報・連絡業務委託契約」に基づき,日医の情報連絡窓口機能を北海道医師会,埼玉県医師会に移管.埼玉県医師会への現地対策本部の設置を依頼する手順などが確認された.
惨事ストレスと災害時の医師の倫理を解説
通信実験を行う羽生田副会長ら(右)と
長瀬北海道医師会長(左) |
 |
続いて,「災害医療に関する講義」として,(一)「災害医療支援者のメンタルヘルス」(松本和紀東北大学大学院医学系研究科准教授),(二)「法的課題への対応」(畔柳達雄日医参与)―の二題が行われた.
松本准教授は,災害や悲惨な事故現場で活動した人が経験する特有のストレスとして,「惨事ストレス」を紹介.「惨事ストレス」による影響は支援者の誰もが受けるが,多くは異常事態に対する正常な反応として,時間と共に回復するとした.また,慢性化させないための対策として,「惨事ストレスに対する知識:事前の準備」「日ごろからのメンタルヘルス対策」「組織としての評価とねぎらい」等が必要であるとした.
畔柳参与は,災害時の人道支援活動に伴う法律の扱いについて講演した.同参与は,「災害時においても刑法や民法などは適用されるが,特殊災害時の医師には患者を救うという正当な目的があるため,まずは患者のために全力を尽くすべき」と医師の倫理を強調.更に,同参与は,「災害現場において,急いで判断しなくてはいけない事象や,判断が難しい事象に遭遇した場合は,一人ではなく,出来るだけ複数人で協議し,英知を絞りながら判断することが大切であり,法律から身を守ることにもつながる」とした.
「JMAT活動報告」では,まず,長谷川傑秋田県医師会救急災害医療委員会委員が,「秋田DMAT」から「秋田県災害医療救護チーム(兼JMAT)」への移行時の調整と岩手県釜石市での活動について報告.妹尾栄治兵庫県医師会理事は,阪神・淡路大震災の経験を基に「JMAT兵庫」として宮城県石巻市で行った支援活動を報告.木田光一福島県医師会副会長は,いわき市医師会長であった震災当時を振り返りながら,支援を受ける立場からの活動報告を行った.
最後の質疑応答では,今後のJMATのあり方や衛星「きずな」の利用に関する質問などが寄せられ,石井常任理事らが回答.羽生田副会長の総括により,協議会は盛会裏に終了した.
|