日医ニュース
日医ニュース目次 第1258号(平成26年2月5日)

小森常任理事に聞く
地域住民の生命・健康を守るためにも特措法に基づく特定接種に登録を

 今号では,新型インフルエンザ等特別措置法(以下特措法)の規定の意味や特定接種に対する日医の考え方について,小森貴常任理事に解説してもらった.

小森常任理事に聞く/地域住民の生命・健康を守るためにも特措法に基づく特定接種に登録を(写真)Q1 特措法を定めた意義は.

A1:2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の世界的な感染拡大の際には,医療現場は症例定義の度重なる変更,接種体制(個別接種)と供給バイアル容量(10ml)の不整合,接種回数の変更,情報の錯綜などで,混乱を余儀なくされました.
 この経験を踏まえ,特措法の審議に当たっては,日医として地域医療提供体制の充実,医療関係者への補償や,予防接種の枠組みづくりなどについて,より適切な対応がとれるよう国に求めてきました.
 特措法は,2012年5月に公布され,昨年3月の中国での鳥インフルエンザA(H7N9)の発生を受け,4月に同法が施行されたわけですが,新型インフルエンザ等の対策を強化し,国民の生命や健康を保護すること,そして国民生活,国民経済への影響を最小とすることを目的としています.

Q2 新型インフルエンザ等対策の「等」とは何を指すのですか.

A2:特措法第2条の1項では,感染症法第6条第7項に示す新型インフルエンザ及び再興型インフルエンザに加え,同条第9項に規定する新感染症のうち全国的かつ急速なまん延の恐れのあるものとしています.
 新型インフルエンザ及び新感染症のうち特措法の対象となるものをカバーし,法的な対処が出来るようにしているのです.

Q3 特措法第31条(都道府県知事が医師や医療関係者に対して,新型インフルエンザ等の患者に対する医療の提供を要請,指示が出来る)の要請や指示に従わなかった際には罰則があるのですか?

A3:特措法第63条では,新型インフルエンザ等の診療によって自らが感染してしまった際の補償について規定されていますが,これは,かねてより各都道府県医師会等からご要望頂いていた事項で,特措法制定に際して,日医も強く主張してきたことです.
 医療関係者に対する従事の要請や指示は,この補償制度を担保するための規定でもありますが,この規定に従わなかった際の罰則はありません.

Q4 この要請や指示は,具体的にはどのようなケースを想定しているのですか.

A4:例えば,地域において一定数の医療機関が診療を停止せざるを得なくなり,当該地域の新型インフルエンザ等の患者が医療の提供を受けられなくなったため,医師等の派遣を要請する場合などが考えられます.
 すなわち,通常の協力依頼のみでは医療の確保が出来ないような場合に,都道府県知事が場所や期間等を具体的に示して出すものであり,謙抑的に行われるべきものと考えています.

Q5 国は,プレパンデミックワクチンの備蓄をしていると聞きますが,その有効性や安全性は?

A5:厚生労働省は,医療従事者及び社会機能の維持に関わる者に対し,感染対策の一つとして,プレパンデミックワクチンの接種を行うこととし,その原液の製造・備蓄をしています.
 現在,鳥インフルエンザA(H5N1)の3種類のワクチンをそれぞれ約1,000万人分備蓄していますが,これらのワクチンは安全性・免疫原性,交叉免疫性について研究・検証されており,一定の安全性,有効性は担保されているものと考えます.ただ,H5N1型のインフルエンザが発生し,ヒト─ヒト感染が拡大したとしても,ウイルスの抗原性等が変化している可能性もあり,その場合には必ずしも効果が十分とは言い切れません.
 一方,パンデミックワクチンについては,実際に新型インフルエンザ等の感染症が発生した際に,そのウイルスからワクチンをつくるので効果はより高いと考えられます.その際にも一定数の臨床試験を行い,安全性等が確認された上で接種されることになります.
 現在,厚労省もワクチン製造用のウイルス株が決定されてから6カ月以内に全国民分のパンデミックワクチンを国内で製造出来る体制の構築を目指し,細胞培養法等の新しいワクチン製造法や,経鼻粘膜ワクチン等の新しい投与方法等の研究・開発を促進している状況にあります.
 併せて,パンデミックワクチンの有効性・安全性・交差反応性等についての研究を推進しているところです.

Q6 特定接種とはどのような意味ですか.

A6:特措法第28条では,新型インフルエンザ等が発生した場合に,医療の提供または国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者の従業員や,新型インフルエンザ等対策の実施に携わる公務員に対して行う予防接種を特定接種としています.すなわち,新型インフルエンザ等が発生した際に,国民の生命・健康を守る立場にある医療関係者,社会機能を維持するための事業に従事する者に対し,小児や妊婦,高齢者などのハイリスク者を含む全国民を対象として実施する「住民接種」に先んじて行うものです.

Q7 現在,特定接種のために医療従事者の事前登録が行われていますが,日医のスタンスは.

A7:2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の際には,国内感染が拡大し,大きな混乱がある中で,地域の医療機関には懸命のご努力を頂き,幸いにも感染による死亡率は世界的にも最も少ない数ですみ,国際的にも高い評価を受けました.
 しかし,医師を始めとした医療関係者は,感染のリスクが最も高いわけですから,ご自身のリスクを回避するとともに,医療の提供を維持することで,地域住民の方々の生命・健康を守って頂くことが求められます.
 そのため,診療科にかかわらず,より多くの医療関係者に特定接種を受けて頂きたいと考えており,現在登録をお願いしているところです.

Q8 特定接種の費用について教えて下さい.

A8:特措法第28条では,国の危機管理対策という視点から,国の負担ということになっています.
 しかし,現時点では特定接種の費用の具体的な範囲は詳細に示されておらず,日医としては,技術料を含めた適切な接種費用の設定と当該費用の全額国庫負担を引き続き国に求めていきたいと思います.

Q9 特定接種で健康被害が生じた場合の補償はあるのですか.

A9:特定接種は,予防接種法第6条第1項に基づく臨時接種として実施するため,予防接種法第15条に基づく健康被害救済制度の対象となります.

Q10 特定接種に関して医療従事者の登録はいつまでに行う必要がありますか.

A10:医療従事者の登録は都道府県を通じて現在行われていますが,各都道府県がこれを取りまとめ,3月20日までに厚労省に登録申請を行うこととしています.
 もし,この時期を過ぎてしまった場合でも,平成26年度中を目途にWEB登録システムによる登録が開始される予定ですので,その際に実施して頂くことも可能です.この登録は,医療機関のパソコン以外からでも行うことが出来ますので,より多くの医療機関にご協力を頂くことを重ねてお願い申し上げる次第です.

おわりに

 今回,特措法に関して多岐にわたるご質問を各都道府県医師会から数多く頂きましたが紙面の都合上,その全てにお答えすることは出来ませんでした.別途,各都道府県医師会には情報提供するとともに,今後も情報の共有に努めて参る所存ですので,より一層のご理解・ご協力をお願いいたします.

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