日医ニュース
日医ニュース目次 第1255号(平成25年12月20日)

ハーバード大学公衆衛生大学院武見国際保健プログラム設立30周年記念シンポジウム

ハーバード大学公衆衛生大学院武見国際保健プログラム設立30周年記念シンポジウム(写真) 武見国際保健プログラム(以下武見プログラム)の設立三十周年記念シンポジウムが十一月二十三日,日医会館大講堂で開催された.本プログラムは,医療資源の開発と配分に関する高度研究・研修プログラムとして,一九八三年,武見太郎元日医会長の名前を冠してハーバード大学が同大学公衆衛生大学院(以下HSPH)に創設し,現在までに日本人五十二人を含む世界五十一カ国から二百四十二名のフェローを輩出している.
 石井正三常任理事の司会で開会.冒頭,あいさつに立った横倉義武会長は,HSPHの歴代の学部長,教授陣,特に設立当初から武見プログラムの指導に当たってきたマイケル・ライシュ教授に敬意を表すとともに,二十年にわたり財政支援を行っている日本製薬工業協会に謝意を示した.その上で,わが国は超高齢社会と少子化への対応,国民皆保険の堅持など国内問題の解決に挑みつつ,感染症の国際的広がり,自然災害における医療関係者の国境を越えた協力体制など,国際的な視点からも医療問題に取り組む必要があることを強調.武見フェローに対し,「この武見プログラムという国際的に高い貢献度をもつ講座に在籍した経験を生かして,これからも大いに飛躍して頂きたい」と期待を寄せた.
 引き続き,来賓の田村憲久厚生労働大臣(原壽医政局長代読),カート・トン在日米国大使館首席公使,武見敬三参議院議員,手代木功日本製薬工業協会会長から,それぞれあいさつがあった後,ライシュ教授が基調講演「武見プログラムの概観,過去と未来」を行った.
 同教授は,武見プログラムの歴史と武見フェローの業績を振り返り,将来の課題を考察するとともに,「アメリカの大学と日本の医師会が協力して世界の健康状況を良くするという,他に例のないプログラムだ」としてその意義を強調し,更なる支援を求めた.

武見フェロー講演

ハーバード大学公衆衛生大学院武見国際保健プログラム設立30周年記念シンポジウム(写真) その後,日医国際保健検討委員会委員から五名の日本人武見フェローが講演し,医師会委員が各講演にコメントした.
 永田高志委員(九州大学大学院災害・救急医学分野助教)は,「国際保健から日本の災害医療を考える JMATは武見プログラムから生まれた」と題して,武見フェローであった二〇〇五年に,ハリケーン「カトリーナ」の被害を受けた米国の状況を紹介.帰国後,日医の災害対策委員会に参画して,阪神・淡路大震災など日本の災害対応は地域医師会が核となってさまざまな活動が展開されていた点に注目し,JMATの構想の検討に参画したことを説明した.
 神馬征峰委員長(東京大学国際地域保健学教授)は「国民皆保険制度の実現に果たした地域保健の役割」と題して,国民皆保険は国際保健の最も熱いトピックであり,その実現の過程において,医療費自己負担分の窓口徴収に反対し,健康手帳と健康台帳を用いた健康教育へ舵(かじ)を切った長野県旧八千穂村の例を紹介.国民皆保険はトップダウン式に実現するのではなく,草の根レベルの地域保健活動によって支えられているとした.
 中村安秀委員(大阪大学大学院人間科学研究科教授)は,「母子保健 世界に広がり,世界から学ぶ,母子手帳」と題して講演.日本独自の母子健康手帳は,妊娠,出産,子どもの健康の記録が一冊にまとめられていることで,異なる時期に異なる専門職によって行われる一連の母子保健サービスが分かりやすく,戦後の乳児死亡率の飛躍的改善に貢献したことを強調.現在,三十カ国以上で採用されているが,諸外国でのアイデアを日本の手帳に反映させるなど,互いに学び合うことが重要であるとした.
 近藤尚己委員(東京大学保健社会行動学分野准教授)は,「日本はなぜ健康になったか? 地域社会の取り組みと国の政策の貢献」と題して講演.平均寿命は,戦後の感染症対策,高度経済成長期の脳卒中等の慢性疾患対策など,段階を経て改善してきたが,今後も喫煙と高血圧の問題を克服することで更なる長寿を目指せるとし,多様な社会経済的背景を踏まえ,対策のターゲットを絞り込むためのデータ収集・分析が重要であるとした.
 山本太郎委員(長崎大学熱帯医学研究所教授)は「ポスト二〇一五─現代的課題 肥満を例に」と題して講演.肥満は,先進国の生活習慣病としてだけではなく,途上国でも栄養失調の隠れみのとして増加し,共通の課題となっていることを指摘し,現在,世界で五人に一人が過剰体重であり,環境に応じた対応が求められるとした.
 その後,パネルディスカッションが行われ,政府と地域での取り組みを融合させ,優れた医療保険制度を構築してきた日本の経験を世界に発信していく意義が強調されるとともに,そこで生じた課題を克服していくことの必要性が論じられた.
 ライシュ教授は,武見プログラムの前提は,一人ひとりの成長が組織,地域,国,そして世界の成長へと段階的につながることにあるが,今日の講演を聞いてそれが成功していることを実感したと述べた.
 最後に,久史麿日本医学会長の閉会のあいさつで会は終了となった.
 このほか,本記念シンポジウムの関連イベントとして,十一月二十二〜二十四日の三日間,日医と東洋文庫の共催で「幕末から明治初期の医学関係文書・日本医師会の国際活動に関する展示会」が開催された.
 「武見国際保健プログラム」設立30周年記念シンポジウム【H25.12.21産経新聞掲載】

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