日医ニュース
日医ニュース目次 第1275号(平成26年10月20日)

勤務医のひろば

臨床医の直感を磨く
昭和大学病院血液内科教授 中牧 剛

 二〇一四年七月号の『Nature Genetics』に,赤血球産生に際し骨髄赤芽球より産生され,肝臓でのヘプシジン産生を抑制する因子が報告された.
 著者らはこれをerythroferroneと命名した.赤血球造血と鉄代謝を結ぶ重要な分子がまた一つ明らかとなった.
 この論文は私自身に,臨床医の持つべき姿勢を改めて振り返らせた.
 私は一九八一年に血液内科医を志し,昭和大学第二内科に入局した.主宰する清水盈行教授の研究テーマはceruloplasmin(CP)であり,この銅結合蛋白をめぐる(1)貧血・赤血球造血と(2)鉄代謝の研究─は他の研究室のそれとは一線を画していた.
 当時,私自身,この研究のもつ意味をにわかには理解できなかった.しかし,この両者をつなぐ分子及び分子機構が二〇〇〇年以降,次々と明らかとなる.この過程で鉄代謝におけるCPの重要性もまた分子レベルで明らかとなった.
 臨床検査としてのerythropoietinもferritinの測定法も確立していない時代に造血と鉄代謝を結ぶ重要なスキームを清水教授は予見(むしろ直感と呼ぶのがふさわしい)していたのだと思う.
 大学病院の医局は,今や負の遺産の代名詞となり,教授の姓を冠する呼称はおろか,その研究内容でさえも強い個性には否定的である.高度な研究技術を必要とする基礎研究は既に臨床医から遠く離れた存在であり,EBM(evidence-based medicine)やガイドラインを構築するための臨床研究こそが求められるという.
 医学研究における臨床医の役割とは何か? 私達臨床医は,今,あまりにも子細な研究データや受け止め切れないほどの膨大な情報に押しつぶされてはいないか.
 共に苦闘する一人の患者から素直に学ぼうとした時に,ゲノム解析からだけでは描き得ない,重要で大きなスキームを臨床医は直感できるのではないか.
 清水教授の足元には遠く及ばないとしても,日々の臨床を通じ,一人の内科医としてその糸口に気づく瞬間を見逃さない努力を続けていきたいと思う.

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