日医ニュース
日医ニュース目次 第1291号(平成27年6月20日)

第4回日本医療小説大賞 授賞式
上橋菜穂子氏の『鹿の王』が受賞

第4回日本医療小説大賞 授賞式/上橋菜穂子氏の『鹿の王』が受賞(写真) 第四回日本医療小説大賞(日医主催,厚生労働省後援,新潮社協力)の授賞式が五月二十八日,都内で開催され,日医からは,横倉義武会長,今村聡・松原謙二両副会長,小森貴・石川広己両常任理事が出席した.
 本賞は,国民の医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰することで,医療関係者と国民との,より良い信頼関係の構築を図り,日本の医療に対する国民の理解と共感を得るとともに,わが国の活字文化の推進に寄与することを目的として,平成二十三年度に創設したものであり,今回が四回目となる.
 対象は,医療をテーマにした小説,あるいは医療を素材として扱っている小説(ノンフィクションは除く)で,平成二十六年一月一日から十二月三十一日までに書籍化されたものとし,本年三月二十六日に三名の選考委員(海堂尊氏,篠田節子氏,久間十義氏)により行われた選考会で受賞作品を決定した.
授賞式当日に朝日新聞全国版に
掲載した横倉会長と上橋氏の対談
 今回受賞した上橋菜穂子氏の『鹿の王』は,オーストラリアの先住民族・アボリジニを研究する文化人類学者で数々の異世界物語の作家でもある上橋氏が,これまでの執筆活動の中で人間の身体,免疫や細菌に対する興味を持ったことをきっかけとして描かれた,緻密(ちみつ)な医療サスペンスにして,壮大なる冒険小説となっている.
 授賞式では,まず,主催者を代表して横倉会長があいさつを行い,「医療とは,医師と患者との信頼に基づく協働作業であるが,医師の懸命な努力にもかかわらず,その作業と結果には不確実性が伴うことも事実である.こうした点についても国民の皆さんに理解して頂くことで,更なる信頼関係の構築につながるものと確信している」とするとともに,受賞作品が一人でも多くの国民に親しまれる中で,本賞が医療に対する国民の理解と共感を得られる一助となることに期待を寄せた.
 続いて,選考委員を代表してあいさつした久間氏は,「今年は候補作が粒ぞろいで,読んでいて楽しかった」と選考を振り返った上で,本作品を推した理由について,「異世界物語でありながら,現実世界における医療のあり方や,病に立ち向かう人々の今日的な活動を喚起させており,本賞にふさわしいと感じた.本作品が受賞したことで,『日本医療小説大賞』がより広く国民に認知されたのではないか」と講評を述べた.
 引き続き,賞の贈呈に移り,横倉会長より上橋氏に賞状並びに副賞の授与が行われた.
 受賞者のあいさつで上橋氏は,本作品の執筆経緯について,ウイルスや免疫が人間の体内でせめぎ合うことで,生かされたり,死んでしまったりする不思議さが,文化人類学者として長年研究してきた多民族国家,多民族社会で成り立つ現実世界の多様性と重なり,本作品へとつながったと説明.更に,上橋氏は,「いのちを考える時,人間が他者のいのちを救うために必死になり,他者に診てもらうことでいのちが支えられる.一人では成り立ち得ないいのちが,人と人の間に医療があることで支えられる可能性があるということを伝えたかった」と,本作品への思いを述べるとともに,「医学に関しては全くの素人であり,本作品が本賞に値すると認めて頂いたことに深く感謝している」と,受賞の喜びを語った.

第4回日本医療小説大賞 授賞式/上橋菜穂子氏の『鹿の王』が受賞(写真)上橋 菜穂子(うえはし なほこ) 氏

 作家・川村学園女子大学特任教授.文化人類学専攻,オーストラリアの先住民アボリジニを研究.

 1989年,『精霊の木』で作家デビュー.著書に,野間児童文芸新人賞,産経児童出版文化賞(ニッポン放送賞)を受賞した『精霊の守り人』を始めとする「守り人」シリーズ,野間児童文芸賞を受賞した『狐笛のかなた』,「獣の奏者」シリーズなどがある.海外での評価も高く,2009年に英語版『精霊の守り人』で米国バチェルダー賞を受賞.2014年に“児童文学のノーベル賞”と称される国際アンデルセン賞《作家賞》を受賞した他,『鹿の王』は2015年本屋大賞も受賞している.


日本医療小説大賞 これまでの受賞作品
作品名 著者
第1回 『蝿の帝国 軍医たちの黙示録』(上)
『蛍の航跡 軍医たちの黙示録』(下)
帚木 蓬生
(ははきぎ ほうせい)
第2回 受賞作品なし
第3回 『悪医』 久坂部 羊
(くさかべ よう)

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