日医ニュース
日医ニュース目次 第1285号(平成27年3月20日)

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感染症発生動向調査と感染症危機管理
国立感染症研究所感染症疫学センター第一室室長 松井珠乃

感染症発生動向調査とは?

 感染症発生動向調査は,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が平成十一年四月から施行されたことに伴い,感染症の発生情報の正確な把握と分析,その結果の国民や医療関係者への的確な提供・公開について,同法第三章(第十二条〜第十六条)による施策として実施されている.
 感染症発生動向調査においては,全数把握対象疾患,定点把握対象疾患が定められており,当該疾病を診断した医師には届け出義務が課せられている.
 感染症発生動向調査を通じて得られた患者情報・病原体情報は,地方感染症情報センターや中央感染症情報センター(国立感染症研究所感染症疫学センター)により,速やかに集計され, 週報・月報等として公表されている.
 感染症発生動向調査は,対象疾患のトレンドを理解したり,集団発生を探知することにより,適切な対応につなげるための重要なツールである.

感染症危機管理の仕組み

 国立感染症研究所には,感染症を含む健康危機管理対応ができる人材を養成するためのプログラムである実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program:FETP)が設置されており,地方自治体,大学,各種機関等より毎年若干名の人材を受け入れ,二年間のon-the-jobトレーニングを行っている.
 同コースの研修生は,感染症の集団発生などの健康危機事例が発生した折には,国立感染症研究所の職員と共に現地に赴き,事態終息のために地方自治体等への技術支援を行うこととなる.
 ちなみに,「感染症の集団発生」の定義としては,「通常のレベルを超える感染症の発生」若しくは「極めてまれな感染症の発生」という二つの定義が広く用いられている.
 「通常のレベルを超えているかどうか?」という判断のためには,感染症発生動向調査が良好に機能している必要があり,また,極めてまれな感染症の発生を捉えるためには,フロントラインにいる臨床医の慧眼(けいがん)と共に,確定診断を支援するための仕組みが重要である.

国際的な健康危機管理

 一方,世界に目を向けてみると,二〇〇三年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の手痛い経験を契機として,国際的な健康危機管理の仕組みが整備されることとなり,二〇〇五年には国際保健規則(IHR)が改正された.
 この改正では,各国が健康危機管理に十分な対応ができるためのキャパシティーを構築すること,また健康危機管理事例が発生した際の国際的な情報共有の仕組みを整備することが大きな柱となっている.
 二〇一三年に発生した中国における鳥インフルエンザA(H7N9)事例については,事例を探知して以降の中国政府の国際社会への情報共有の迅速さは,国際保健規則改正の成果として評価できる.

わが国のこれからの感染症危機管理

 二〇一四年夏には国内で約七十年振りとなるデング熱が発生し,一定数の患者が探知された後,終息を迎えた.
 また,前述の鳥インフルエンザA(H7N9)は中国国内で冬季に流行するパターンをとり始めており,主たる感染経路は,依然「トリ─ヒト」であるが,中国で曝露を受けた患者が日本国内で探知される可能性はゼロではない.
 加えて,西アフリカのギニア・リベリア・シエラレオネにおけるエボラ出血熱の流行に関しては,新規患者の増加は抑制傾向にあるとされるものの,依然として予断を許さない状況であり,国際社会からの更なる支援が求められているところである.
 このような状況に鑑み,診断・治療のフロントラインに立つ臨床医の感染症危機管理対応における役割は,ますます大きくなっていると感じている.
 感染症を含む健康危機管理を担う保健所等の行政組織と臨床医との更なる連携を構築するための積極的な取り組みと共に,臨床医の皆様には,感染症発生動向調査事業へのご協力も引き続きお願いしたい.

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