日医ニュース
日医ニュース目次 第1223号(平成24年8月20日)

勤務医のページ

医学教育に思うこと
埼玉医科大学内分泌糖尿病内科 稲葉 宗通

はじめに

 私が医学教育に関わっているのを知って,友人から,「最近の医学教育はどうなっているのだ」と問われることが多い.この問い掛けに対してどのように答えるか考えてみたい.

最近の医学教育〜本学を中心にして〜

 最近の医学教育はどうなっているか.この問いに対して,自分たちの時よりもずっと良くなっていると答えている.
 その理由はいくつかある.勉強をする際に,何をどう学べば良いか到達すべき目標(到達目標)が提示されており,勉強しやすくなったこと.また,知識の習得のみでなく,採血や縫合といった基本的臨床技能の修得にシミュレーター(人形モデル)を用いて練習するシミュレーション教育,更に態度・習慣といった精神運動領域についても入学して間もなくからさまざまな演習が始まる.
 これらを取り入れたカリキュラムが作成されていること以外に,これまでとの大きな違いは,教員が教育に対して関心を持っていること,学生一人ひとりを大切にしてサポートしていくシステムが出来ていることなど,ソフト面でも変わっており,組織,カリキュラム,教員,学生等それぞれに数えきれないほどの変化がある.これまでに改善されるには長い時間がかかっており,医学教育の進歩と密接に関係している.

良医を育てるために〜医学教育学会の役割〜

 日本医学教育学会大会が,先日,慶大医学部主催で開催され,全国から多くの医療関係者が集まった.
 この学会は,日野原重明先生,牛場大蔵先生が中心となって設立し,一九六九年に第一回が開催されてから今回で四十四回目を迎えた学会である.この学会は日本において唯一の医学教育に関する学会であり,これまでの日本の医学教育の改革に中心的役割を果たしてきた学会でもある.

医学教育の変遷

 これまでに開催された基調テーマを見ると,その時代時代を背景にした日本の医学教育の変遷を知ることが出来る.その中で全く変わらないのは“「良医」をいかに育てるか”という基本理念が根底に流れていることである.
 良医を育てるためにこれまで多くの先達により行われてきた従来の医学教育をどのように改善すれば良いのか.例えば,教育目標の設定やカリキュラム設計,教育システムの構築等の組織づくりから,教育技法の開発・普及や教育者教育の実施など,人を育てることにも重点を置いた研究と普及活動に力が注がれてきた.
 その活動は,当初,医学部教育(卒前教育)を中心にして議論がなされてきたが,平成に入ると初期臨床研修について,大学院や専門研修について(卒後教育),そして,地域連携,生涯学習(生涯教育)に及ぶ幅広いテーマが加わってきた.
 更には,多職種連携の重要性から,看護教育,薬学教育,歯学教育など,医療に関連する職域の教員の参加が増えてきたのも近年の医学教育の傾向を示している.
 そして,医学教育には欠くことの出来ない医学生の参加と国際セッションの導入も,この学会の特徴の一つとなっている.
 このように見てくると四十年の歴史の中で,医師を育てる・良医を育てるために形を整え,内容を充実させていくことにどれだけ多くの人が関与し(人的資源),時間と労力を費やしてきたのか想像に難くない.
 そして,これらは既に完成されたものではなく,これからも常に深化し続けていくものである.その方向は,世界基準の質の向上を目指していくものとなるであろう.

最後に

 最後に,どのように医学生を始めとして,後輩の医師に接していけばいいのか,国語教師の大村はま氏の書かれた「教えるということ」から参考になる言葉を紹介したい.
 子どもというのは,「身の程知らずにのびたい人」のことで,一歩でも前進したくてたまらず,勉強するその苦しみと喜びのまっただ中に生きている.
 授業は子どもにとっては唯一の時間で,再び繰り返すことの出来ない貴重な時間である.
 そのため,教師は常に最高の自分でなければならず,「研究」をし続けることで,子ども達と同じ世界にいることが出来る,勉強し続けなければならないと述べている.
 教師は,次の時代を生き抜く人をつくらなければならない.「本当に学ぶこと」を子ども達に教え,教師である自分を越えていけるような人に育てるべきである.
 私たちは,医師であると同時に,「良医」を育てる教師であることを自覚すべきである.

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