日医ニュース
日医ニュース目次 第1251号(平成25年10月20日)

今村定臣常任理事に聞く
子どもたちを虐待から救うため,特別養子縁組あっせん事業の充実・発展に努める

 今号では,今村定臣常任理事に,日医が,「特別養子縁組あっせん事業」に関与することになった背景や今後の日医の対応等について説明してもらった.

今村定臣常任理事に聞く/子どもたちを虐待から救うため,特別養子縁組あっせん事業の充実・発展に努める(写真) 日医が平成十八年五月に公表した「子ども支援日本医師会宣言」の中には,「子育てに関する社会環境の整備」という項目があり,その具体的施策として「虐待の予防と早期発見」が謳(うた)われています.日医では,本宣言を取りまとめて以降,本宣言の趣旨に沿って実行すべく,児童虐待防止を始め,周産期,乳幼児,小児に関わるさまざまな対策に取り組んできました.

産まれたばかりの子が実母に命を奪われる衝撃

 このような中で,平成二十二年十月に開催された第十四回児童虐待防止対策協議会(政府から内閣府,警察庁,法務省,文部科学省,厚生労働省,最高裁判所の関係部局と日医を始め現在約五十の関係団体で構成される協議会)において,社会保障審議会児童部会が同年七月に取りまとめた「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会第六次報告」に関する説明が行われました.
 この報告は,平成二十一年度の虐待による子どもの死亡事例等を対象とした調査結果を基に取りまとめられたものですが,その概要は,(1)虐待による死亡児の年齢をみると,第一次報告から第五次報告までは,心中以外の死亡事例に占める〇(ゼロ)歳児の割合は三割から四割の比率で推移しているが,第六次報告では,その比率が五九・一%と六割近くに増加している(2)特に〇(ゼロ)歳児死亡例のうち〇(ゼロ)カ月児は六六・七%,更にこの〇(ゼロ)カ月児のうち,日齢〇(ゼロ)日児の割合が六一・五%を占める(4)死亡事例の多くは実母の加害によるもの─となっていました.
 また,虐待死亡事例における実母の妊娠期・周産期の問題に関する調査(複数回答可)では,虐待の背景として,(1)望まない妊娠三一・三%(日齢〇(ゼロ)日児で六八・六%)(2)妊婦健診未受診三一・三%(日齢〇(ゼロ)日児で七五・〇%)(3)母子健康手帳未発行二九・九%(日齢〇(ゼロ)日児で八一・三%)─があることが明らかになりました.
 率直に言って,私自身,児童虐待の件数の増加ということは認識していましたが,この世に生を受けたばかりの救いの声すら発することが出来ない子どもたちが,実母により命を奪われるケースが多いという現実に衝撃を受けました.
 また,厚労省によれば,平成二十四年度に全国の児童相談所での「児童虐待相談対応件数」は,に示したように,過去最多の六万六千八百七件(対前年度比一一・五%増)で,平成二年度と比較すると六十倍にもなっています.
 しかし,この数値は氷山の一角に過ぎず,現実にはこの数倍の虐待が隠れているという指摘もあることを考えますと,特に,〇(ゼロ)歳児虐待防止のためには,従来の児童相談所を中心とした対応に加え,妊婦,褥(じょく)婦の身近にいる産婦人科医師の早期の介入による防止対策が必要なのではないかとの思いに至りました.

図 児童相談所での児童虐待相談対応件数の推移(厚生労働省資料より)

特別養子縁組あっせん事業への関与のきっかけ

 そこで,日医としても何か取り組みが出来ないかと考え,平成二十三年度からは,地域における児童虐待防止対策の啓発・推進を目的として,これまで,児童相談所の職員の研修を始め,児童虐待防止に係る啓発活動を実践してきた公益財団法人SBI子ども希望財団と共に,「子ども虐待防止フォーラム」(翌年度より「子育て支援フォーラム」)を,年四回,各開催地の都道府県医師会との共催により開催することといたしました.
 その第一回目のフォーラムは,平成二十三年六月に静岡県浜松市で開催したのですが,その際にシンポジストとしてお招きしたのが,埼玉県の産婦人科医師で,望まない妊娠等により子どもを育てることが出来ない妊婦,そしてその子どもと養親をつなぐ特別養子縁組あっせん事業に先駆的に取り組んでおられた鮫島浩二先生でした.
 私も,そのフォーラムに出席したのですが,鮫島先生のお話に深い感銘を受けるとともに,幼い命を虐待等から救うためにも,何とかこのような取り組みを,適切な養子縁組あっせん事業の展開という視点の下に,全国レベルに広げることは出来ないかと考え,まずは私自身の出身地でもある九州ブロックに協力を求めることとしました.
 具体的には,九州地区の中で,ご自身が産婦人科医でもあり,また日医会内委員会の委員長をお願いしていたことなどから,熊本県医師会の福田稠会長に昨年の九月に正式に,県医師会内でご検討頂くことをお願いしました.
 これを受けて,熊本県医師会では県医師会報を通じて県下の会員の先生方に,養子縁組あっせん事業を行う意向を確認するなどして頂きましたが,結果的には,手を挙げて下さる医療機関はなく,福田先生ご自身が自院で取り組むことを決断して下さり,本年五月には,病院としては全国で初の養子縁組あっせん事業者としての届出を行って頂きました.
 最近,一部の養子縁組あっせん事業者が寄付金等の名目で多額の費用を請求・受領している実態が明らかになりましたが,福田病院では,少額の費用を徴収するだけで事業を行い,既に数例の特別養子縁組の実績を上げておられると聞いています.
 また,この動きに引き続き,本年九月には鮫島先生,福田先生を始め全国計四カ所の特別養子縁組取り扱い施設,十五カ所の養子縁組希望者からの相談対応施設,計十九の医療機関が参加して,「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」が設立されました.同協議会の基本方針の中には,「第一に考慮すべきは子の幸せであり,次に実母の心のケアを大切にする」「虐待防止の視点から必要に感じて養子縁組を行うのであり,養子縁組が優先するのではない」「実母,養親いずれからも謝礼や寄付金などを取らない.医療の一環として扱う」ということが書かれています.
 同協議会には,お互いのノウハウの蓄積,情報の共有等を促進し,地道に,そして確実に前進していかれることを心から期待していますし,日医としても,この高い志の下に特別養子縁組あっせん事業に関わることを決定された同協議会が円滑かつ適切に運営出来るよう支援し,共にこの事業の充実・発展を目指していきたいと考えています.
 また,今後,特別養子縁組あっせん事業を展開する中で,制度的課題等が明らかとなった場合には,厚労省等の関係行政も交えた協議により,その解決を図っていく所存です.
 いずれにしても,日医としては,国の貴重な財産である子どもたちを虐待から救うため,今後もさまざまな取り組みを行っていく所存ですので,会員の先生方には引き続きのご支援・ご協力をお願いいたします.

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