日医ニュース
日医ニュース目次 第1233号(平成25年1月20日)

勤務医のページ

在宅医療の推進に向けた開業医と勤務医の新しい連携医療の構築
栃木県医師会副会長 前原 操

高齢社会と医療崩壊

 急性期病院では,脳卒中,心筋梗塞,がん等の生活習慣病患者が治療を受けるが,急性期の治療を終えた後も,外来に通い続ける.全ての責任を急性期病院勤務医が負うことになり,死に場所まで提供している.日本の看取りの場所を見ると病院死が八五%(がんに至っては九三%が病院死)と世界的に見ても極めて特異な状態.本来急性期病院は病気を治す場である.たとえ,障害を残して治ったとしても,これらの患者を最後まで看る義務は急性期病院にはない.むしろ,かかりつけ医や地域に根差した病院に返した方が,患者にとっても,家族にとっても,好ましい.このことを急性期病院医師や看護師は患者に教示すべきだ.このまま急性期病院中心の医療が続けば,急速に高齢化が進む日本において医師不足,医療崩壊が更に進むであろう.

地方の疲弊,地域・家族の崩壊

 に示すように,栃木県は昭和三十五(一九六〇)年から平成二(一九九〇)年まで,在宅死が全国に比し,常に約一〇%多くあった.自宅と医療機関での死亡が逆転するのは全国に遅れること約六年.これをわれわれ栃木県医療関係者は県の医療が遅れているためと理解した.果たしてそうであったか? 平成二年以後,すなわちバブル崩壊後,急速に在宅死が減り,病院死が増加,全国レベルに追いついている.
 バブル崩壊後,栃木県で何が起こったのか? よく“失われた二十年”と言われるが,単に経済成長の問題だけでなく,地域社会が崩壊し,家族の絆が無くなり,地域で,更に自宅で,家族に見守られ,死ぬまで家で生きることが難しくなったものと考える.
 家族の絆や地域社会の協力関係が失われ,経済成長を取り戻すために競争社会に身を挺し,格差社会になり,人々は孤立し,失業や,孤独死,自殺者が増加してきたのが,この失われた二十年であった.もはや後戻りは出来ないかも知れない.

勤務医のページ/在宅医療の推進に向けた開業医と勤務医の新しい連携医療の構築/栃木県医師会副会長 前原 操(図)

治す医療(cure)から支える医療(care)へ

 高齢化の影響を受けて医療の目的が変化している.根治的治療が可能な患者より,生活習慣病による慢性疾患患者が増加し,病気と共存した生活を営むことが求められている.「症状が急変した時が心配」と大病院に通院を続ける高齢者の気持ちを推し測るべき時期にきている.生活の質(QOL)を重視すること,すなわち治す医療よりも患者の生活を向上させる医療・介護へシフトすべきである.医師の価値観を押し付けるのではなく,患者の満足度を重視する医療への変化が必要である.

病診連携,医療・介護連携

 心ある勤務医は,既に在宅医療の必要性について十分理解している.一方,一般の開業医は,二十四時間の対応や多業種協働,介護保険との連携など面倒なことが多く,在宅医療に関わりたくない.一般の開業医の多くは,かつて病院勤務医であり,専門医であった.病院勤務時代と同じ診療形態で診療している開業医がほとんどである.彼らは自分の専門領域については詳しく診ることが出来るが,患者を人間として診るには経験が必要である.臓器の専門医から命の専門家にならなければ在宅医療は出来ない.病診連携はお互いの信頼関係さえあれば比較的難しいことではない.ITCによる地域医療連携ネットワークの構築も一つの手段である.
 一方,医療・介護連携は多くの困難が存在する.われわれ在宅医は,医師一人で二十四時間三百六十五日患者を診ることが出来るはずもない.訪問看護師やケアマネジャー,歯科医師,薬剤師,地域包括支援センターの方々,更に市,町行政とも協働しなければならない.
 これらの課題を踏まえ,開業医と勤務医,更に介護職との新しい連携医療・介護ネットワークを構築する時代がきている.

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