日医ニュース
日医ニュース目次 第1290号(平成27年6月5日)

横倉会長/平成27年度 第1回都道府県医師会長協議会
国民に安心を示すことは経済成長を取り戻すための出発点

 平成27年度第1回都道府県医師会長協議会が5月19日,日医会館小講堂で開催された.当日は,各都県医師会より寄せられた「地域医療構想」に関する質問等に対して,担当役員から回答を行った他,日医から6つの事項について報告し,協力を求めた.

横倉会長/平成27年度 第1回都道府県医師会長協議会/国民に安心を示すことは経済成長を取り戻すための出発点(写真) 今村定臣常任理事の司会で開会.冒頭あいさつした横倉義武会長は,まず,「第二十九回日本医学会総会二〇一五 関西」が盛会裏に終了できたことに感謝の意を表明した.
 その上で,財政制度等審議会財政制度分科会において医療・介護に関する制度改革・効率化の具体案等について議論がなされたことに触れ,「医療・介護は公共財であり,国民の生命・健康の保持増進に向けた国家的事業として最優先されるべきものである」とするとともに,「社会保障と経済の関係は相互作用の関係にあり,老後に不安を感じている国民に対して安心を示すことは,経済成長を取り戻すための出発点にもなる」と強調.国家財政が厳しい中で,二〇二五年に向けて,社会保障制度を維持していくためにも,日医は「国民の安全な医療に資する政策か」「公的医療保険による国民皆保険を堅持できる政策か」という二つの判断基準を基に今後も活動していくとし,更なる理解と協力を求めた.
 その他,同会長は,十月から開始される「医療事故調査制度」や各地域において策定の動きが加速している「地域医療構想」についても言及.
 「医療事故調査制度」については,医療安全の向上のためにも,医療界はもとより,患者・国民とも一体となって,本制度の更なる充実を図っていく意向を示すとともに,「地域医療構想」に関しては,「都道府県医師会が議論をリードし,医療者と患者,住民の声を十分に反映した構想としてもらいたい」と述べた.

協 議

(一)製薬会社からの「謝金」と医師の職業倫理に関して

 製薬会社からの「謝金」と医師の職業倫理に関する岡山県医師会の質問には,小森貴常任理事が,まず,「治験推進評価委員会」を設置し,利益相反について厳格な審査を行い,透明性の確保に努めている治験促進センターの取り組みを説明.臨床試験・治験をクリアした医薬品のPRに加担する医師のモラル上の問題点については,「販売促進を疑われる内容で,その医薬品等に関して発表を行うこと」「製薬企業等が販売促進を疑われる内容で,医薬品等開発に携わった医師に講演を依頼すること」等は,決して許されることではないとした.
 日医生涯教育講座のあり方に関しては,(1)本講座(セミナー)の主体は都道府県医師会であり,企画に関してもその意向は最大限尊重されていること(2)製薬企業側が定めたガイドラインよりもはるかに厳しい基準で運営を行っていること─などを改めて説明.今後も,高い倫理観と透明性を保ちながら,運営を行っていく意向を示した.

(二)地域医療構想による病床再編,医療費適正化計画の見直しの可能性について

 地域医療構想による病床再編,医療費適正化計画の見直しの可能性を問う山口県医師会からの質問には,釜萢敏常任理事が回答した.
 同常任理事は,「地域医療構想は,地域における病床機能別の将来の医療需要について,関係者の共通認識を醸成し,自主的にその方向への収斂(しゅうれん)を目指す仕組みであり,医療費適正化計画や診療報酬と直接リンクさせないことが本来の趣旨である」と改めて説明.
 今後については,国で行われるさまざまな検討の動きを注視していくとともに,新たに四病院団体協議会とワーキンググループを設置し,より具体的な医療提供体制の将来像を提言していく意向を表明.その上で,「医療費適正化計画は,地域医療構想を含む医療計画等と調和が保たれたものでなければならないこと」が,法律に明記されていることなどを示し,これからもこの仕組みを堅持していくとした.

(三)地域医療構想策定ガイドライン

 兵庫県医師会からの地域医療構想策定ガイドラインにおける構想区域ごとの医療需要の推計方法に対する疑義に関しては,釜萢常任理事が,例えば二〇〇二年から二〇一一年までの六十五歳から六十九歳までの入院受療率は,一九九九年と比較すると大幅に減少しているが,その要因は,(1)一般病床の平均在院日数が短縮されてきたこと(2)療養病床数が減少していること─があり,これらは国の政策によるものであることなどを説明.推計に当たって,二〇一三年の数値を用いた理由については,「このような傾向にある過去のデータから推計した受療率を基に二〇二五年の医療需要を予測してしまうと,国民にとって必要な医療体制が確保できなくなる可能性があったからであり,今後はその後の受療率の変化を注視しながら,必要な対応を取るべきであると考えている」と述べ,理解を求めた.

(四)厚生局が実施する指導における諸問題

 厚生局が実施する指導に関する諸問題に対する日医の見解を問う鳥取県医師会からの質問には,松本純一常任理事が,「集団的個別指導を受けた医療機関のうち,翌年度の実績でもなお高点数の医療機関が個別指導の対象となる問題」については,最優先で是正すべき問題であり,厚生労働省と協議を行っていると説明.
 具体的には,(1)個別指導を受けた医療機関が次回の個別指導の対象から除外できる規定(医療課長通知)を発動させる(2)基金支部,国保連,都道府県医師会の三者で情報を共有している中で,個別指導の対象とすべき医療機関を選定する(3)指導は都道府県単位ではなく,ブロック単位で考える(4)新規医療機関に対する個別指導で再指導になった場合,情報提供による個別指導と同じやり方で実施される現状を改める.また,これを実施するのであれば,新規個別指導もノルマ八千件にカウントすべき─などについて申し入れを行っているとして,理解を求めた.

(五)矯正施設の医師不在に関して

 秋田県医師会からの矯正施設の医師不足問題に対する質問には,今村常任理事が,法務省からの要請に基づき,矯正医官募集のお願いを都道府県医師会に送付したことなどを紹介し,「日医としても矯正医療の分野は,死体検案などと並ぶ,公益的な活動の一つとして,真剣に取り組むべき課題と認識している」と説明.特に,医師不足が深刻な施設,地域については,積極的な働き掛けを検討する意向を示すとともに,「矯正施設における医療を厚労省の所管に移すことも,今後の検討すべき課題の一つに挙げられるのではないか」と述べた.
 その上で,同常任理事は,「矯正施設内の医療の充実により,被収容者の健康を維持・向上させることは,出所後の円滑な社会復帰,ひいては再犯の防止にも重要な影響を及ぼす」として,その充実に引き続き真摯(しんし)に取り組む姿勢を示した.

(六)後発医薬品の質の担保について

 生活保護の医療扶助における後発医薬品の使用促進に関連して,後発医薬品の質の担保に対する日医の考えを問う東京都医師会の質問には,鈴木邦彦常任理事が回答した.
 同常任理事は,「生活保護における後発品の使用促進の対象はあくまでも処方医が後発品の使用を認めた場合のみである」とした上で,後発医薬品の使用促進がいわば国策となっている現状において,国民の不安,患者の安全・安心を守ることができるのは,我々医師のみであると指摘.不安を持っている患者や信頼性のない後発医薬品については,堂々と先発医薬品を処方して欲しいとした.
 更に,今後については,現場の先生方の裁量権を確保していくとともに,後発医薬品の質の担保を国に対し,より一層働き掛けていくとして,理解と協力を求めた.

(七)市販薬の店頭販売拡大と副作用に対する日医の考え方について

 一般用医薬品(市販薬)の副作用が疑われる死亡例が報告される中で,市販薬の店頭販売を拡大しようとする国の動きについて日医の見解を問う,鹿児島県医師会の質問には,鈴木常任理事が回答した.
 市販薬の店頭販売の拡大に関しては,「規制改革会議の意向を受けて,現在,厚労省において医療用医薬品から一般薬用への新たな転用スキームが検討されていることは事実であるが,当初案よりは,医師の意見を重視した形に変わってきている」と説明.特に,生活習慣病治療薬の市販薬への転用は絶対に認めることはできないとして,今後もその動向を注視していく意向を示した.
 市販薬の副作用の問題については,市販薬の危険性を国民に周知することが不可欠であり,厚労省に積極的な情報発信を要請していくとした他,「社会的な影響が懸念される市販薬については,今後もリスク区分を第一類とすること」「インターネット販売の適切な運用」などを求めていくとして,理解を求めた.
 引き続き,日医から(八)研修医会費減免(無料化)の実施,(九)医師資格証の普及,「日本医師会 赤ひげ大賞」(十)医療事故調査制度における支援団体の申請,(十一)医療事故調査制度に伴う院内調査費用保険の創設,(十二)医師主導による医療機器の開発・事業化支援─について説明を行い,協力を求めた(八)(十二)の内容は別記事参照〕
 (九)では,石川広己常任理事が,まず,医師資格証の普及に関して,地域受付審査局開設状況や医師資格証発行総数の推移について説明.
 その上で,今後については,(1)六月下旬にカードリーダーとソフトを都道府県医師会に一台ずつ配布予定であること(2)医師資格証で自分専用のホームページ(ポータルサイト)にログインすることで,受講履歴や単位の取得状況を確認できるようになること(3)コンピューターに電子署名専用のソフトをインストールせずに,クラウド上のシステムを使って電子署名するサービスを開始すること─などを紹介し,その普及への更なる協力を求めた.
 また,「日本医師会 赤ひげ大賞」に関しては,当日開催された平成二十七年度第二回理事会において,その実施が承認されたことを報告.「受賞者は都道府県医師会の推薦を基に決定しているので,ぜひ,推薦をお願いしたい」と述べた.
 (十)では,今村常任理事が,「院内調査の確実な実施のため,都道府県医師会・郡市区等医師会と共に取り組んでいきたいと考えており,都道府県医師会にはぜひ,医療事故調査等の支援団体となってもらいたい」と要請.具体的な支援の内容については,「医療事故調査制度全般に関する相談」「医療事故の判断に関する相談」「調査に関する支援等」があるとした他,厚労省への申出は日医が一括して行うこと等を説明した.
 (十一)では,「医療事故調査制度」の下で,院内事故調査の実施にかかった費用を補償するため,「日本医師会院内調査費用保険」を創設することを報告.
 保険の対象者は日医A(1)会員のうち,全ての診療所と,九十九床以下の病院の開設者及び管理者とする等,その概要等を説明した上で,保険会社と更に詳細を詰め,五月二十九日開催の都道府県医師会医療事故調査制度担当理事連絡協議会で改めて報告したいとした.

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