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第1225号(平成24年9月20日) |

生殖補助医療法制化検討委員会の設置に当たって

一九七八年,世界初の体外受精児誕生以来,生殖補助医療技術の進歩は著しく,わが国でも,二〇〇九年には高度生殖補助医療により誕生した児は二万六千六百八十人となり,総出生児数の二・五%を占めている.
生殖補助医療は,不妊の人々にとっては大きな福音となるが,一方で,生命倫理上の多くの問題や民法が想定しなかった新たな親子関係を巡る課題を提起している.欧米では生殖補助医療の発展と普及に対応して,治療の許容性や実施条件,親子関係に関連する法整備が進んでいるが,わが国では,学会・医会,司法の現場などから法制化の必要性について指摘がなされたことから,厚生科学審議会等で審議され,一時期法制化の機運は高まったものの,いまだ法制化には至らず,日本産科婦人科学会の見解に準拠し,医師の自主規制の下に実施されているのが実情である.
今年四月,自民党有志議員により生殖補助医療に関する法律案が示され,日医では,小職の主宰で,「生殖補助医療法制化に関する懇話会」を開催し,有識者に意見を求めた.懇話会の総意として,子の権利・福祉の観点から,特定生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例法の制定を優先すべきであること,その場合,分娩した女性が母であるとするルールを貫き,依頼夫婦を養父母とすることが望ましい,等がまとめられた.
同懇話会では,社会の関心が高い代理懐胎など第三者を介する特定生殖補助医療に焦点が当てられ論じられたが,配偶者間の体外受精,胚移植,着床前診断,男女産み分け,減数手術,配偶子あるいは受精卵に対する遺伝子治療等についても,そのあり方について議論し,改正母体保護法との整合性も考慮して,生殖補助医療法制化を大局的に検討する必要があると考え,この度,正式に生殖補助医療法制化検討委員会を立ち上げるに至った.
今月から,限定された医療機関で,妊婦の血液を用いた出生前診断が導入されるが,この革新的な検査法は,生まれてくる生命に個人及び社会がどう対処すべきか新たな倫理問題をもたらすであろう.更に,iPS細胞等から配偶子をつくることが可能となり,生殖補助医療のあり方を大きく変革する時代が早晩到来することも予想される.
技術革新が進み,どのような時代にあっても,人の生命の尊厳と生まれた子どもの権利と福祉を守るという視点を軸に,最も適切な形の生殖補助医療法制化に向けて検討を重ね,日医として積極的に発信していきたいと考える.
(常任理事・今村定臣)
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